インタビュー

2015年10月27日

映画『海街Diary』に感じるかつての日本映画の空気感とは?

映画『海街Diary』に感じるかつての日本映画の空気感とは?



現場で増えていく「あれ」という言葉


DSC08067_750



イベントの後半には、客席からの質問に監督が回答する、Q&Aも行われました。

質問「是枝作品で今作ほど食事のシーンが多い映画はないと思いました。その食事が人物たちの距離感を共有する時間として描かれていると思うんですが、食事のシーンで注意をはらった点はありますか?」

是枝監督「原作が素晴らしいと何度もいいますが(笑)、非常に食事が印象的に出てくる作品で、どの食べ物も今はそこにいない人間の記憶と結びついて登場するんですね。しかも、共有されている記憶がそれぞれみんなちょっと違う。そこに出てこない人間と共有した時間の長さとか質によって、その食べ物に対する印象がそれぞれ違ってくるんですね。その描き方が素晴らしいと思って読んでいました。ただ、映画として描く場合は「とにかくたくさん食べるように。セリフ3割の食べるの7割で」と4人には話しました(笑)。とにかく食べてるついでに話してくれ、セリフのために食べるのを控えないでくれと。特に夏帆ちゃんにはそう話していて、本当においしそうに食べてくれました。縁側を背にしてあぐらをかいて座って飯をかき込んでる姿が、父親にどこかダブるんだろうな、と僕は思っていて。本人は多分意識はしてないけど。なので、その豪快な食べっぷりというのは他の3人とは違うかたちで存在させた。すずがそれをマネているシーンがありますが、それは注意してもらいたくてやっているんです」

質問「映画の最初の方に気になる言葉遣いがあって、「あれ」という言葉を多用している印象でした。映画はこそあど言葉などをあまり使わないイメージなので、その背景があれば教えてください」

是枝監督「「あれ」好きなんですよね(笑)。日本語ってすごくあいまいにできているから便利なんですけど、脚本の段階で主語をけずって、固有名詞をけずって書いていく方がリアルになるのでそうするんですけど、あとは現場で見ながら、画に映ってるものはできるだけ言葉にしないように変えていくんです。たとえば、脚本ではどうしても「千佳、お醤油かけすぎ」って書いちゃうんですけど、現場では目の前に千佳がいるしお醤油も映っているから、もしかすると「お醤油」もいらないかもしれない。逆にいうと「かけすぎ」もいらなくて、「お醤油!」っていうだけで伝わるのが一緒に食卓を囲んでいる関係性なのかなって思うと、いろんなところでけずれるもんですから。それで「あれ」が多くなっているのかもしれない。「あれ」で済むところはすべて「あれ」で、という意識でいました」

MC「広瀬さんには、台本を与えないで撮影したと聞いたんですが」

是枝監督「そうですね。子役というには年齢もいってましたし、しっかりとした演技力もあったので悩んだんですが、他ではできない経験だからやってみたい、と本人がおっしゃったものですから。終わったあとどうだった?と聞いたら、台本を読むよりもっと、お姉ちゃんたちのセリフを聴こうとした、と。どんな気持ちで言っているのか、表情を見てセリフを聞いていたというので、それでよかったな、と思いました」

MC「広瀬すずさんは本当に素晴らしい形の演技を見せてくれたし、僕は綾瀬はるかさんも全く新しい綾瀬さんで、彼女のベストだったんじゃないかと思っています」というMCのコメントでイベントが締めくくられました。

(文・取材:大谷和美)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!