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「大奥」第18話:聡明さと愛らしさを兼ね備えた愛希れいかの家定を忘れない

NHKドラマ10「大奥」のシーズン2が2023年10月3日に放送開始となった。よしながふみの同名漫画を原作に、3代将軍・家光の時代から幕末・大政奉還に至るまで、若い男子のみが感染する奇病により男女の立場が逆転した江戸パラレルワールドを描く本作。シーズン2の後半「幕末編」では、古川雄大、愛希れいか、瀧内公美、岸井ゆきの、志田彩良、福士蒼汰らが出演する。
本記事では、第18話をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。

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「大奥」第18話レビュー

「好きだ、私はそなたが好きなのだ」

本当に愛しい人を前にしたら自然と涙が溢れてくるものなのだろう。家定(愛希れいか)が潤んだ瞳で見つめる先には、愛しい人・胤篤(福士蒼汰)の背負う流水紋が月明かりに照らされている。大奥が哀しいだけの場所であってほしくないという有功(福士蒼汰/二役)の願いは百年の時を経て果たされた。心から恋い慕う相手と肩を寄せ合い花菖蒲を眺める幸せはこの大奥で生まれたのである。

NHKドラマ10「大奥」第18話の前半は、愛し合う家定と胤篤、そして夫婦を見守る瀧山(古川雄大)の思わず目を細めてしまうような尊い時間が描かれた。

家定の腹心である阿部正弘(滝内公美)の死で明かりが消えてしまったような大奥にある日、めでたい報せが届く。家定が胤篤との子を宿したのだ。つわりで苦しむ家定は「甘いものなら」とカステラを作るが、理由は別のところにあった。それは、食指が動かず残り物を出してしまっていることを御膳所に詫びるため。その細やかな気遣いを夫である胤篤がちゃんと分かっているのがいい。たったそれだけでも、将軍として国を背負う家定の心の負担は軽くなるのではないだろうか。

さらには家定の前でちゃんとした身なりをしたいと新たに裃を誂える胤篤。彼が流水紋の意匠を選んだことで、瀧山は同じく流水紋の裃を着ることができなくなる。あまりにも残念そうな瀧山には申し訳ないが、おかげで裃を着た胤篤にトキメキのあまり冷たくしてしまう家定の可愛らしい様子を見ることができた。胤篤のことは気に入らないが、彼といて幸せそうな家定の姿をまるで父親のように温かく見守る瀧山。この時間が永遠に続けばいいのに、きっと視聴者全員が祈るような気持ちで画面を見つめていたことだろう。

胤篤もきっと、これから長く同じ時を刻める前提で懐中時計を家定に贈ったのだと思う。だが、その時間はあまりにも短かった。井伊直弼(津田健次郎)が大老となったことで次の将軍は彼が擁立する家茂(志田彩良)に決まったも同然の雰囲気が漂っていたため、家定は実の子ができたことで不満に思うものもいるだろうと大奥を控えていた。が、その間にパタリと彼女の城中での様子が瀧山や胤篤の耳に届かなくなる。


便りのないのは良い便り。そう思っていた胤篤だったが、自身の父・島津斉彬が江戸城に攻め入る途中に亡くなったという報せを届けにきた中澤(木村了)が「今江戸城に主はおらぬ。これ以上ない機会であったのに」という耳を疑うような言葉を吐く。それは、家定がすでに亡くなっていることを意味していた。

愛する家定の死を一ヶ月も後に知ることになった胤篤。井伊曰く肝臓を悪くしたことが死の原因になったというが、ああそうかと言って納得できるものではない。攘夷派の薩摩、長州の人間か。それとも井伊をはじめとする南紀派か。家定の存命を不都合に思う者たちはいくらでもいる。しかし、たとえ死の原因が毒であったとしても犯人を割り出すのはほぼ不可能だった。


怒りの矛先が見つからない胤篤に、瀧山は「己の人生を思うように生きてほしい」という遺言を残した家定が何を望んでいたかを考えるように諭す。それはいつも近くで家定を見つめていた胤篤が一番良くわかっているはずだと。それでもなお、家定の死を受け入れられない胤篤が進むべき道を照らしてくれたのは将軍職就任を控えた家茂だった。

これから国のトップに立つ上で家定が自分に望んでいたことを胤篤に聞きにきた家茂。胤篤は家定が、「日本を身分も男女の別もなく人を取り立てることで小さいけれど強い西洋列強に立ち向かう国にしたい」と願っていたこと。また、上に立つものとして最も大切な家臣や民を思う心が備わっている家茂を買っていたことを語る。すると、家茂はこう答えた。

「では、私はその志を引き継がねばならぬということにございますね。成し得る自信はございませぬが、精進いたします。これからも私をお導きいただけますか、父上様」

その瞬間、胤篤は自分が為すべきことに気づいた。それは家定が信頼していた家茂と共に、家定の志を継いでいくことだ。この時代、志半ばで世を去る者の多いこと。それでも、こうして生きている間に心を通わせた人間によって思いは後世に受け継がれていく。死してもなお奇跡は起こせることを家定は教えてくれた。

筆者が担当した取材で、「しおれている花が少しずつ息を吹き返して、最後は花開くようなイメージで演じられたら」と話していた愛希れいか。その言葉通り、辛く哀しい境遇から信頼できる家臣に救い出され、初めて誰かを好きになった歓びを全身で表現してくれた。将軍として相応しい聡明さと、ひとりの人間として恋を謳歌する愛らしさを兼ね備えた愛希の家定は多くの人の心に刻まれたことだろう。


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さて、いよいよ幕末編も佳境を迎え、最後から二番目の14代将軍・家茂の時代に突入する。井伊の暗殺によりますます弱体化する幕府は公武合体を図り、朝廷から孝明天皇の弟を家茂の正室として迎えるが、その和宮(岸井ゆきの)は女だった。この問題を家茂と、名を天璋院と改めた胤篤、瀧山の3人はどう乗り越えていくのか。最終話が見えてきて寂しくはあるが、引き続き見守っていきたい。

(文:苫とり子)

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