©2023「怪物」製作委員会
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俳優・映画人コラム

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2023年06月01日

映画『怪物』で再認識する永山瑛太の“奇奇怪怪”な魅力

映画『怪物』で再認識する永山瑛太の“奇奇怪怪”な魅力

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是枝裕和監督・坂元裕二脚本の映画『怪物』が2023年6月2日(金)に公開される。子どもの声で「かいぶつ、だーれだ」と繰り返されるだけの予告に、想像力を掻き立てられた方も多いはず。本作で小学校教師を演じたのが、永山瑛太だ。

永山瑛太といえば、直近ではドラマ「エルピス-希望、あるいは災い-」(2022/カンテレ制作)や「あなたがしてくれなくても」(2023/フジテレビ制作)で演じるような、どこか掴みきれない役が目立つ。“怪演”という言葉では賄いきれない魅力に触れたい。

『怪物』で魅せた不穏な魅力

監督、脚本家ともにビッグネームが名を連ねた本作『怪物』。『万引き家族』(2018)では日本アカデミー賞 最優秀主演女優賞をはじめ国内外問わず多くの賞を受賞し、『ある男』(2022)では最優秀助演女優賞を受賞した安藤サクラ、「Mother」(2010)「Woman」(2013)など坂元裕二脚本作品では常連の田中裕子など、キャスト陣も豪華である。そんななか永山瑛太は、問題アリな小学校教師・保利として、保護者の早織(安藤サクラ)と対峙することに。

この保利がなんとも掴めないキャラクターで、何を考えているかわからない佇まいが恐怖を喚起させる。虚ろな目、挙動不審な態度。人は、未知なものや予測できない対象に恐れを抱くというが、まさに永山瑛太演じる保利はその“未知なる存在”だ。

よくわからない人物を、よくわからないままに演じるのは、意外と骨が折れるのではないだろうか。不気味な人間をただ不気味に見せようとしても、不自然に映ってしまうはず。そこには「不気味な人間を演じようとしている、わざとらしい人物」がいるだけだ。しかし、永山瑛太演じる保利は、口を開かなければ普通の青年に見えるからこそ、より奇奇怪怪っぷりが際立つ。


挙げたいシーンはたくさんあるが、すべてがネタバレに繋がってしまうのがもどかしい。鑑賞の際は、ぜひ保利の一挙手一投足に注目し、些細な表情の変化やセリフの言い回しも取りこぼさないようにしてほしい。役者・永山瑛太の底知れない表現力を、あらためて痛感できるはずだから。

永山瑛太の“心に居座る”独特さ

永山瑛太が『怪物』で醸し出す不穏さ、不気味さ、おどろおどろしさのようなものは、どこかで見た覚えがある。真っ先に思い出すのは、ドラマ「エルピス-希望、あるいは災い-」(2022/カンテレ制作)の本城彰だ。

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本作は、長澤まさみ演じるアナウンサー・浅川恵那が、眞栄田郷敦演じる新米ディレクター・岸本拓朗と手を組み、とある冤罪事件に迫る物語。社会のタブーにギリギリまで迫るハラハラドキドキ感も相まって、大きな話題を呼んだ。

事件を追う恵那と、とあるシーンで対峙する本城彰。たった1話の1シーンにしか出演していないにも関わらず、物語の根幹を握るキーパーソンを存在感たっぷりに演じきってみせた。何か怪しげなものまで売っていそうな暗い雑貨屋で、薄闇からふらりと立ち上がり恵那と向き合う本城は、誰がどう見ても危険だ。本能で“関わってはいけない類の人間”だとわかる。その危うさを、永山瑛太はおどろおどろしく表現した。

2023年5月放送中のドラマ「あなたがしてくれなくても」(フジテレビ系列)で演じている吉野陽一は、もう少し柔らかいイメージではある。しかし、本心では何を考えているか見えにくい点は共通しているかもしれない。

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本作は、奈緒演じるみちと永山瑛太演じる陽一の夫婦が、セックスレスという問題に向き合い、夫婦の関係性を見直す物語。そもそもセックスレスはどういった問題なのか、夫婦にどんな影を落とすのか、そして根本的に解決するためにはどうすればいいのか(その可能・不可能性も含め)など、これまでタブーとされてきた領域に踏み込んだ作品だ。

永山瑛太演じる陽一は、最初はみちからの“話し合い”に否定的な姿勢を示す。しかし、みちへの愛情が薄れたわけでも、ましてや離婚したいと思っているわけでもない。むしろ、妻として大事にしたいと思っている節も感じられる。彼がやっていることは褒められないが、精一杯みちと向き合おうとしているのだ。その、ある意味矛盾した言動が、陽一の“掴みきれない人間性”に通じている


永山瑛太が演じる役は、どれも心に不思議な違和感を残していく。受け取る側は意識していないのに、気づいたときには心に居座っているのだ。いつの間にか記憶に刷り込まれている存在感は、きっと、彼がまとう独特の空気によるものに違いない。そうじゃなければ、この違和感への説明はつかない。

(文・北村有)

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