スペシャル対談:『花とアリス殺人事件』岩井俊二監督 <前編>

八雲ふみね

はじめましての方もそうでない方もこんにちは。

八雲ふみねの What a Fantastics! ~ 映画にまつわるアレコレ ~ Vol.10

今回は、「いま、八雲ふみねが会いたい人」と映画にまつわるアレコレをお届けするスペシャル対談。

スペシャル第2弾のゲストは、岩井俊二さん。

岩井俊二

映画『Love Letter』『スワロウテイル』『ヴァンパイア』の監督、東日本大震災復興チャリティーソング「花は咲く」の作詞を手がけるなど、ボーダレスに活躍中。
現在、『花とアリス殺人事件』が絶賛公開中。
11年の歳月を経てようやく完成した本作について、アレコレ伺いました。


花とアリス殺人事件

『花とアリス殺人事件』は、2004年に岩井俊二監督が原作・脚本・監督を務めた『花とアリス』の前日譚となる作品。
石ノ森学園中学校へ転校してきた中学3年生のアリスこと有栖川徹子(声・蒼井優)は、1年前に起こった「ユダが、4人のユダに殺された」という奇妙な事件の噂話を耳にする。「花屋敷」と呼ばれるアリスの隣家に住むハナという人物がユダについて詳しいはずだと教えられたアリスは、花屋敷に忍び込み、不登校のクラスメイト・荒井花(声・鈴木杏)と出会う…。
花とアリス。ふたりの少女の出会いと冒険のエピソードが、瑞々しいアニメーションで描かれています。

前作に依存することなく成立させた「エピソード0(ゼロ)」の世界

岩井俊二

八雲ふみね(以下、八雲):『花とアリス殺人事件』ようやく劇場公開されました。いまのお気持ちは?

岩井俊二(以下、岩井):おかげさまで、観て下さった方からは良い反応をいただいてるようで、少しホッとしています。ほんの1、2週間前までは失踪しようかと思うぐらい、絶望的な気持ちでいたので(笑)。

八雲:(笑)。完成披露試写会を迎えるその日まで、修正してらっしゃいましたものね。

岩井:大変でしたね。よくここまでやったな、と。

八雲:最後の最後までこだわって作業してらっしゃる姿がすごいなと思ってました。「これでいけるな」というラインが見えたのは、いつ頃だったんですか?

岩井:正直、関係者が「良かった!」「面白かった!」と言ってると聞いても、自分ではピンときてない感じで。実は随分長い間、コマの修正作業ばかりやってたから、僕自身も全編を通して観たのは、ここ最近なんですよ。考えてみたら、1年ぐらいストーリーとは向き合ってなかったんですよね。それで改めて「あ、こういう話だったのか」と。

八雲:本作の脚本は10年前に完成していたとのことですが、最初からアニメにする構想だったんですか?

岩井俊二

岩井:そうですね。というのは、当初は二人の小学校時代を描こうと思ってたんですよ。なんとなく、花とアリスが出会ったのは小学生の時だというイメージがあって。それなら、蒼井優も鈴木杏も声の出演でいけるかなって。
でもアニメって作ったことがないから、作り方が分からない。で、ジブリの鈴木敏夫プロデューサーのところに行って「アニメってどうやって作ったらいいんですか」って、質問するところから始まって…。
企画が立ち消えになりかかっていた時期もあったのですが、石井朋彦プロデューサーに出会ったことで状況が一変しました。石井さんはアニメにおける3DCGの技術を発展させたいという思いのある人で、その手法が「花とアリス」の世界に合うんじゃないかと。「是非、一緒にやりましょう」と、プロジェクトが動き出したんです。

八雲:最初に実写での撮影も行ったとのことですが…。

岩井:「ロトスコープ」と呼ばれる手法で、まず実写映像を撮影し、それをなぞる形でアニメーション映像にしていくんです。今回は、3DCGとロトスコープを組み合わせて制作しました。

八雲:蒼井優さん、鈴木杏さんはもちろん、ファンの方々も、まさかこのタイミングで花とアリスの二人に再会出来るとは思ってもみなかったでしょうね。

岩井:そうでしょうね。この作品を懐かしいと観るのか、どういう感覚で観るのか。自分でも計り知れないものがあるんですけど…。前作に依存することなく、いかに作品として「エピソード0(ゼロ)」として成立させるか。それが本作を制作するうえでのテーマでもありましたから。
逆に言うと、「エピソード0(ゼロ)」だからやりやすかった。前の作品を引きずらなくていいので。そういう意味では、独自の路線を貫けたかなと思います。

