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映画コラム

REGULAR

2023年06月10日

実写映画『リトル・マーメイド』本編で描かれたハリー・ベイリー配役の論争の「答え」とは?

実写映画『リトル・マーメイド』本編で描かれたハリー・ベイリー配役の論争の「答え」とは?



実写になったことによる美麗な世界の表現

実写映画ならではの、美しく色鮮やかな海の中の光景も掛け値なしに素晴らしい。現実的にはもう少し暗かったり無機質にも思えてしまいそうなところを、カラフルで煌びやかな海の世界へと作り変えるかのようなセンス・オブ・ワンダーから思い出したのは、宇宙での戦いをポップな画で魅せた『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズだった。

その世界最高峰のスタッフが作り込んだ美しい映像と共に、『リトル・マーメイド』の代表的な楽曲「アンダー・ザ・シー」が歌われれば、もうたまらない。本当の海の中に近い光景なのに、現実ではあり得ないことなのに、こんなにも楽しいミュージカルが観られるということそのものに「幸せ!」にならざるを得ないのだ。

そのように明るく楽しく美しい海の光景の一方、「怖い」表現にも妥協がない。序盤も序盤からハラハドキドキのスピーディーなアクションシーンが展開し、さらには悪役であるアースラの住処は暗く恐ろしく、その中で紫のネオンが輝くような毒々しさに満ちていた。ゾッとするほどの狂気を感じさせる、しかし楽しそうに悪役を演じているメリッサ・マッカーシーの表現力も文句のつけようがなかった。

対して、VFXが多分に使われているからこそのファンタジックな海の光景に対し、実際に「もの」を映してこその、陸に上がった時の人間の世界のビジュアルもまた作り込まれている。アリエルが人間の市場に訪れる場面は特に素晴らしく、多様な文化がそこに「ある」ことが、後述する多様性のメッセージにつながっていたことにも大きな感動があった。

現代(今)だからこその多様性を示したリメイク

この実写映画『リトル・マーメイド』はコロナ禍を経て、ロシアのウクライナ侵攻が未だ続く今、語り直す意義もとても大きい。なぜなら、現実にもある「異なる文化の分断の哀しさ」を描いてこその、「多様性の素晴らしさ」も高らかに謳われているのだから。

例えば、劇中では海の世界では陸の人間が危険だ、陸では海の人魚が危険だという風説が当たり前になっており、それぞれの保守的な為政者はその認識を変えようともしない。さらに、今回の実写映画では自由を求めるエリック王子の描写が強化されており、アリエルが父親に抑圧されていたように、彼もまた旧世代の画一的な価値観にがんじがらめになっていることがわかる。

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そのように、親から子への価値観の押し付け、違う文化への排他的な慣習は、どうすれば変えられるのか? 本作は大げさではなく、世界平和にもつながるその疑問への答えを、まさに「みんなちがって、それでいい」という、てらいのない多様性の肯定をもって提示してみせる。『プリンセスと魔法のキス』や『ズートピア』など多様性を作品内で訴え続けた昨今のディズニー映画が、まさに多様性が尊ばれる今に相応しく、それでいて押し付けがましくなく、かつストレートな「ここ」に行き着いたことにも、清々しさと感動があったのだ。

ともすれば、本作における配役の論争へも、本編の多様性のメッセージをもって回答しているとも取れる。「アリエル役にアフリカ系の俳優をキャスティングしたことを不満に思う人はいるかもしれない」「だけど、どんな人にも、自分に合った可能性や未来はある、なりたい自分になれるし、それを追い続けることは間違ってはいない」というメッセージを、ハリー・ベイリーが演じた魅力的なアリエルと、そして多様性を真正面から訴えた物語及びビジュアルから、全力投球でぶつけられたように思えたのだから。

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だからこそ、論争や批判意見に不安を覚えていた方にこそ、この実写映画版『リトル・マーメイド』を観てほしいと、心から願う。事前のネガティブな印象を覆す何かは、絶対にあると断言しよう。

(文:ヒナタカ)

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