ナチス戦犯裁判を世界に発信した男たちの『アイヒマン・ショー』

ナチスドイツを題材にした映画はこれまでにも数多く製作されてきていますが、最近の日本でも大いに問題視されているヘイトが到達する最大の暴挙ともいえるナチスのユダヤ人虐殺=ホロコーストの責任者アドルフ・アイヒマンが戦後15年の逃亡生活を続けた果てに逮捕され、裁判にかけられていたことを、今どれだけの人が知っているでしょうか……

キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~vol.124

 

アイヒマンショー

(C)Feelgood Films 2014 Ltd.

『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』は、その裁判の模様が世界30か国にてテレビで放送された際の実話を映画化したものです。

アイヒマン裁判のテレビ放送に
執念を燃やすテレビマンたち

第2次世界大戦における死者の数は5000万人と言われていますが、そのうち600万人がユダヤ人でした。

当時ヒトラー率いるナチスによる“ユダヤ人の最終的解決”を推進した親衛隊将校アドルフ・アイヒマンは戦後アメリカに拘束されるものの偽名を使って逃亡し、ドイツ、イタリアなどを転々として、1950年に親ナチだったファン・ペロン政権下のアルゼンチンに渡りましたが、60年にイスラエル諜報機関の手によって逮捕。

イスラエルに護送されたアイヒマンは、エルサレムで裁判にかけられることになりました。

本作は、ナチスがユダヤ人に何をしたのかを世界中に知らしめるべく、その裁判を撮影してテレビ放送することを企画したテレビ・プロデューサーや、世界で初めてスタジオ放送にマルチカメラを用いつつ、ハリウッド赤狩りでブラックリストに挙げられ満足な仕事ができなくなっていたロシア移民のドキュメンタリー監督フルヴィッツなど、裁判の報道に執念を燃やす男たちの姿が描かれていきます。

若きプロデューサー、ミルトン・フリックマンに扮するのは人気テレビドラマ『シャーロック』で名探偵シャーロック・ホームズの相棒ワトソン役や『ホビット』3部作主演でおなじみのマーティン・フリーマン。フルヴィッツに扮するのは『ギター弾きの恋』(99)などの名優アンソニー・ラバリア。

監督はシニア合唱団を通して老夫婦の人生の再生を感動的に描いた『アンコール』(12)のポール・アンドリュー・ウイリアムズ。

アドルフ・アイヒマンは
モンスターか人間か

裁判を撮影する許可をとるまでの労苦や、当時もいたナチスのシンパからの脅迫など、さまざまな困難を乗り越えつつ、フルヴィッツは「アイヒマンをモンスターではなく人間としてとらえたい。私たちだって、状況下によっては彼のような行動をとりかもしれない」といったリベラルな考えでいますが、「アイヒマンは人間ではない。私は決してアイヒマンのようにはならない」と反発する者もいます。

そしていよいよ裁判が始まり、被告席に座ったアイヒマンは、いかなる行動をとるのか……。

映画は当時の記録映像や、ときにホロコーストの衝撃映像(これらの映像のいくつかは、実際に当時テレビ放送されたといいます。中にはかなりむごたらしいものも含まれています)などを織り交ぜながら、淡々と、しかし着実に、この“世紀のショー”を描いていきます。

アイヒマンは役者ではなく当時の映像によって本人が映し出されますが、それによって観客も当時の裁判を傍聴しているかのような臨場感を醸し出しています。

何よりも裁判の間、顔色ひとつ変えることなく淡々と罪状を否定し続けるアイヒマンの不気味な面持ちに、ナチスの恐怖そのものを彷彿させられていきます。

ナチスの非道を訴えた映画は昔も今も、そしてこれからも作られ続けていくことでしょうが、本作のようなアプローチは新鮮に映えるとともに、戦後70年経った冷静さの中から捉えられたものとして迎えたい力作です。

ホロコーストに関して「命令に従っただけ」と主張し続けたアドルフ・アイヒマンは61年末に死刑を宣告され、その後も彼は無実を訴えましたが、62年5月31日、絞首刑に処されました。

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(文:増當竜也

    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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