年末、映画を間違えると——普通に寝ます。
いいですか、今夜必要なのは“いい映画”じゃない。眠れなくなる映画です。
令嬢と不良の純愛が、昭和の熱量で襲ってくる(1974)。
ゴルフの形をした清順の毒が、静かに神経を刺す(1977)。
焼肉で泣かされ(2020)、
ジーンズに殺され(2021)、
ヴィーガンで倫理観が崩れる(2022)。
……もう一度言います。
これは“暇つぶし”です。
ただし、あなたの情緒は守りません。
公開年順に、年末の空白を“勝ち”に変える5本、どうぞ。
1974年『愛と誠』

監督:山根成之/脚本:石森史郎、山根成之
出演:西城秀樹、早乙女愛、仲雅美 ほか
まずは昭和の熱量を、真正面から浴びる。
財閥令嬢の早乙女愛は、かつて自分を救ってくれた少年・太賀誠(西城秀樹)と再会する。だが誠は、過去の出来事が刻んだ傷を抱え、まっすぐに生きられない場所に立っている。愛は“償い”のように、誠を自分の学校へ転入させる——。

ここが昭和、容赦がない。
いまの感覚で観ると「そこまでやる!?」の連続なのに、愛のまっすぐさが奇妙に清々しい。恋愛ドラマの形をしていながら、実は“純愛”という名のぶつかり稽古。
アイドル映画の軽さを期待すると、むしろ火傷します。だけど、その火傷こそ年末向き。心が鈍る季節に、ここまで本気の感情は効くんです。
©1974松竹株式会社
1977年『悲愁物語』

監督:鈴木清順/脚本:大和屋竺/原案:梶原一騎
出演:白木葉子、原田芳雄、江波杏子 ほか
続いて、いきなり毒。しかも上品な毒。
女子プロゴルファー・桜庭れい子は、過酷なトレーニングを経て頂点へと駆け上がっていく——と書くと王道スポ根の香りがしますが、鈴木清順が撮ると話は別。これはゴルフ映画の形を借りた、「成功」をめぐる奇妙な寓話です。
華やかなスポーツの裏で渦巻く視線、嫉妬、ねじれた欲望。
“勝つこと”が称賛されるほど、周囲の世界が歪んでいく不気味さが、じわじわとコメディにも見えてくる。笑っていいのか迷うのに、なぜか目が離せない。この居心地の悪さこそ、年末の夜更かし向き。

そして何より、清順作品らしい人工的な美。現実から一段ズレた色気と、無表情の狂気が同居する画面は、観ているこちらの感情の置き場を奪ってきます。
年末の“ぼんやり”を、いきなりピリッとさせたい人へ。
(C)1977 松竹株式会社
2020年『フード・ラック!食運』

監督:寺門ジモン
出演:EXILE NAOTO、土屋太鳳、りょう ほか
ここで一度、胃袋から立て直しましょう。
下町の焼肉店を営む母と、家を飛び出した息子。食と仕事と言葉が絡み合いながら、親子がもう一度向き合っていく物語です。
この映画の“ズルさ”は、焼肉で泣かせにくるところ。
画面から立ち上る香りまで想像できるような肉の説得力に、気づけばこちらの心もほどけていく。しかも単なるグルメ礼賛で終わらず、主人公が“書くこと”の重みを背負っているのがいい。

軽い気持ちで観始めたのに、終盤で「人を傷つけない言葉って何だろう」と、妙に真面目になってしまう。年末に刺さるタイプの後味です。
大切なのは、食べること=生きることだと、真正面から言い切る照れなさ。
疲れが溜まって「もう何も考えたくない」夜ほど、こういう一本が効く。観終わったあと、冷蔵庫を開ける手つきがちょっと優しくなるはず。
(C)2020 松竹
2021年『キラー・ジーンズ』(製作:2020年/77分)

監督:エルザ・ケプハート/脚本:エルザ・ケプハート、パトリシア・ゴメス
出演:ロマーヌ・ドゥニ、ブレット・ドナヒュー ほか
年末に相応しいのか?相応しくないのか?
ジーンズが人を殺す——その一点で、もう勝ちです。
アパレル企業の新作ジーンズが、発売前夜に突如“自立”。従業員を次々と血祭りに上げていく。設定がバカすぎるのに、やっていることは意外に鋭い。
ファストファッション、搾取、企業の欺瞞。そういう社会問題が、スプラッターと悪ふざけの顔をしながら混ざってくる。

そしてこの映画、妙に“踊る”。
恐怖と滑稽さが同じテンポで進むので、気づけば笑って、次の瞬間に「うわっ」と声が出る。年末の深夜テンションにちょうどいいジェットコースター。
真面目な一本に疲れた人ほど、むしろ救われるかもしれません。脳が「考える」から「楽しむ」に切り替わるから。
(C)10619248 CANADA INC. / EMAFILMS 2019
2022年『ヴィーガンズ・ハム』(製作:2021年/87分)

監督:ファブリス・エブエ/脚本:ファブリス・エブエ、ヴァンサン・ソリニャック
出演:マリナ・フォイス、ファブリス・エブエ
最後は、倫理観のジェンガを崩すやつ。
経営難の肉屋夫婦が、過激なヴィーガン活動家を殺してしまい、証拠隠滅のために……ハムにする。しかも、それが大ヒットしてしまう。
ここまで不謹慎なのに、笑ってしまうのが悔しい。

本作が上手いのは、「ヴィーガンVS肉屋」の対立を単純な正義/悪で描かないところ。誰もが自分の正しさに縛られ、追い詰められ、結果として最悪の方向へ転がっていく。
笑いながら、じわじわと「人間って怖いな」と思わせるブラックさがあるんです。
年末って、“来年はちゃんとしよう”と思う季節でもあります。
でもこの映画は言う。「ちゃんとしてても、人は間違うし、間違いが売れることもある」。
背徳の笑いと、胃の奥に残る後味。締めにふさわしい一本です。
(C)2021 – Cinéfrance Studios – TF1 Studio – Apollo Films Distribution – TF1 Films Production – Chez Félix Cinéfrance SAS – Cinéfrance Plus – Cinéfrance 1888
まとめ
今回の5本は、共通して“気軽に観られる顔”をしながら、どこかでこちらの感情を揺らしてきます。
昭和の熱烈純愛(『愛と誠』)、成功の毒と歪み(『悲愁物語』)、食がつなぐ親子(『食運』)、消費社会への悪ふざけ(『キラー・ジーンズ』)、正しさの暴走(『ヴィーガンズ・ハム』)。
年末は、心が空きやすい。
だからこそ、一本の映画が入ってくる余地がある。
“暇つぶし”のつもりが、来年まで残る何かを持ち帰ってしまう——そんな夜を、どうぞ。
配信サービス一覧
1974年『愛と誠』
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1977年『悲愁物語』
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2020年『フード・ラック!食運』
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2021年『キラー・ジーンズ』
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2022年『ヴィーガンズ・ハム』(製作:2021年/87分)
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