映画コラム

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2016年05月29日

「もう!男って何で殴り合いが好きなの!?」そんな貴女に送る映画2本、「サウスポー」&「ディストラクション・ベイビーズ」

「もう!男って何で殴り合いが好きなの!?」そんな貴女に送る映画2本、「サウスポー」&「ディストラクション・ベイビーズ」


よくある筋肉映画、単純なボクサーの再起物では無い!話題の映画「サウスポー」


どん底から這い上がる男の姿。あるいは、栄光の座から滑り落ちた者が再挑戦する姿。そう!それこそ、まさに男にとっての大好物。

本作のポスタービジュアルを見て、「うーん、タトゥーのボクサーがもう一度栄光の座に這い上がる、何かロッキーみたいな映画じゃないの?」そのような印象を受ける方が多いと思うが、実はそんな方にこそ是非観て頂きたい作品、それがこの話題のボクシング映画が6月3日から全国公開される「サウスポー」だ!

サウスポー

(C)2015 WARNER BROS ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED



ストーリー


43戦無敗の世界ライトヘビー級王者、ビリー・ホープは、ボクシングの聖地マディソン・スクエア・ガーデンで行われた試合で強烈な右で逆転KOを決め、脚光を浴びていた。だが、あるきっかけにより、最愛の妻の死を招いてしまう。悲しみに暮れ自暴自棄な生活を送るビリーは、無理に組んだ試合に負け、信頼していた仲間、そしてついには娘までも失ってしまう。

失意によるどん底の境遇の中、ビリーは第一線を退き古いジムを営むトレーナーのティックに、自分のトレーニングを頼む。彼は、無敗を誇った自分が、過去に唯一苦しめられたボクサーを育てたトレーナーだった。過去の自分の過ちを乗り越え、再び娘と暮らすため、ビリーはプライドも名声もかなぐり捨て、父として、ボクサーとして、最愛の娘のために自分を変え、再びリングに上ることを決意する。果たして、ビリーは人生最大の賭けに勝つことが出来るのか?。

主役のビリーには、もはや抜群の信頼度を誇る、「俺たちのジェイク」こと、ジェイク・ギレンホール!傑作「ナイトクローラー」で見せた不気味さとはうって変わり、本作では半年に渡る過酷なトレーニングで作り上げた肉体を武器に、マッチョなボクサーを見事に演じている。その他にも、彼を支える妻には、「きみに読む物語」のレイチェル・マクアダムス。復活への重要な鍵となるトレーナーには、名優フォレスト・ウィテカー。そして主人公の娘役には、12歳の天才子役ウーナ・ローレンスなど、数々の名優たちが集結した本作。

今まで散々目にしてきた様な、「マッチョな男の身勝手なプライドを賭けた殴り合い」を描いた映画では無く、アントワーン・フークア監督の目線は常に主人公とその家族、そして周囲の人々との関係性に向けられており、「最後に倒して勝って終わり!」などでは決してない、観終わった後からも余韻がジワジワ来る感動作となっている。
そう、昨年「クリード」に涙した人、残念ながら「クリード」にはイマイチ入り込めなかった人、そのどちらにも自信をもってオススメ出来る映画、それがこの「サウスポー」だ!

実は、現代のアメリカが抱える、深い問題を描いた映画「サウスポー」


一見、単なるボクシングの世界を描いた映画に見えるが、実はアメリカという国の厳しすぎる現実と、家庭・家族の存在の大事さ。それに幼少時の教育がいかに必要であるかを、この映画は描いている。そう、この映画の真のテーマ、それは「子供たちに我々大人は、いったい何を残すか?」ということだ。

主人公とその妻は、ニューヨークの通称ヘルズ・キッチン地区の養護施設出身という境遇から、己の腕一本で世界チャンプまでのし上がった苦労人。その恵まれた暮らしが一瞬にして崩壊する、アメリカという銃社会の恐ろしさ。自暴自棄になった主人公が、自らの行いのためとは言え、実の娘からも法により引き離されるという社会の非情さ。そして、一度頂点から落ちた者に対する、世間の冷たい扱い。

その中で主人公は過去の自分の生き方を変え、ただ一人残された娘との生活を守るため、再び厳しい栄光への道を登る覚悟を決める。再びリングでの試合に臨んだ彼を、控え室のテレビ中継で見つめる娘の姿。ついに強い信頼の絆で結ばれたこの親子には、もはや試合の勝敗が全てでは無い。自身の闘う姿を通して、人生にとって一番大切なことを娘に教える主人公。それこそが本作に隠された重大なテーマだと言えるだろう。

更にもう一つ重要なのが、彼の周りにある貧困、暴力、そして金が人間関係を狂わせる点を、見事に描いていることだ。そこには現在のアメリカが抱える大きな問題が数多く含まれているのだが、そんな中でも主人公の養護施設時代からの仲間たちが、皆で最後のタイトルマッチのセコンドに付いている描写は、本作においての大きな救いだと言えるだろう。

世界チャンプとしての栄光の時期には、主人公から高価な腕時計をプレゼントされていた彼らが、主人公が没落した時にはその腕時計を返そうとするし、車までも失った主人公を娘のいる施設まで車で送ったりしている。このような細かい描写の積み重ねは、さすがアントワーン・フークア監督の演出の冴えと言える。

実は女性にこそオススメの映画だった!父と娘の関係に泣かされる!


「ボクシング映画って、大体奥さん子供そっちのけで、ひたすらリングに上がるためのトレーニングの連続、最後に勝ってガッツポーズ!でも、それって単に男の自己満足じゃないの?」

そんな心配は無用!実は、そんな貴女にこそ観て頂きたいのが、この映画だ。

本作で主人公が再びリングに立つ理由。それは過去の栄光への執着でも無ければ、己がまだリングで戦えるという証明=自己顕示欲ですら無い。亡き妻の死を招いた自分自信の生き方を変えるため、世界チャンプのプライドすら捨てて、場末のボクシングジムの掃除夫として働きながら、トレーニングを続ける彼の願いはただ一つ、愛する娘ともう一度一緒に暮らすこと、ただそれだけなのだ!

アントワーン・フークア監督の確かな演出力により、主人公の深い悲しみと絶望、そして彼の娘への想いが観客に伝わることで、ロッキーシリーズのような過去のボクシング物映画とは全く違った、女性も十分に感情移入出来るドラマ性重視の内容となっている。

最後に


栄光の座から一気に転落した主人公が、本当に大事な物に気づいた時、すでに全ては失われた後だった。

ここで全てを諦めてしまうのか?

愛する娘と再び暮らすため、どん底から這い上がる覚悟を決めた主人公ビリー。自身の栄光のためではない、ただ一人残された最愛の存在である娘との生活こそが、全てだと気づいた男の行動が、観る者の感動を呼ぶ。

単なる男の殴り合いを描いた「筋肉映画」ではなく、男にとって決して後には退けない、己の全てを賭けた「魂の闘い」が、スクリーン上に炸裂するこの映画。

出来れば爆音上映、いや4DXで観たいところだが、まずはお近くの劇場に足を運んで頂ければと思う。全男性は言うに及ばず、全ての女性にこそ是非とも観て頂きたい本作。観ればきっと、父の日を前に明日からお父さんに少しだけやさしくしてあげたくなるに違いない。

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(文:滝口アキラ

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