<『クレイジークルーズ』配信記念>宮﨑あおいを補給する映画“5選”



宮﨑あおいが足りない。

2023年11月にNetflixでの配信が解禁された映画『クレイジークルーズ』。坂元裕二の脚本作品が配信で観られる新たな試みにも期待が集まっているが、「久々に宮﨑あおいの演技が見られる!」と沸いている層もいるのでは。

2023年の映画出演は『大名倒産』のみ。それ以前は2022年の『かがみの孤城』での声の出演や2017年の『ラストレシピ〜麒麟の舌の記憶〜』にまで遡る。そのほか直近では連続テレビ小説「らんまん」にて藤平紀子役で出演したがシーンはほんのわずか、残りはナレーションでの登場だった。

圧倒的に、宮﨑あおいが足りない。このタイミングでの『クレイジークルーズ』配信は、否が応でも熱くなる。

『クレイジークルーズ』宮﨑あおい初の配信映画

▶︎『クレイジークルーズ』画像をすべて見る

「坂元裕二がNetflixと5年契約を結んだ!」そんな報と同時に入ってきた、Netflixオリジナル映画『クレイジークルーズ』の配信決定。これまで彼が手がけてきた民放ドラマや劇場公開映画とは、また違った味があるのでは……と想像してしまう。

それに加え、メインキャストに宮﨑あおいの名前が。奇しくも坂元裕二の初Netflix作品が、宮﨑あおいにとっての初配信映画となる。


『クレイジークルーズ』は「ミステリー×ロマンティックコメディ」と銘打たれ、宮﨑あおいの役柄は、豪華クルーズ船に乗り込んできた謎の女性・盤若千弦だ。吉沢亮演じるクルーズ船のバトラー・冲方優とともに、船内で起こった殺人事件に巻き込まれていく展開になると予想できる。

吉田羊・安田顕・菊地凛子・長谷川初範・高岡早紀・泉澤祐希・蒔田彩珠とほかのキャストも豪華だ。殺人事件をメインに描かれる「ミステリー」と、「ロマンティック」「コメディ」の要素が、どんな調和を見せてくれるのだろう。

ここからは、宮﨑あおいを補給できる映画を5本選んで紹介する。

1:『わが母の記』感情豊かで奔放な孫を演じた

(C)2012「わが母の記」製作委員会

「樹木希林の代表作といえば?」と訊かれたら、まさに人によって千差万別な答えが飛び交うだろう。直近でいうなら『万引き家族』(2018)や『日日是好日』(2018)の名前が挙がるだろうか。そのなかに2012年公開の『わが母の記』も、確実に入るはずだ。

伊上洪作(役所広司)を中心に、桑子(南果歩)・志賀子(キムラ緑子)・琴子(宮﨑あおい)たちが、母・八重(樹木希林)の世話をしながら「家族とは何か」を体感していく過程が描かれる。

(C)2012「わが母の記」製作委員会

宮﨑あおい演じる琴子は八重の孫にあたる。少しずつ調子を崩していく樹木希林の演技からも目が離せないが、そんな彼女から受ける心ない言葉に声を荒げる宮﨑あおいの表現も、見応えがある。

公開当時の彼女は、後に紹介する『ソラニン』(2010)や『舟を編む』(2013)と時期を同じくしているが、居住まいが違って見える。作品や役に対する向き合い方、意識の切り替え方を、すでに確立させていたことが伝わる。

▶︎『わが母の記』を観る

2:『世界から猫が消えたなら』“生きてやる!”と叫ぶ

(C)2016 映画「世界から猫が消えたなら」製作委員会

宮﨑あおいに「あなたに会えてよかった」と言われながらハグされたい人生だった……と、この映画を観ながらどれだけの人が思っただろう。

何かを得るためには、何かを失わなきゃならない。シンプルだけれど痛烈な人生の格言だ。主人公の「僕」は、余命わずかの病気にかかってしまったことを機に、自分と姿形がそっくりな「悪魔」と出会う。その悪魔は、僕の寿命を一日延ばす代わりに、僕の大切なものを一つずつこの世から消していく。

そんな僕の「彼女」……正確に言えば元彼女(宮﨑あおい)は、間違い電話をきっかけに僕と出会った。最初に電話を消されてしまった僕は、彼女との繋がりまで失ってしまう。この映画は、自分の命か、それとも思い出か……そんな、絶望しかない究極の二択を提示し続ける。



印象的なのは、前述したハグのシーンと、滝のしぶきを浴びながら宮﨑あおい演じる彼女が「生きてやる!」と叫ぶシーンだ。海外の旅先で出会った男性が、事故で唐突に命を失う。僕と彼女の関係性にも影響を及ぼした事故で、彼女は涙ながらに「生きてやる!」と繰り返し叫んだ。

