「木俣冬の続・朝ドライフ」連載一覧はこちら
2024年9月30日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「おむすび」。
平成“ど真ん中”の、2004年(平成16年)。ヒロイン・米田結(よねだ・ゆい)は、福岡・糸島で両親や祖父母と共に暮らしていた。「何事もない平和な日々こそ一番」と思って生きてきた結。しかし、地元で伝説と化した姉の存在や、謎のギャル軍団、甲子園を目指す野球青年など、個性的な面々にほん弄されていく。そんな仲間との濃密な時間の中、次第に結は気づいていく。「人生を思いきり楽しんでいいんだ」ということを――。
青春時代を謳歌した自然豊かな糸島、そして阪神・淡路大震災で被災するまでの幼少期を過ごした神戸。ふたつの土地での経験を通じて、食と栄養に関心を持った結は、あることをきっかけに“人のために役立つ喜び”に目覚める。そして目指したのは“栄養士”だった。
「人は食で作られる。食で未来を変えてゆく。」 はじめは、愛する家族や仲間という身近な存在のために。そして、仕事で巡りあった人たちのために。さらには、全国に住む私たちの幸せへと、その活動の範囲を広げていく。
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。
今回は、第73回を紐解いていく。
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「そっか」で終わるとは斬新
結(橋本環奈)が出産、花と名付けられた赤ちゃんはとてもかわいい。そんなとき、2011年3月11日、東日本大震災が起こります。
阪神・淡路大震災を経験している歩(仲里依紗)はそのときのことを思い出し、精神的に不安定になり、チャンミカ(松井玲奈)のところに泊まろうとしたものの、気を使って夜中、米田家に帰ってきました。
ちょうど、結も米田家にいて、結と歩は静かに語り合います。ふたりとも、心が沈んでいて……。震災当日の夜の寒さや不安さを思い出す歩。「大切な人といっしょにいられているのかな」と思いをいたす歩。きっと、親友・真樹ちゃんのことを思っているのでしょう。真紀ちゃんの父・孝雄(緒形直人)も地震のニュースを見て息が荒くなっていました。
歩がチャンミカの家に泊まるのをやめたのは、チャンミカの大切な人といっしょにいてほしいと思ってのことでした。たぶん、チャンミカにとって歩も大切な人だとは思いますし、そう言って一緒にいる世界線もあるでしょう。でもここは、歩が自宅に戻って結と語る世界線なのです。
「あの日地震を経験したうちにできること」はないだろうかと結は思いますが、歩は結は子育てに専念すべきで、「やるのは私だよ」と決意します。ところが、あっという間に2週間が過ぎ、菜摘(田畑志真)が、神戸の地震のとき東北の人に助けてもらった恩返しにとボランティアに向かうのを、歩は見送るのです。自分はまだ何も考えつかず、行動に出られないままで、なんとも歯がゆいことでしょう。
ボランティアなんて私にはできないや、と凹む歩に、自分にできることをすればいいと愛子(麻生久美子)は言います。愛子はブログで東北の人を励ましています。
結は結で子育てを優先していると、佳純(平祐奈)が訪ねてきて、気仙沼に医療チームの一員として行ってきたことを話します。結は結で、なにかできないかと思ってはみたものの、子育てに追われ、同期がすでに動いています。
佳純は食事について心配したが、「飯のことはあとだ」と言われて悔しかったと。はたして、ほんとうに「飯のことはあと」なのでしょうか。これが今回の問題提起のような気がします。大きなくくりとしては「自分にできることはなにか」なのでしょうけれど、そこに飯問題も含まれるでしょう。
佳純は避難所に行ってみて、実情を実感します。東北の人は遠慮がちなのか困っていても我慢することを感じたり、食料が整理されてなかったり。そういう状況を知ると、もっとなにかできるのではないかと歯がゆい気持ちになったことを佳純は、結に語るのです。
「そっか」と相槌を打つ結。そして「つづく」
え? 今日、これで終わり? なんてそっけない。なんて斬新。
コメディ回だったら、こういうのでもいいかなと思いますが、震災を扱った回で「そっか」で終わりというのは突き放すにもほどがあるのではないでしょうか。おそらく、明日の回で、「そっか」の続きーー結から建設的な話が語られるとは思いますが、朝の15分では、それなりになにか満足度のあるようにまとめていただきたい。とくに、震災を扱っている回なのですから。
震災の扱いかたは難しく、極端に感情的になってもいけないと抑制しすぎて、こんなふうになったのでしょうか。
「それから2週間」というリリー・フランキーさんの語りのあと、菜摘が真っ直ぐな目でボランティアに向かう流れも、ある種、木で鼻をくくったような印象を受けます。震災というデリケートな問題を扱っておきながら、なんとも事務的というか、混んでる飲食店が洗い物をどんどん洗って、若干汚れが残っている、みたいな感じがするのです。
朝ドラってこれまでずっと、混んでる定食屋や立ち食い店みたいな感じではなく、少し丁寧な朝食のイメージだったのですが、朝帰りのギャルが朝マック食べているみたいな感じなんですよね。自分がいかに小洒落た世界に憧れて生きてきたかと反省しきりですよ。もうそういう時代じゃないのでしょう。
