<疑問>「実話の映画」は、どの程度実話なのか|“Based on” VS “Inspired by”


①Based on a true story

「マネーボール」

キャラクター、ストーリーライン、映画内の多数のシーンが実際に起きたことを反映しているもの。シナリオ内の記述は、出来事がどのように起きたのかも、事実に正確であるべき。
台詞、シーンの順番、実際の人物に映画的なアレンジを加えたり、実際の物語から映画に不要な人物やイベントを排除したりすることは、創作の自由として認められる。

この表記を宣伝などに使っている作品は、『エリン・ブロコビッチ』、『127時間』、『マネーボール』、『ラッシュ』、『ドリーム』、『リチャード・ジュエル』などがあります。4つのパターンのうち、一番多く使われていると思われます。
「フェアウェル」(C)2019 BIG BEACH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

変わり種としては、オークワフィナ主演の『フェアウェル』は、「Based on actual lies(実際にあった嘘にもとづく)」という表記があります。これはルル・ワン監督が自身の体験をもとにしていますが、親戚一同が祖母のために嘘をつく物語なので、こういう洒落た表現をしています。

②Inspired by a true story

「幸せのちから」(C) 2006 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES,INC.ALL RIGHTS RESERVED

実際にあった物語からシナリオを作るが、「Based on」よりも映画的な面白さを優先して脚色しているもの。架空のキャラクターを登場させたり、実際の人物に別の要素を加えることもできる、実際にはなかった出来事を加えるのもあり。事実と架空の出来事をミックスさせて映画を構成しているもの。全体の流れは概ね事実に即していると考えられる。

この表記の例として、ウィル・スミス主演の『幸せのちから』があります。この映画は実在の人物であるクリス・ガードナーとその息子の物語ですが、映画では息子は5歳の設定ですが、実際は息子が2歳の時の物語だったそうです。この映画ではスミス親子が親子役を演じたことでも話題になりましたが、息子のジェイデン・スミスが撮影時に7歳だったため、無理ない年齢設定にしたかったのかもしれません。2歳と5歳では心の発達度合いも、喋れる単語の数もだいぶ違いますから、大きな脚色と言えるでしょう。

③Based on true events

「パトリオット・デイ」(C)2017 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

実際にあった「とある事件や出来事」を取り上げ、それ以外の要素はフィクションである場合、この表記となることが多いようです。この場合、主人公すら架空の人物の場合があります。主に歴史的な有名な事件を題材にした作品で使われることが多いようです。

マーク・ウォルバーグ主演の『パトリオット・デイ』は、2013年のボストンマラソン爆弾テロ事件を題材にしています。しかし、ウォルバーグ演じる主人公の警官は架空の人物です。これは捜査の情報をそのまま映画にするわけにはいかないという事情もあるのかもしれません。『スノーデン』なども、全ての事実をそのまま映像化するには、複雑な事情が絡み合いそうな題材です。

他にこの表記を用いている作品としてスティーブン・スピルバーグ監督、メリル・ストリープ&トム・ハンクス主演の『ペンタゴン・ペーパーズ』などもあります。

④Inspired by true events

「レヴェナント 蘇えりし者」(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

物語も登場人物もほとんどが架空の場合がある。ほぼフィクションと考えていいが、実在する出来事から「着想を得た」もの。例として警察ものなどで、実際の事件から着想を得て、完全にフィクショナルなキャラクターで描く場合など。

レオナルド・ディカプリオが悲願のアカデミー賞を獲得した『レヴェナント 蘇えりし者』がこの表記を使っています。この映画は、ヒュー・グラスという男が熊に襲われ生還したと語り継がれている話を、小説家のマイケル・パンクが小説にしたものを映画化したものです。主人公の名前こそ同一ですが、小説からも変更があるし、小説自体も原作者がアレンジしたものですので、事実とは大きく異なっている部分があるのでしょう。そもそも、半ば伝説みたいなエピソードなので、詳細な事実を映像にしているとは考えない方が良さそうです。


4つの表記で最も事実の度合いが高いのは①と考えられます。④は最も事実が少ないと考えてよさそうです。②と③を比較するのは難しいですね。

そもそも、これらの定形表現は、正式なルールで決まっているわけではなく、製作者や宣伝会社などがその都度、映画のマーケティングにふさわしい文言を考えて付けているものですから、絶対の基準とも言い切れないですが、事実の度合いを測るものとして目安の一つにはなるでしょう。

抑えておくべきポイントは「Based on」は「Inspired by」よりも事実が多め、「story」は全体の流れは事実に近く、「event」と表記される場合は、全体の流れは脚色していて、物語の中の重要な出来事は実際にあったことを指す、あたりでしょう。「event」の代わりに「case(事件)」が使われることもあります。

そして、最も事実が多いと考えられる①の場合でも、実際には存在する人がいないことにされたり、出来事の順番が変わることはあるということです。

例えば、NASAを舞台に黒人差別と戦った女性たちを描いた『ドリーム』で、NASAのトイレが白人用と黒人用に分かれているという描写がありましたが、人種別トイレはあの物語の時点ではすでに取り除かれていたそうです。些細なディテールようでいて、映画のテーマを考えると、意外と大きな変更な気もしますね。その他、ケビン・コスナーが演じたキャラが、何人かの人物をミックスさせたようなキャラだったり、クライマックスの計算するシーンなども大きな変更を加えているそうで、個人的に「Based on」と「Inspired by」どっちがふさわしいのか迷います。

いずれにせよ、完全な事実を映画化した作品というのは、逆にめったにないのだと思っておくくらいが丁度いいのかもしれません。

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