海辺の町はなぜ腐る?欲望はなぜ迷う?拷問劇場はなぜ客席を笑わせる?

金曜映画ナビ

外は息が白い。部屋は暖かい。
なのに、背中だけが冷える──その瞬間が、冬ホラーの醍醐味です。

今回の「真冬のホラー特集」で紹介したいのは、1970年代に生まれ、長いあいだ“危険で、奇妙で、忘れがたい”という評判だけが先に走ってきた3本。
いずれも日本では「ホラー秘宝まつり2024」で2024年8月30日に劇場初公開され、国内ソフト化も進んだ作品群です。

ラインナップは公開(製作)年順に、
『デリリウム』(1972)→『メサイア・オブ・デッド』(1973)→『悪魔のしたたり』(1976)

ここから先は、あなたの“快適な部屋”を、じわりと不穏にしていきます。


1)『デリリウム』(1972)——欲望が迷子になる、エロティック・ジャッロの暗黒

©1972 G.R.P. CINEMATOGRAFICA

イタリア産のスリラー(ジャッロ)で、監督はレナート・ポルセッリ
主演はミッキー・ハージティ。原題は『Delirio caldo』。
“フェティシズム/SM/レズビアン要素”をうたうほど、官能と暴力がねじれた一本です。

物語の核はシンプルです。
犯罪心理学者の男が、ふとした出会いをきっかけに衝動的な殺人へ踏み込み、疑いが迫るなかで妻までもが“守るために”手を汚していく。
善悪の境界が崩れ、夫婦という密室が、いつのまにか迷宮になる。

©1972 G.R.P. CINEMATOGRAFICA

面白い(そして厄介な)事実として、この映画は英語吹替版とイタリア語版で内容が大きく異なることが知られています。
イタリア語版にはない“戦争(ベトナム)トラウマ”の説明が英語版では付け足されるなど、同じタイトルでも印象が変わりうる。
つまり『デリリウム』は、筋を追うほどに「説明のための説明」ではなく、説明そのものが狂気を呼び込む映画でもあるのです。

鑑賞メモ:国内ではPG12表記。
“エロス×犯罪×妄想”の温度が高いので、真冬に観ると体感がバグります。


2)『メサイア・オブ・デッド』(1973)——海辺の町に、夜だけが増殖する

©A V/M Production. All Rights Reserved.

便りが途絶えた父を探し、娘が海辺の町へ向かう。
そこは静かで、空気が薄く、住人の視線だけが濃い。
彼女は父の残した記録から、町を覆う異様な気配の正体に近づいていきます。

監督名がウィラード・ハイク表記中心ですが、本作は実際にはグロリア・カッツ&ウィラード・ハイクの共同監督・共同脚本としてクレジットされることが多い作品です。
(※製作年は1973表記が一般的。一方で初公開時期は諸説あり、深夜上映などを経て1974〜75年にかけて劇場展開された旨の記録もあります。 )

©A V/M Production. All Rights Reserved.

この映画の怖さは、派手な脅かしよりも、“町そのものが夢のように腐っていく”感触にあります。構図と色彩が凝っていて、絵画のように美しいのに、画面の隅から不吉がにじむ。国内Blu-ray紹介文でも「凝った構図と色彩」「終始不穏なムード」と強調されるほどです。

ゾンビ映画の系譜に置ける一方で、肌ざわりはむしろ“アート寄りの悪夢”。
冬の夜、窓の外が暗いほど、海風の幻聴が聞こえてきます。


3)『悪魔のしたたり』(1976)——見世物小屋は笑う。客席が吐くまで。

 ©Troma Entertainment, Inc.1976

最後は、問題作の中でも“問題”を正面から抱え込む一本。
監督はジョエル・M・リード、主演はシーマス・オブライエン。
原題は『Bloodsucking Freaks』で、もともとは『The Incredible Torture Show』名義で公開され、のちにトロマが獲得して再リリースした経緯も語られます。

舞台はニューヨークの小劇場。
劇場主サルデュと助手ラルファスが、拷問と殺人を“ショー”として上演する。
観客は作り物だと思って笑う──だが、それは本物だ。
この一行で説明できるシンプルさが、逆に救いがない。

 ©Troma Entertainment, Inc.1976

しかも本作は、ただ残酷なだけではありません。
トロマ公式の紹介文が“ユーモアとホラーの奇妙な混合”をうたうように、下品な笑いが、恐怖の手前でぬるりと絡みつく。
観ているこちらの倫理を試す、というより“客席のあなたも共犯ですよね?”とニヤつくタイプの映画です。
国内ではR15+表記。まずは、覚悟と体調と胃薬を。


冬の夜に、70年代ホラーは“体温”で刺してくる

『デリリウム』は欲望が迷子になる熱。
『メサイア・オブ・デッド』は海辺の町が夢のまま腐る冷たさ。
『悪魔のしたたり』は見世物小屋が観客を試す悪趣味の火力。

ホラーは、寒さと相性がいい。
でもこの3本は、寒さを利用して、こちらの“中のほう”を温めてしまう。
──嫌な意味で、忘れられない温度で。

今夜、暖房の効いた部屋で。
いちばん冷えるのは、画面の向こうではなく、あなたの背中かもしれません。

配信サービス一覧

『デリリウム』(1972)
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『メサイア・オブ・デッド』(1973)
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『悪魔のしたたり』(1976)
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