染谷将太がスゴんだ理由に爆笑&感動!『ディアーディアー』菊地健雄監督インタビュー・後編



“ドッカン”よりも、“クスクス”な映画



―― 劇場でも、ちょいちょい笑いが起きる様子が想像できますね。セリフもかなり面白かったし。「犬くらい1人で埋められるよ」とか、葬儀屋さんのくだりとか最高でした。

菊地監督「葬儀屋さんを演じた川瀬陽太さんは、僕が駆け出しの頃に映画業界のマナーみたいなものを教えてくれた先輩なんです。葬儀屋は、川瀬さんにやって欲しいと思ってました。最近、祖父をの葬式に立ち会ったんですが、葬儀屋さんの振る舞いが面白く見えちゃって。葬儀屋さんって、いちいち重い感じに溜めて言うじゃないですか。」

―― 故人の…旅立ちの時がやってまいりました。みたいな(笑)。

菊地監督「そうです!至って真面目にやって下さってるんですけど、頑張ってお芝居してるみたいに見えたりするんですよね。不謹慎だけど本当に可笑しくなっちゃって。」

―― 川瀬さんの演技も、仰々しさがばっちり表現されていました。

菊地監督「あそこは、脚本家とも入念に打ち合わせましてね。別にふざけてる訳じゃないけど、葬儀屋さんと関わったことのある人には『クスッ』って笑える、みたいなところを狙って作りました。そう。この映画は“ドッカン”っていう笑いは少ないけど、“クスクス”って笑いを散りばめた映画なんです。」

誰しもが役に縛られた人生を送っている



―― 例えば義夫がらみのシーンですよね。元々、義夫が犬を轢いたことから悲劇…いや、喜劇が始まるのですが、その飼い主が実は…っていうので、義夫の歯車がどんどん狂っていくんですけど(笑)。これ以上はネタバレになるので言えませんが、嘘に嘘を固める義夫の姿は、あれこそ必死さ極まって喜劇に転ずるという典型でしたよね。

菊地監督「ですね。義夫は一番心に傷を負ってるはずなんですが、それが空回りすることで、劇中で狂言回し的な役割を担っています。義夫に関わる畠中さん…あの畠中さん家族が、この映画の中で唯一真っ当で、幸せな人達なんですよね。」

―― 確かに。あの家庭には誰も勝てないですよ。もう、完全なる勝者ですね。

菊地監督「でも、そんな畠中もかつてはいじめられっ子だった。いじめられっ子という役割を選んでいたというか。結局、誰しもが役柄に縛られた人生なのかもしれません。長男って役割だったり、奥さんって役割だったりね。あのお坊さんだって、意外に家庭では普通の人かもしれないしね。」

―― そうですね。私も妻だったり、母だったり、娘だったり、色んな役を持ってます。

役を脱いだらどうなるか?背負い続けるとどうなるか?



菊地監督「その都度みんな、役を演じて生きているんですよ。でもその役が息苦しいとか、演じることに疲れたとか、誰しもあるじゃないですか。じゃあ役を脱いだらどうなるのか?逆に、そのまま役を脱がずに背負っていくとどうなるのか?…そういうところを描きたかったというのはありますね。

かと言って、それを観客に押し付ける気はないんです。あがいている時に、ふと観ていただけたらいいなと。そして観終わった後に少しだけ、ご自身の生活に一瞬気持ちを戻したり、立ち止まったり、考えてもらえたら嬉しいですね。」

―― 知らず知らずのうちに、誰しもが仮面を付け替えながら生きているんですね。

菊地監督「ですね。そこがやはり、本当に滑稽であり、面白くもあり、悲しくもありっていうのは、すごく人間的だと思うし、映画が扱うドラマのモチーフとしては非常に面白いと思っています。」

―― その話を伺って、いま改めて映画を振り返ると、すごく腑に落ちます。

菊地健雄監督



無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!