映画ビジネスコラム
今年の本命は、どの作品になるのか?2017年公開の日本映画ラインナップを検証する!!(後篇)
今年の本命は、どの作品になるのか?2017年公開の日本映画ラインナップを検証する!!(後篇)
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東映作品不調の、根本的原因は企画にある?
(C) 尾田栄一郎/2016 「ワンピース」製作委員会
先輩 東映のラインナップが、さっき届きました。ただし公開月日が決定しているのは7月までで、後はこれからのようですね。
爺 昨年の東映は、「ONE PIECE FILM GOLD」こそ興収50億円を超えたが、1月の「さらば あぶない刑事」を除いてヒットと呼べる作品がなかった。これはどうしたもんかなあ。
女の後輩 「仮面ライダー」シリーズや戦隊シリーズ、「ブリキュア」シリーズと、確実な興収を上げるシリーズ作品は、例年通り稼働しているようですが。
爺 この正月の「仮面ライダー平成ジェネーションズ Dr.パックマン対エグゼイド&ゴーストWITHレジェンドライダー」も好成績を収めているとはいえ、やはり新しい作品が出てこないのは寂しいね。
先輩 今年は2月11日から「相棒 –劇場版Ⅳ-」が公開され、春には「映画プリキュアオールスターズ!」「超スーパーヒーロー大戦(仮題)」が公開されますが。これまた定番ものです。
後輩 でも、映画会社にとってヒット・シリーズを持っていることは経営の安定に繋がりますから、その意味では基礎票は固まっている。
先輩 安定したシリーズが安定した稼働になっている間に、新しいタイプの作品に着手しなければ、先細りしてしまうよ。浮動票を取り込む努力をしなくては。
爺 新しいシリーズ作品としては、「探偵はBARにいる3」が冬に公開されるようだが、まだ監督が決まっていないらしい。
先輩 今、邦画各社の中で「企画製作部」というセクションが社内にあるのは、東映だけです。それが昨年のように、定番シリーズものを除いて、ヒット作がほとんどないというこの状況を見ると、作品が成立するプロセスに、何か問題があるかもしれません。
爺 ここでも企画の問題かいな。そもそもわしは、企画のプロという人を信じていないんじゃ。
先輩 ほお。今年最初の問題発言ですね(笑)。
爺 企画というものはデスクに向かって考えて出てくるものじゃないよ。映画として完成し、それが公開される時点で最高の興行力が発揮出来なくてはならない。世の中の空気を、その先も含めて読まなくてはならないし、何と言ってもその企画で映画を撮りたいという作り手とのコミュニケーションが不可欠だ。単に企画するだけではなく、そこに「開発」というプロセスが伴わなくてはダメだ。当然のことだな。
先輩 ただ、企画というプロセスはなかなか僕たちのような外部の者には見えづらいですよね。作品がヒットしないことを「企画が悪い」と断定して良いのかどうか・・。
爺 東宝みたいなことをやらないから、東映にヒット作が出ないんだ、なんて言うつもりはないよ。東映には東映しか持っていない持ち味がある。それが発揮されていないと思うから苦言を呈しているわけで。
後輩 でも、昔東映が得意としたヤクザ映画や時代劇を今作ったとしても、それは時代錯誤というものでしょう。
先輩 ヤクザ映画は特定の支持層はいるものの、全国公開となると不安が残るジャンルだな。客層が限定されるし。
爺 この正月に公開した「ポッピンQ」にしても、東映アニメーションが60周年を記念した作品で、シリーズ化を目論んでいるにも関わらず、興行成績がぱっとしない。戦略的なことも作品の内容も、もっと世間の話題になって良いと思ったんだがなあ。
先輩 企画について問題があるとするならば、東映の場合、もっと外部とのコミュニケーションを反映させたら良いかと思っています。出資だけではなく企画の段階から外部の才能とフィフティ・フィフティの立場で開発していく。外の風を入れることは、大切なことだと思いますよ。
水谷豊監督の「TAP –THE LAST SHOW-」にかける期待。
(C)2017 TAP Film Partners
先輩 さて東映のラインナップですが、今年の期待作といえば、6月17日公開の「TAP –THE LAST SHOW-」です。
後輩 水谷豊が監督・主演ですって!?
女の後輩 聞きましたよ。先輩がこの映画のシナリオを読んで、馬場のサイゼリアで泣いたってこと(笑)。
先輩 ううううるさいなあ!!
爺 そんなに良いホンなのかい?
先輩 とても感動的な物語でした。ただ、これが初監督になる新人にはちょっと難易度が高いかも。タップダンスのシーンもふんだんにありますし。
爺 外部の才能とジョイントする点では、これは注目だね。「相棒」シリーズがきっかけになったのは確かだろうけど、水谷豊がなんとしてでも実現したいと情熱を燃やした企画だろうし、しかも監督まで任せるのであれば、ぜひとも成功して欲しい。
先輩 既にラッシュの段階で、評判が高まっているそうです。もう完成したのかな?
