日本人の心に深く響く普及の名作シリーズ『男はつらいよ』
金曜日、週末を迎える夜長に映画を見てみませんか?
デジタル配信で見られるおすすめ映画をご紹介する「金曜映画ナビ」。今週は、日本映画不朽の名作シリーズ『男はつらいよ』にスポットをあててみたいと思います。
フーテンの寅”こと寅さんが繰り広げる人情喜劇『男はつらいよ』“
山田 洋次監督・渥美清主演で全48作が作られた『男はつらいよ』は、テキヤ稼業を営みながら旅をする“フーテンの寅”こと車寅次郎の物語。
気ままな旅ガラスの寅さん(渥美清)は、自由奔放でわがままで惚れっぽくて、行く先々でトラブルを起こしてばかりですが、根っこはお人好しで、困っている人を見ると助けようと親身になり、特に惚れた女性の為なら一肌でも二肌でも脱ぐ、人情味あふれるキャラクター。
この寅さんと、妹のさくらにその夫の博と息子の満男、寅次郎とさくらの親代わりである団子屋のおいちゃんとおばちゃん、寅さんの幼なじみで団子屋の裏で印刷工場を経営するタコ社長、柴又帝釈天・題経寺の住職で、寅さんのことを案じている御前様、寺男で寅さんを兄貴と慕う源公など、こちらも下町の温かい人情を忘れない面々が毎回涙あり笑いありのドラマを繰り広げます。
全48作ある『男はつらいよ』。これだけあると、どれから見たらいいの?と迷ってしまうところですが、今回は、まず基本としておさえておきたい3作をご紹介します。
第1作『男はつらいよ』
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記念すべき第1作。20年ぶりに故郷・柴又に戻った寅さんは、妹のさくら(倍賞千恵子)と再会。さくらの縁談をめぐって一悶着しつつも、最終的にはさくらとその夫となる博(前田吟)を祝福します。
この作品で描かれた寅さんが柴又に戻り、トラブルや喧嘩などすったもんだの末にまた旅に出て、マドンナに出会って恋する…という展開は、映画『男はつらいよ』のスタンダードとなり、以降も、毎回、寅さんが旅先から柴又へ帰ってくるところから、『男はつらいよ』の物語は始まっていくことになります。
【おすすめ名場面は…】
『男はつらいよ』は、毎回違う女優が演じるマドンナが登場し、惚れっぽい寅さんの恋が描かれます。この第1作で、寅さんが恋したのは御前様(笠智衆)の娘・冬子役の光本幸子。ただ、シリーズの真のヒロインというと、それはやはり倍賞千恵子演じる寅さんの腹違いの妹・さくら。この第1作は、寅さんとさくらの兄妹の物語でもあります。
再会してまもなくさくらのお見合いについていった寅さんは、案の定それをぶち壊して、おいちゃんやさくらと大喧嘩になります。しかし、ひとしきり争った後、さくらは兄を気遣い、そして、インクのついたタオルで顔が真っ黒になった寅さんを見て大笑い。兄と笑いあうさくらの顔が本当に愛らしくうれしそうで、20年離れていた兄妹が心を通わせていくのがよくわかる、ささやかだけど感動的なひとこまです。そして、クライマックス近くで行われるさくらの結婚式で、寅さんは式場のテーブルクロスで涙を吹きつつ、妹の門出を喜びます。
以降、さくらは寅さんの一番の理解者となり、シリーズを通して、旅する寅さんを心配し、帰ってきた寅さんを迎え、そして、旅立つ寅さんを送り出すことに。この第1作で兄と妹の絆が生まれたときから、寅さんの長い長い物語が始まっていったのです。
第17作『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』
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寅さんが謎の老人(実は著名な画家)と友情を育み、旅先で知りあった芸者ぼたんのための一肌脱ごうとするこの作品は、笑いあり涙ありのエンターテイメントであると同時に、寅さんの惜しみない優しさが伝わってくる名作。太地喜和子演じるぼたんは、明るく気風がよくて、寅さんとお似合いのマドンナとして人気の高い一人です。