可愛らしく朗らかなパブリックイメージがある宮﨑あおいだが、本作のように、内に秘めた感情を発露させる瞬発力が垣間見える役柄も多い。

▶︎『世界から猫が消えたなら』を観る

3:『舟を編む』満月を背負ってあらわれた

(C)2013「舟を編む」製作委員会

満月を背負って神々しく登場した、伝説のシーン。2013年公開の映画『舟を編む』で、宮﨑あおい演じる林香具矢は、まさにその名の通り「かぐや姫」のようにあらわれた。

板前修行に勤しむ彼女は、祖母がやっている下宿に長く暮らす馬締光也(松田龍平)と出会う。出版社で辞書編纂にたんたんと力を尽くす馬締と、料理の味を追求する香具矢は、どこか職人気質なところが共通している。

飼っている猫を追いかけベランダに出た馬締が、夜月を見ていた香具矢とたまたま出会うシーンは、宮﨑あおいの出演作について語る際には外せないだろう。あまり自分のことを話さない彼女だが、たびたび自らつくった料理の試食を馬締に頼むあたり、孤高を守りたいわけではないことがわかる。



言葉少なな二人が、同僚である西岡(オダギリジョー)の力も借りつつ距離を縮めていく過程が丁寧だ。映画の終盤、集大成である辞書「大渡海」を完成させるため、まるで部活の合宿のように会社に泊まり込みで作業をするシーンも、心を熱くさせる。

馬締と香具矢、お互いがお互いの仕事にリスペクトを払い、必要以上に干渉せず尊重する姿勢は、まるで人間関係の手本のようだ。

▶︎『舟を編む』を観る

4:『怒り』を悲しみで表現した宮﨑あおい

(C)2016 映画「怒り」製作委員会

観てよかったが、二度と観返したくはないと思ってしまう映画に、人生で数本は出会うことがある。2016年公開の『怒り』も、そのうちの一本となってしまう可能性が高い映画だ。

殺人事件を犯した容疑者が逃亡し、一年がたった頃。この映画では、時期を同じくして日本各地にあらわれた男たちの周辺を順繰りに描く形で、物語が進んでいく。それぞれ沖縄・千葉・東京にあらわれた“彼ら”と、何も知らずに交流を重ねる住民たち。宮﨑あおいが演じたのは、田代(松山ケンイチ)と出会い関係性を深めていく、愛子という女性だ。



あまり自分のことを語らず、素性が知れない田代に対し、愛子は次第に「信じたい気持ち」と「疑わなければいけないかもしれない葛藤」の間で苦しむことになる。本編ではっきりとは触れられないが、おそらく愛子は軽度の知的ハンディキャップを持った女性で、自身の判断には頼れない脆い一面がある。

信じる者、疑う者。信じられる者と、疑われる者。映画やドラマでは、よく「信じていたからこそ、裏切られたときの絶望が深い」といった心理描写が多用されるが、それは信じた側の勝手なエゴとも捉えられるだろう。

田代へどんな思いを向ければいいか、悩み、葛藤する愛子は少しずつ、怒りにも似た悲しみを心の内から発露させるようになる。その漏れ出す慟哭は、他のどんな映画でも見ることのなかった悲哀に溢れている。

▶︎『怒り』を観る

5:『ソラニン』の宮﨑あおいからしか得られない栄養素


アイドルオタク界隈を中心に「〇〇からしか得られない栄養がある」という構文を見かけることが増えた。それに則って言うなら、2011年公開『モテキ』の長澤まさみからしか得られない栄養があるように、2010年公開『ソラニン』の宮﨑あおいからしか得られない栄養素がある、と言っていいだろう。

ソラニン公開時の宮﨑あおいは20代前半だが、もはや年齢は関係ない。本作で演じている芽衣子は、もともとの可愛らしさ&あどけなさがスッピンにより増幅している。ピックアップしたいシーンは山ほどあるが、あえて一つだけ。

芽衣子が仕事を辞めようかどうしようか悩んでいるとき、ソファで寝っ転がっていた種田(高良健吾)が良いことを言う。まともな職に就けないでいる立派なヒモなのだが、俺がなんとかする、と胸を張る。自信満々なのだが、顔面は落書きだらけ。そんな種田を見て笑う芽衣子の笑顔がなんとも愛らしい。



本作では宮﨑あおいのナレーションも多めだ。彼女が2023年の連続テレビ小説「らんまん」でナレーションを務めたのも納得の、まるで春風のような声である。

この物語そのものは、手放しにハッピーエンドとは言えない。音楽やバンドに取り憑かれた若者たち、良い歳になっても青春の延長線を生きているような彼ら。観る人によっては、ただ現実を見て見ぬふりしているだけに思えるだろう。

それでも「生きる」ことを選んだ芽衣子の強さは、宮﨑あおいだからこそスクリーンに乗せられたのだと、公開から10年以上経った今でも思う。

▶︎『ソラニン』を観る

2023年以降の宮﨑あおいは、Netflix配信オリジナル映画『クレイジークルーズ』で、どんな顔を見せてくれるだろう。まだまだ彼女の新しい表現に出会えると思うと、浮かぶのは「幸せ」の二文字だ。

(文・北村有)

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