爺 いやいや、ラッシュでは分からないよ。かつて「ラッシュの巨匠」と呼ばれて監督もいるそうだから(笑)。ラッシュ試写では傑作なのに、完成したら、あれ?って・・(笑)。
先輩 この映画、東映としては異色の作品なんですが、劇場編成も通常とは違ったやり方をするそうですから、それも楽しみです。
「孤高の遠吠」小林勇貴監督の商業映画デビュー作を日活が。
爺 次は日活だが、ここの場合は昨年11月から展開している「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」につきる。
先輩 このプロジェクトこそ、日活ならではの、日活でなければ出来ない試みですね。そう思ってずっと応援してきました。
後輩 あまりにもこのプロジェクトの記事が多いので、一時期「シネマズby日活」になっているぞ、と言われたものです(笑)。
爺 いやいや、だって条件こそあれど、今どきオリジナルの作品を監督に任せようというのだから。しかも5本も。
先輩 先日も日活の人に、今やってるプロジェクトを成功させて、第2回リブート・プロジェクトをやってくれ!!と話したところです。
女の後輩 既に公開された行定勲監督の「ジムノペディに乱れる」、塩田明彦監督の「風に濡れた女」、両作品共に女性客を集めて好調ということですが。
先輩 興行成績を発表しないとこを見ると、ちょっとどうかな(笑)?
後輩 疑り深いですねえ。
先輩 1月14日からの「牝猫たち」、28日からの園子温監督の「ANTIPORNO」、2月11日から「ホワイトリリー」と、この3本が成功して、第2回プロジェクトに繋がることを祈ろう。
女の後輩 他に今年の日活は、黒沢清監督と長澤まさみという異色の顔合わせによる「散歩する侵略者」、吉高由里子が殺人犯を演じる「ユリゴコロ」と、注目作がありますね。前者は松竹、後者は東映との共同配給ですから、全国公開されることでしょう。
後輩 もう1本。「孤高の遠吠」の小林勇貴監督の商業映画デビュー作が、秋に日活から公開されるそうです。
ワーナーの日本映画は、10本中6本がコミック原作。
(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会
爺 ワーナーはハリウッド・メジャー系配給会社なんだが、日本映画の製作・配給を手がけるようになって久しい。今年のラインナップを見ると、その方向性がはっきりと見える。
先輩 ラインナップに並んでいる日本映画は10本で、このうち「無限の住人」「劇場版 はいからさんが通る」前後編、「銀魂」、東宝と共同配給の「ジョジョの奇妙な冒険」、「先生!」、「鋼の錬金術師」と6本がコミック原作で、「はいからさんが通る」を除いてすべて実写映画です。
後輩 エンタテインメント志向というか、メジャー系配給会社ならではの強力な営業力を背景に、全国拡大公開を前提にした作品ばかりのようですね。
女の後輩 逆にそれ以外の作品には、どんなものがあるんですか?
先輩 オフィス北野の「愚行録」と、北野武監督の「アウトレイジ 最終章」、神山健治監督のオリジナル・アニメ「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」、入江悠監督の「22年目の告白 ~私が殺人犯です~」といったところかな。
後輩 あれ?この間先輩、「ひるね姫」の試写を見たって言ってませんでしたっけ?
先輩 見たけれど、未完成バージョンなんだよ。だから何とも言いようがない。
爺 しかし三池崇史監督は、すっかり大作の監督になったなあ。ワーナーだけでも木村拓哉主演の「無限の住人」と「ジョジョの奇妙な冒険」、2本が公開される。昨年の「テラフォーマーズ」で懲りなかったのか(笑)、ワーナー。
女の後輩 一時期の堤幸彦監督の勢いを思わせるものがありますね。
先輩 しかしワーナーの場合、本業はあくまでアメリカ映画の配給だから、「キングコング:髑髏島の巨神」「ワーダーウーマン」「ジャスティス・リーグ」「ダンケルク」といった大作と日本映画がぶつからないように公開するための調整が必要だろうね。
後輩 作品的には、やはり三池監督と木村拓哉が組んだ「無限の住人」が期待出来そうです。4月29日公開。この監督とこの主役が、どんな化学反応を起こすか。さて注目。
映画館独自の情報発信は、今や必須と言える。
先輩 あと、ピンポイントで期待出来そうな作品を取り上げると、キノフィルムが秋に公開する、阪本順治監督、オダギリジョー主演の「エルネスト」、それから「この世界の片隅に」でいちやく注目を集めた東京テアトルの「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」。これは石井裕也監督の「バンクーバーの朝日」以来の新作で、既に5月13日と初日も決まっている。
女の後輩 この間、新宿ピカデリーに行ったら、もうバナーが掲示されていました。都内は新ピカとユーロスペースが中心になるそうですね。
爺 シネコンとミニシアターのタッグじゃな。
先輩 今やシネコンも有力な作品は積極的に調達しますし、ミニシアターは製作段階から上映を約束するところもあるそうです。
爺 みんな必死なんじゃよ。ヒット作を確保するのに。
先輩 最近の傾向として、映画館が上映作品について自社アカウントを作ってSNSに情報を流しているでしょ。あれはとても良いことですよね。配給会社に宣伝を任せっきりにしないで、自分たちの視点で上映作品の魅力やセールスポイントを発信する。イベントや混雑状況などのインフォメーションも即座に対応できますし、僕から興行者に「ぜひやるべきだ!!」と薦めたこともあります。
女の後輩 だって、お客さんが映画を見に行くのは映画館なんだから、その映画館の人たちが集客のための情報発信をするのは当然のことでしょう。今までがそういうことをやらなさすぎたのよ。
爺 ともかく今年も日本映画には注目作、話題作がたくさんあることはよーく分かったよ。また今年も日本映画から大ヒット作が生まれることを期待しよう。
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(企画・文:斉藤守彦)
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