実は、武田梨奈版「バットマンvsスーパーマン」だった、話題の映画「ドクムシ」。原作を読んでおくと、更に面白さ倍増!

ドクムシ
(C)2016「ドクムシ」製作委員会 (C)合田蛍冬 八頭道尾/双葉社・E★エブリスタ

話題を呼んだネット小説「蟲毒ーコドク」のコミック版として、大ヒットとなった漫画「ドクムシ」。本作はその待望の映画化だ。

都内では単館ロードショー、しかも2週間限定公開でありながら、筆者が鑑賞した公開二日目の昼の回、客席の7割ほどが埋まっていた。しかも意外だったのは、その女性観客の多さだ!更には男女のカップルでの観客が多かったのも、本作への感心の高さの表れだと言えるだろう。

実際、観た人たちのレビューにも好評な物が多く、原作小説を読んでいても大丈夫、いや、逆にストーリーが追えて楽しめたとの意見も多数寄せられているようだ。

「蟲毒ーコドク」とは?

古代中国に伝わる呪術の一種である。ヘビ、ムカデ、ゲジ、カエルなどの毒虫を集めて、同じ壺の中に閉じ込め、互いに共食いさせ、勝ち残ったものが最強の毒を持つ強力な呪いの道具となると信じられていた。

ある日突然、廃校で目覚めた7人の男女

大学生のレイジ、不良のトシオ、女子大生のユミ、キャバ嬢のアカネ、自称新聞記者のユキトシ、オタクのタイチ、寡黙な少女ミチカ。年齢も経歴もバラバラで、何の接点も無いこの7人。

完全に出入り口を封鎖された建物に監禁された彼らの前には、カウントダウンを続ける電光掲示版、しかもその期限は1週間。食料は一切無し、かろうじて得られるのは、水道の水だけ。期限を生き延びてここを出るためには、誰かを殺して食料にしなければならないのか?

最後まで生き残るのは誰か?そして、この監禁の目的と犯人はいったい誰なのか?

原作との違いや映画としての魅力

今回の映画化にあたっては、原作とは違う様々な改変がなされており、その点も本作の話題の一つとなっている。

まず、登場人物たちが廃校へ連れ去られる手口。原作小説において最大のネックであったこの部分の説得力の薄さが、映画版ではかなり考えて改良されており、映画オリジナルのラストへと上手く繋がるように変更されている。。

次に、原作における最大の魅力であった、ある「どんでん返し」からのJホラー的要素の強いラストへの流れ。この部分が映画版では更に進んだ内容、つまり絶対普遍の法則とも言える「一番怖いのは人間、そして極限状態での集団心理」という局面に着地している。これは朝倉加葉子監督の長編デビュー作「クソすばらしいこの世界」でも既に描かれていた要素であり、本作での出演陣の見事な演技が、それに更なる説得力を加えている。

パンフに掲載された監督のインタビューにもある様に、今回は人間の内面を描く事で、より恐怖性とラストの無情観を際立たせたと共に、エンターテインメント性をも高めているのは間違いない。

初めは個性の無い記号的存在だった登場人物たちの素性が、物語が進むにつれて徐々に明らかになっていき、後半に行く程どんどん彼らに感情移入出来る様になっていく、という原作小説の展開は、限られた時間内で語る必要のある映画に用いるには、少しムリがある。

そのため映画版では、各人の過去がモノローグと回想により語られるという原作小説の手法を、あえて女子大生ユミの過去を語る部分に使用するに止めている。
登場人物の過去については、前述したユミと寡黙な少女ミチカのエピソードのみが残されているが、原作とは大幅に変更されたミチカの設定により、更にミチカの置かれた境遇に感情移入できるようになっている。この部分の改変は賛否が分かれるところだが、個人的には見事な選択だったと思う。

ただ、今回の大幅な基本設定の改変で、登場人物全員が実は過去に何らかの「罪」を犯している、という原作の部分が無くなったため、その背景が説明されないまま殺されてしまう登場人物が発生するのはマイナスに感じたと言っておこう。何故ならば、一歩間違うと全員が単なる「被害者」で終わってしまう危険性があるからだ。

