インタビュー

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2023年10月13日

注目の若手俳優・林裕太が主演映画『ロストサマー』で示した“現在地”と“これから”

注目の若手俳優・林裕太が主演映画『ロストサマー』で示した“現在地”と“これから”


どんな生き方をしていても変わらない“人生の目標”

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──そういった準備の段階で、林さんは台本にたくさんのことを書き込むといったこともするんですか?

林:僕は台本そのものに何かを書く感じではありませんが、余白のページに人物関係のことだったり、物語からは見えないような設定を勝手に想像して書き込むことはしています。その背景が色濃ければ役の深みも増していくと思うので。ただ、単純に書き込む量で言うと、僕はそんなに多くないほうだと思います。結構ホンを読み込んで、シーンを想像しては頭の中で反芻して……ということを繰り返す中で、どういう感情がわき起こるのか向き合ってみたり、自分の経験してきたことから似たようなことがなかったか探りながら役づくりをしていくので──。でも、そうやって準備したことをいかに本番では捨てて、その場に立てるかということになってくるので……いろいろと大変な思いをしながら芝居に取り組んでいます。

──ご自身なりのメソッドを話してくださったことに感謝します。これは、そもそもの話になってしまいますが、芝居の世界に入ったきっかけが現在の所属事務所で先に活動していた櫻井健人さんと、大学で知り合ったことだったそうで……。

林:知り合ったのはもっと早くて、高校でも同級生だったんです。ただ、芝居には興味があったので、大学で演劇学を専攻すれば「それしか道がなくなる」という思いで進学しました。選択肢が多いと楽な道に行ってしまいがちな性格なので……道を絞れば役者になるしかなくなると思って。その流れで櫻井に相談をしたら今の事務所を紹介してもらって養成所に入ることができた、というのがざっくりとした流れです。今、考えてみるとめちゃめちゃ運が良かったなって(笑)。

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──これを聞くのはナンセンスかもしれませんが、もし俳優になっていない世界線を生きていたとしたら、今ごろ何をしていたと思いますか?

林:どうしていたのかな……? 大卒1年目の年齢なので、就職して社会人としてがんばっている周りの友達から話を聞いたりしたときは、自分がもし役者になっていなかったらどうなっていたかを考えることもあります。たとえば……僕の兄がバリバリに働いているので、負けないように張り合おうとしていたかもしれませんね(笑)。ただ、どんな生き方をしていたとしても人生の目標としているのは、「自分の家族を持って、幸せな家庭を築きたい」ことなので、そのためにもまずしっかり生活力をつけたいなと考えていて。だから、きっとがむしゃらに会社員としてがんばっていたのかな──と思いつつ、就職した人たちから「お前は俺たちの苦労を知らないだろう?」と言われてしまったら返す言葉がないという……。

──どんな仕事をしていても、相応に大変なことや苦労がありますよね。そこを踏まえて、役者さんという職業における喜びや幸せを、どこに感じますか?

林:個人的な感覚ですが、芝居を通して俳優さんや監督、スタッフの方々と交流するのが楽しいんです。会って間もない人たちと、その場でバッと世界観をつくりあげていくことに面白さを感じますし、その瞬間的な創造を切り撮って映し出してくださる方々がいて、見てくださる方々もいる──と思うと、すごくやりがいのある仕事を今の自分はできているんだな、と。映画を見て「よかったよ」「面白かったよ」といった評価や言葉も本当に励みになりますし、アドバイスをいただけることもありがたいと思っていて。それは発したものをちゃんと受け取ってくださったからこそ、返してくれるものがあるんだと考えているからなんです。それによって自分も頑張ろうと思えますし、生きる喜びにもなる。そういった辺りが、僕にとっての役者としての幸せですかね……。

林裕太の抱く、俳優としての理想像

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──その話の流れで『ロストサマー』の感想を言わせていただくと、だんだんフユのことが愛しくなるというか……チャーミングに思えてくるんですよね。特に、秋に心を開いたであろう瞬間を映した桂浜でのシーンで、一気にフユが好きになりました。

林:ありがとうございます(笑)。僕もあのシーンが大好きなのですごくうれしいですし、桂浜が美しかったのもあって、忘れがたいものになりました。ロケ地の高知は食べるもの全部美味しいのと人もみなさん優しくて、それだけですでに好きだったんですけど、ちょっとした自己催眠と言いますか……「フユはこの街で生きてきたんだ、ここで育ってきたんだ」って考えると、その地域に対して自然と愛着が増してきて、その地で生きてきた人間に近づける気がするんです。反対にスケジュールの都合などで東京にいったん戻らざるを得なかったりすると、やっぱり“住み続けてきた感覚”がリセットされてしまうんですよね。そういった……ロケ地にずっと居続けられることのありがたみを、『ロストサマー』では感じました。

──含蓄がある話です。それと……秋を演じた小林勝也さんはまさにレジェンドたる存在ですが、ご一緒したことでさまざまなことを感じられたのではないでしょうか?

林:勝也さんは、もう立ち姿からして素敵でした。79歳でいらっしゃいますが歩くのも速いですし、タバコもお酒もたしなんでいて、ご本人もすごく力強い方でいらっしゃって。演じてくださった秋という人物がフユの全部を受けとめて、なおもスクッと立っているキャラクターでしたが、勝也さんご自身に通じるところがあるように僕は思っていて。『ロストサマー』は若いスタッフさんが多い現場でしたが、勝也さんは温かい目で見ていらっしゃって、現場がどういう状況かを受けとめた上で僕たち若い役者に力添えしてくださったんです。その姿に安心感を覚えましたし……それは勝也さんだからこその安心感であり、そこに人としての魅力が詰まっているんだなと思いました。

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──小林勝也さんのような素敵な役者さんは1つの指標にもなり得ますが、林さん自身が現在抱いている理想像というのは……?

林:さっきも話題に上がりましたが、最初に出演した『草の響き』という映画で「演じない芝居」というものがあることを知って、それをモットーにやってきて今の自分がある、と実感していて。でも、ここ最近は作品を見ている人の目をちゃんと気にしないといけないことと、監督が求めていることに応えていくこと、ある程度の分かりやすさを落とし込んだ芝居をすることを、疎かにしちゃいけないなと思ってもいるんです。それと、技術をきちんと身につけることの必要性を感じてもいて。そこを意識し始めた当初は、自分が芝居でウソをついているような違和感を覚えたりもしましたが、「どうすれば真実味を帯びていくのか?」と考えて、悩み続けながらも芝居をしていくことで、スキルやテクニックによって芝居がウソになるわけじゃないことが体感的に分かってきた気がしていて。そういった技術を身につけた上で、本番ではいっさいを捨てて演じたり、ある程度チョイスして芝居に使ったり──と、完全に自分でコントロールできる俳優になっていきたいです。

──キャリアを重ねはじめた頃は感覚で芝居をしていた役者さんたちも、ある時期を経るとテクニックやスキルを身につけたい……と、お話になることが多い気がします。

林:理想としては、自分の持ち味とほかの役者さんたちの芝居における持ち味が、セッションを重ねるように混ざり合っていくことなんですが、それを能動的に楽しめる役者に自分がなっていけたら、最高だなと思っていて。巧くて、なおも良い芝居をできるようになりたいので……これからも精進します。

(ヘアメイク=七絵/撮影=Marco Perboni/取材・文=平田真人)

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