佳純や菜摘が従来の朝ドラヒロインのようで、瞳がキラキラして、口調もハキハキして、透明感のあるふたりに比べて、歩も結も全然しゃきっとしていません。目が死んでいます。だる〜んとして見えます。これもまた「おむすび」の狙いなのでしょう。誰もが、真っ先に行動し、問題意識を感じて物申したりできないもので。むしろ、歩や結のように、何もできないけど、何も考えてないわけではない。そんな人がいっぱい世の中にはいるのです。そんなふたりがどうするのか、作り手の腕の見せ所であります。
(文:木俣冬)
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–{「おむすび」第15週あらすじ}–
「おむすび」第15週あらすじ
第15週「これがうちの生き方」1/13-1/17
2010年春、結は翔也と共働きをしながら、幸せな結婚生活を送り始める。しかしある日、結は体調を崩したことを自覚。その後もそのことを周りに隠して働き続けるが、翔也が結に熱があることに気づき病院で診断を受ける。結果、腎炎であったが、同時に妊娠していることも判明する。しばらく入院することになった結は、そこで管理栄養士の西条小百合に出会い、その指導に大きな刺激を受ける。
–{「おむすび」作品情報}–
「おむすび」作品情報
放送予定
2024年9月30日(月)より放送開始
出演
米田結(よねだ・ゆい)/ 橋本環奈
『おむすび』の主人公。平成元年生まれ。 自然豊かな福岡県・糸島で、農業を営む家族と暮らしている。 あることがきっかけで、人々の健康を支える栄養士を志すようになる。
【結の家族・米田家の人々】
米田歩(よねだ・あゆみ)/ 仲里依紗
主人公・結の8つ年上の姉。
福岡で“伝説のギャル”として知られる。 奔放な振る舞いで米田家に波乱を巻き起こすが、ギャルになった裏にはある秘密が…。
主人公・結の父。 娘のことが心配でしょうがない、真面目な性格。 奔放な父の永吉とは言い争うこともしばしば。 元理容師。今は糸島で農業にいそしんでいる。
米田聖人(よねだ・まさと)/ 北村有起哉
主人公・結の父。
娘のことが心配でしょうがない、真面目な性格。 奔放な父の永吉とは言い争うこともしばしば。 元理容師。今は糸島で農業にいそしんでいる。
米田愛子(よねだ・あいこ)/ 麻生久美子
主人公・結の母。
結の祖母・佳代と家事をしながら、聖人の営む農業を支えている。 絵を描くのが得意。
米田永吉(よねだ・えいきち)/ 松平健
主人公・結の祖父。
野球のホークスファンで、自由奔放な“のぼせもん”。 困っている人がいたら放っておけない、情に厚い性格。
米田佳代(よねだ・かよ)/ 宮崎美子
主人公・結の祖母。
古くから伝わる先人たちの知恵に明るく、結が困った時の良きアドバイザーでもある。
【福岡・糸島の人々】
四ツ木翔也(よつぎ・しょうや)/ 佐野勇斗
福岡西高校に野球留学中の高校球児。
四ツ木という姓と眼鏡姿から「福西のヨン様」と呼ばれている。 糸島に練習場があり、結と時々出くわす。栃木県出身。
古賀陽太(こが・ようた)/ 菅生新樹
結の幼なじみで高校のクラスメイト。野球部員。
父は糸島の漁師だが家業を継ぐ気はなく、IT業界を目指している。 ある約束により、結のことを何かと気にかけている。
風見亮介(かざみ・りょうすけ)/ 松本怜生
書道部の先輩。
結にとって憧れの存在。 書道のイメージを一新するような書家を志している。
宮崎恵美(みやざき・えみ)/ 中村守里
結のクラスメイトであり、高校での最初の友達。
結を熱心に書道部へと誘う。 派手なギャルが苦手。
真島瑠梨(ましま・るり)<ルーリー>/ みりちゃむ
結の姉・歩が結成した「博多ギャル連合」(略してハギャレン)の、現在の総代表。
ハギャレンの復興を目指している。
佐藤珠子(さとう・たまこ)<タマッチ>/ 谷藤海咲
ハギャレンのメンバー。
子どものころからダンス好きで、ハギャレンではパラパラの振付を担当。 筋が通らないことを良しとしない、一本気タイプ。
田中鈴音(たなか・すずね)<スズリン>/ 岡本夏美
ハギャレンのメンバー。
結と同い年で、いつもスナック菓子を食べている。 手先が器用で、ネイルチップ作りが趣味。
柚木理沙(ゆずき・りさ)<リサポン>/ 田村芽実
結のクラスメイト。
学校では校則を守るおとなしい女子高生だが、実は隠れギャル&ハギャレンメンバーでもある。ギャルの歴史を本にすることが夢。
ひみこ / 池畑慎之介
糸島の「スナックひみこ」の店主。
年齢、性別、経歴、すべてが不詳の謎の人物。 糸島の住人一人一人の事情をなぜか把握している。
草野誠也(くさの・せいや)/ 原口あきまさ
糸島の商店街で陶器店を営んでいる。
ホークスの大ファン。
古賀武志(こが・たけし)/ ゴリけん
結の幼なじみ・陽太(ようた)の父親。
糸島で漁師をしている。
大村伸介(おおむら・しんすけ)/ 斉藤優(パラシュート部隊)
糸島の商店街で薬店を営んでいる。
ホークスの大ファン。
井出康平(いで・こうへい)/ 須田邦裕
結の父・聖人(まさと)の幼なじみ。
糸島の農業を何とかしたいと日々奮闘している。
佐々木佑馬(ささき・ゆうま)/ 一ノ瀬ワタル
結の姉・歩と行動を共にする“自称・米田歩のマネージャー”。
大河内明日香(おおこうち・あすか)/ 寺本莉緒
結の姉・歩と対立していた、元天神乙女会のギャル。
飯塚恭介(いいづか・きょうすけ)/ BUTCH
福岡県博多のカフェバー「HeavenGod」の店長。
作
根本ノンジ
音楽
堤博明
主題歌
B’z「イルミネーション」
ロゴデザイン
大島慶一郎
語り
リリー・フランキー
制作統括
宇佐川隆史、真鍋 斎
プロデューサー
管原 浩