特に、原作では中盤から後半にかけて実質の主役となる「タイチ」の背景が、全く語られないまま終わってしまった事は、個人的にとても残念でならない。ただ、現在の日本映画界において、タイチ役を演じられるのはこの男だけ!と断言出来る、名優コマキンこと駒木根隆介が抜群のリアリティをこの役に吹き込んでいるので、彼の表情や演技から自分なりの背景を想像しながら鑑賞するのも、面白いかも知れない。実は彼とは普段交流があるので、本人に直接聞いてみたのだが、役のイメージが自分の中で固定化しないように、今回は原作をあまり読み込まないようにしていたとの事。撮影中は意外にも、スティーブン・キングの小説「生きのびるやつ」をボンヤリと思い出したりしていたそうだ。

この様に、本作でのキャスティングはどれも見事に成功しているのだが、やはり今回の目玉は、キャバ嬢アカネ役に武田梨奈を起用した点!これに尽きると言っていい。
鑑賞前は、てっきり彼女のアクションを生かすための起用だと思っていたのだが、いやいや、武田梨奈の数々の実戦を踏んで来た経験から来る自信と内に秘めた強さ!これこそが彼女を起用した最大の理由だったのだと気付かされた。アクションだけでない、女優武田梨奈の将来を期待させるに十分な、彼女の存在感だったと言っておこう。

「バットマンvsスーパーマン」のラストを見ているようだった

ラストは彼女を含めた三つ巴の対決となるのだが、実はこのシーンが完全に「バットマンvsスーパーマン」のラストと重なって見えて仕方が無かった。

特に武田梨奈の登場と共にバックに流れるBGMが、「バットマンvsスーパーマン」でワンダーウーマンのバックに流れていたそれと似ていたため(ドンドコドンドコと太鼓の音が目立つ、例のテーマ曲)、今回の武田梨奈の髪型とも相まって、「ああ、日本でワンダーウーマンが出来るのは、やはり彼女しかいない!」恥ずかしながら劇場の暗闇の中で、一人そう再確認してしまった。

試しに、あくまでも自分の善の部分を守ろうとするレイジ=村井良太はスーパーマン、そして彼の憎悪を導き出そうとするユキトシ=秋山真太郎をバットマンと考えれば、おお、これこそ日本版の「バットマンvsスーパーマン」ではないか!(注:これはあくまでも個人の見解です)

まとめ

前述した様に、今回の映画化での最大のポイントは、小説・コミックとも違うラストが用意されている事。そのため、既に原作を読んだ人でも十分楽しめる内容になっている。

ただ、その分エンディングで事件の完全な説明がなされてしまい、原作にあった様な救いの無さや後味の悪さが、映画版から姿を消してしまった事は、原作ファンにとって好みが分かれる所だろう。

ただ、原作小説で非常に衝撃的だった、一人の人間が徐々に狂って行く過程を描いたあの救いの無さの代わりに、今回エンドクレジット後に加えられたあるシーンには、映画版ならではの独自のメッセージが感じられた。

タイトルである「ドクムシ」の意味。それは本作中でも語られる様に、人間の本性として誰もが内面に持つ「毒=怒りや狂気」を意味する。
生きるために喰う事は避けられない事。要は対象物が同族か、それ以外の食料かという事だけ。

自分が生きるために他者を食うのは、果たして罪なのか?それとも避けられない本能なのか?もしもそうなら、生き続ける限り人は「蟲毒ーコドク」からは逃れられないのだろうか?

ひょっとしたら、我々が今生活しているこの社会、それこそが「蟲毒ーコドク」そのものなのではないか?

言うならば、我々は日々、生存競争という名の「蟲毒ーコドク」の中を生きている。それを象徴するのが、本作のエンドクレジット後に加えられたエピローグ的なシーンなのではないだろうか。

最後に、本作を鑑賞後に観ると、より楽しめるオススメ映画5本を挙げておく。
「ミスト」 、「エレベーター」 、「HUNGER ハンガー」 、「クソすばらしいこの世界」 、「Xゲーム」だ。是非覚えておいてほしい。

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(文:滝口アキラ

    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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