『残穢』を見ながら思いだした ハウス・ホラー映画のいくつか

■「キネマニア共和国」

残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―
「今住んでいる部屋で奇妙な音がするんです」

そんな一通の手紙が小説家の許に届いたことから始まる『残穢―住んではいけない部屋―』は、ご想像の通り、家に憑いたものたちの恐怖を、あたかも歴史を紐解くかのようにレポートしていく、ちょっと変わった趣向のホラー映画ですが……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~》

やはりこういった題材、不変的なものがあるようです……。

家が人間を喰らう
日米“HOUSE”合戦

ホラー映画の中でも、住んではいけない部屋、もしくは家に住んでしまったがゆえにもたらされる恐怖を描いた、いわゆるハウス・ホラー(そんな言葉あったか?)とでもいった作品は、それこそ霊が顕れるという屋敷を舞台に、大富豪の遺産をめぐって欲と恐怖のドラマが繰り広げられる怪奇スリラー・サイレント映画『猫とカナリヤ』(27)のあたりまで遡りますが、私などの世代が真っ先に思いだすのが、そのものずばりダン・カーティス監督の『家』(76)で、ここでは避暑でニューイングランドの古い豪邸を訪れた家族の面々が、次第に変調をきたすようになり、やがて……と、実は家そのものが人間を喰らう異形の存在であるという恐怖を描いたものでしたが、実際に映画を見ると、家よりもそこに住まう家族の奥さん(『エアポート75』などの名優カレン・ブラック)のある形相が一番怖いという、恐るべき(?)作品でもありました。

実は同時期、日本でも偶然に同じ趣向の作品が発表されました。大林宣彦監督の商業映画デビュー作『HOUSE ハウス』(77)です。こちらは夏休みにヒロインのおばちゃまの屋敷を訪れた女の子たちが、家の中のピアノや鏡、井戸、布団などによってどんどん食べられていく恐怖を、まるでオモチャ箱をひっくり返したようなポップ&カラフル、時に純日本風の情緒で描出していくという、美しくも哀しい大胆不敵な作品であり、あからさまに特撮合成とわかる人食い描写の仕掛けの数々も楽しく、しかしながら、その少女たちの阿鼻叫喚の背景に、かつての忌まわしき戦争の記憶を置いているあたりは、最近も『野のなななのか』など戦争の危機を訴えるジャーナリスティックな作品を発表し続ける大林監督ならではのものともいえる作品です。最近は海外で日本ならではのカルト映画として海外でも評判となり、アメリカではブルーレイも発売されました。

『たたり』と『ヘルハウス』
家憑きの霊を調査する二大傑作

『残穢』のような研究レポート的に、家に憑いた霊を科学的に調査しようとする一行の恐怖を描いた作品としては、ロバート・ワイズ監督の『たたり』(63)があります。
怪奇現象が起きるというニューイングランドの古屋敷を訪れた科学者一行が体験する恐怖をモノクロ映像を駆使して淡々とミステリアスに描き、その後のホラー映画の作り手たちに今なお多大な影響を与え続けている、この手のホラー映画のトップと呼びたいほどの傑作であります(年には『ホーンティング』としてカラー・リメイクされていますが、こちらは一転して特撮ショーのようなにぎやかな映画でした)。

実はもう1本、これと同じレベルの傑作があります。
ジョン・ハフ監督の『ヘルハウス』(74)。こちらはリチャード・マシスンの『地獄の家』を原作に、地獄邸と呼ばれる古屋敷を調査する者たちに襲いかかる恐怖を描いたものですが、ユニークなのは科学者と霊媒師、いわば相反する立場の者たちがチームを組まされている点で、これによって屋敷の怪奇現象はオカルト的なものなのか、科学的根拠で証明できる類のものなのかといったスリルが生まれるとともに、パメラ・フランクリン扮する霊媒師の聖なる要素がエロティックに蹂躙されていくさままで妖艶に描かれていました。

夫がおかしくなって、妻が絶叫する⁉
家憑きホラーのひとつのパターン

キング・オブ・ホラーことスティーヴン・キングの同名小説を原作に、巨匠スタンリー・キューブリック監督が手掛けた『シャイニング』(81)は、冬の間は閉鎖されるホテルの管理人として赴いた一家の主が、やがて精神に異常をきたしていき、家族の者たちに襲いかかっていくものですが、それが霊の仕業なのか、実は雪に閉ざされた環境下のストレスでおかしくなっていったのかとも思わせるあたりが妙味で、こちらもまた夫ジャック・ニコルソンのイッちゃった表情もさながら、妻シェリー・デュヴァルの絶叫フェイスそのものが一番怖いと唸らされた作品でした。

実話というフレコミの映画化ということでは、スチュアート・ローゼンバーグ監督の『悪魔の棲む家』(79)があります。
74年のロングアイランドで実際に起きたという怪奇現象をモチーフにしたノンフィクション小説(?)の映画化で、悪霊が棲む家とも知らずに引っ越してきた一家が次々と不気味な出来事に見舞われ、やがて亭主が……というストーリーもさながら、こういったハウス・ホラーものでおかしくなっていくのはいつも夫であり、それに対して妻が恐るべき苦悶の表情を浮かべるというのはひとつのパターンなのかもしれません。ここではジェームズ・ブローリン=夫、マーゴット・キダー=妻。悪霊が楽し気に戯れているかのようなラロ・シフリンの音楽も絶妙。こちらはシリーズ化され(日本では劇場未公開)、また2005年にはリメイクもされています。

日本映画界におけるキング・オブ・ホラーともいえる鶴田法男監督の出世作でもあるオリジナルビデオ『ほんとにあった怖い話』シリーズ(91~92)の中で、特に黒沢清や清水崇など、後のJ・ホラーの担い手たちに多大な影響を与えたとされているのが『ほんとにあった怖い話 第二夜』(91)に収められた『霊のうごめく家』で、これは借家に越してきた一家が心霊現象に見舞われていく様を淡々と描いたものですが、ここでのスタイルが基軸となって世界にとどろくJ・ホラー・ブームの礎を築いたといっても過言ではありません。

……などと、つらつら書きつらねていたら、今、急にパソコンの画面が家探しの広告に変わってしまいました。

何だか怖くなってきたので、もうこのあたりでやめておこうと思います。

『残穢―住んではいけない部屋―』は1月30日全国公開です。

みなさん、お部屋探しには気をつけましょう……。

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(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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