八雲:前作を知らなくても、充分楽しめますものね。

岩井:そうですね。しかも「殺人事件」と、テーマがちょっと物騒で。そもそも前作よりも手前の時間軸で、殺人事件が起こりえるのかなって。

八雲:そうか。殺人事件が起こってたのに、何もなかったかのように花とアリスが一緒にいられるのかどうか。そう考えると面白いですね。

岩井:果たしてそんな無茶が成立するのかというのが、脚本を書くうえで、自分の中での大きなパズルでした。

岩井作品の住人たちの意外な共通点

岩井俊二

八雲:例えば自分の中学生時代を振り返ってみると、当時は些細な出来事でも自分たちにとっては大事件だったなぁ〜と。それこそ例えるならば「殺人事件」に匹敵するぐらいの大事件で…。大人になった今ならスルーしてしまうようなことでも、真剣に深刻に捉えて、大騒ぎしたり傷ついたり。本作を観ながら、そんなことを思い出しました。

岩井:この映画の中では一見コミカルに描かれてますけど、陸奥睦美という女の子は、いじめから脱却するために壮大なひと芝居を打ち、いまだにその芝居を続けているという結構深刻な問題を抱えているキャラクターなんですよね。でもそういったことも、ある種、笑い飛ばせるようなエピソードにすることで「気持ちの割り切り方のヒント」っていうのかな。

八雲:肩の荷を下ろすようなことですか?

岩井:日本人はともすると、深刻に考えがちな傾向があるような気がして。人間関係の息苦しさや生き辛さを感じていても、逃れようがなく、諦めている人も多いと思うんですよ。実は、僕の作品世界で生きている人たちって、みんなどこかはみ出していて。
ドラマ「なぞの転校生」(2014年 プロデュース・脚本)もそうでしたけど、友情を描くにしても“寄生の塊”の中での友情よりも、その枠の外に飛び出して自立している人たちの生きざまだったり友情だったりを描きたい。
それはもっと以前の作品、例えば『リリイ・シュシュのすべて』でも同じなんですよね。どこかアウトローな人間ばかり描いていて、どの作品を振り返っても、自分の作品世界で共通している登場人物像だと思うんです。
じゃあ何故、アウトローな人物を描くのか。この世の中、本当にアウトローでいられる人って少ないと思うんですよね。昔から西部劇なんかで、“さすらいの風来坊”みたいなキャラクターが出てくるじゃないですか。

八雲:「こんな風に生きることが出来ればいいな」と、観客はどこかで自分自身を重ね合わせて観るんでしょうね。

岩井;集団の中にいて何かに押しつぶされそうになった時、その大変な部分にだけ焦点を当てて深刻にならなくてもいいんじゃないのかなって。なにかしら闇や苦しみを背負ってる人でも、花やアリスと出会うことで、元気に問題を解決する。そんなヒントを見つけるきっかけになればいいなという思いが込められているんです。

後編に、つづく。

岩井俊二


スペシャル対談:『花とアリス殺人事件』岩井俊二監督。

次回<後編>は、アニメーションという表現方法について、アレコレ迫ります。
どうぞお楽しみに。


岩井俊二

岩井俊二
1963 年、宮城県仙台市生まれ。『Love Letter』(1995年)で映画監督としてのキャリアをスタート後、数々の作品を発表。
代表作に『スワロウテイル』(1996年)、『リリイ・シュシュのすべ て』(2001年)、『花とアリス』(2004年)、『New York, I Love You』(2010年)、『ヴァンパイア』(2012年)など多数。
同年、NHK『明日へ』復興支援ソング「花は咲く」の作詞を手がけ「岩谷時子賞特別賞」を受賞。
2013 年、音楽ユニット「ヘクとパスカル」を結成。
2014年1月クールのテレビ東京ドラマ24『なぞの転校生』では脚本・プロデュースとして連続ドラマに初挑戦。
その独特な映像は「岩井美学」と称され、注目を浴びている。

花とアリス殺人事件

花とアリス殺人事件
監督・原作・脚本・製作・企画・プロデュース・音楽:岩井俊二
声の出演:蒼井優、鈴木杏、勝地涼、黒木華、木村多江、平泉成、相田翔子、鈴木蘭々、郭智博、キムラ緑子
©花とアリス殺人事件製作委員会

・『花とアリス殺人事件』公式サイト

八雲ふみね fumine yakumo

八雲ふみね大阪市出身。映画コメンテーター・エッセイスト。
映画に特化した番組を中心に、レギュラーパーソナリティ経験多数。
機転の利いたテンポあるトークが好評で、映画関連イベントを中心に司会者としてもおなじみ。
「シネマズ by 松竹」では、ティーチイン試写会シリーズのナビゲーターも務めている。

八雲ふみね公式サイト yakumox.com

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