【おすすめ名場面は…】
この作品は、寅さんの優しさと義侠心がとにかく泣かせます。無銭飲食でつかまりそうになった老人(宇野重吉)をみかねて、「俺が払う」と料金を払ったり、お金を騙しとられたぼたん(太地喜和子)を助けようとしたりするのですが、特にぼたんの不幸をなんとかしようと立ち上がるところは、とても感動的です。
寅さんは画家の老人のもとへ行き、ぼたんのためにお金になる絵を描いてほしいと頼みます。「ちょろちょろっと描いてよ」という寅さんを、「ちょろちょろっと描けるか」と、老人は聞き入れませんが、すると、寅さんは怒ります。自分は出会ったとき身寄りのないかわいそうなじいさんだと思って助けたのに、悲しい思いをしている芸者にてめえはこれっぽっちも同情できないのかと。
この寅さんが怒りをぶつけるシーンは、見る者の心に強く突き刺さります。
おそらく、絵や文章を生業にしている人がいきなり「ちょろちょろっと書いてよ」と頼まれたら、老人同様「そんなこと簡単にできない」と考える場合が少なくないでしょう。しかし、寅さんは、決して軽々しく頼んだわけではなく、ぼたんを助けたいというただただその一心でしたこと。だからこそ、なんだかんだと理由をつけて断る老人に、困っている人を助ける気持ちはないのかと怒るのです。
この寅さんの姿に、筆者は人間の中にある根源的な優しさを見たような気がしました。理屈や建前じゃない、目の前に困っている人がいたらとにかく助けるのだというかけがえのない人の情け、愛情とはこういうことなのだと、寅さんが教えてくれる映画であり、だからこそおすすめしたい、まさに名作なのです。
第42作「男はつらいよ ぼくの伯父さん」
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この作品から、成長したさくらの息子の満男(吉岡秀隆)が寅さんと並んで活躍していきます。
浪人生の満男(吉岡秀隆)は、悩める青春真っ最中。大学受験を目指しつつも頭に浮かぶのは高校時代の後輩の泉(後藤久美子)のことばかりで、彼女に会うため旅に出ます。寅さんはこの悩める甥っ子の相談者となって、彼の恋を応援するのです。
【おすすめの名(珍)場面は…】
この作品の見どころの一つは、ずばり、恋する満男の珍道中です。
泉に会いにいくために家出する満男ですが、両親に宛てた書き置きの漢字を間違えたり、旅の途中、バイクで転倒したりと、失敗や苦難ばかり。そして、極めつけに、道中で道連れになった相手(男性)から、宿で襲われかけてしまうのです。
バイクで転んだ満男を助けくれて食事をごちそうしてくれた親切な年長者のライダー。しかし、彼はホテルの部屋で思わぬ顔を見せ、結局、満男は逃げるはめに。満男とこの男性のやりとりは短いシーンですが、男性を演じた笹野高史の演技が絶妙で、なんとも面白おかしく、そしてなんとも満男が気の毒な印象深い場面となっています。
ちょっぴり屈折していて不器用だけど、一途に好きな子を想う姿が、実の父親よりむしろ寅さんに似ている満男。寅さんはこの甥っ子のよき理解者となり、以降の『男はつらいよ』は、寅さんと満男の凸凹コンビが旅や恋を繰り広げるのです。
1969年から1995年まで、26年もの間人気映画シリーズとして上映されてきた『男はつらいよ』。
下町の人情、旅する寅さんの道のりで映しだされる日本各地の四季折々の景色、マドンナに恋する寅さんの切ない恋物語など、映画『男はつらいよ』には、日本人ならきっと心を動かされるに違いない風景とドラマが散りばめられています。そして、何よりも自由奔放で自分勝手だけれど、不器用でお人好しで愛情をたくさんもった“フーテンの寅”こと寅さんという類まれなる魅力にあふれた主人公がいます。
この寅さんの魅力、ぜひ映画を見て味わってください!
(文:田下愛)
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