「おむすび」詩が自立支援ホームから逃げてくる【122回】

続・朝ドライフ

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2024年9月30日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「おむすび」。

平成“ど真ん中”の、2004年(平成16年)。ヒロイン・米田結(よねだ・ゆい)は、福岡・糸島で両親や祖父母と共に暮らしていた。「何事もない平和な日々こそ一番」と思って生きてきた結。しかし、地元で伝説と化した姉の存在や、謎のギャル軍団、甲子園を目指す野球青年など、個性的な面々にほん弄されていく。そんな仲間との濃密な時間の中、次第に結は気づいていく。「人生を思いきり楽しんでいいんだ」ということを――。
青春時代を謳歌した自然豊かな糸島、そして阪神・淡路大震災で被災するまでの幼少期を過ごした神戸。ふたつの土地での経験を通じて、食と栄養に関心を持った結は、あることをきっかけに“人のために役立つ喜び”に目覚める。そして目指したのは“栄養士”だった。
「人は食で作られる。食で未来を変えてゆく。」 はじめは、愛する家族や仲間という身近な存在のために。そして、仕事で巡りあった人たちのために。さらには、全国に住む私たちの幸せへと、その活動の範囲を広げていく。

ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。
今回は、第122回を紐解いていく。

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最終回まであと3回 NST の存続は……

詩(大島美優)がふいに歩(仲里依紗)を訪ねてきました。「私のこと覚えていますか」とおずおず聞く詩に「もちろん」と覚えていると応える歩。これって真紀に似ているから、忘れるわけもないでしょう。袖すり合うも他生の縁的な善意ややさしさにへんなバイアスがかかってしまうのがちょっと残念に思う人もいれば、亡くなった人に似ているということに叙情を感じる人もいるでしょう。

自立支援ホームに居場所がなくて出てきてしまったという詩を、歩は2、3日泊めることにします。いったん、神戸の家の彼女の部屋を使うように連れていきます。歩の部屋が和室をリノベーションしたふうなのがリアル。そこに結(橋本環奈)が呼ばれ、いきさつを説明され、作り置きの惣菜を作ります。その手際に感心する歩。

歩「お母さんみたい」

結「お母さんやもん」

そう言われて、歩は複雑な顔になります。たぶん、自分は仕事が好きでそれ一本でやって来たものの、料理もしないし、母にもならないし、これでいいのかと少し思ったのでしょう。何もしそうにない歩の住居にそれだけの野菜がストックしてあったのか、結が急遽買ってきたのか。たぶん、商店街のなかにある家だから買ってきたのかな。

別日、結と翔也(佐野勇斗)花(新津ちせ)と三人で神戸を訪問。肉を奮発してすき焼きを囲みます。ところが詩は大勢で食卓を囲むのが苦手と部屋にこもってしまいます。その夜、花は詩と並んで眠ります。花は詩を「友達」とみなし、人懐っこく話かけます。人とうまく話せないという詩に、うちと練習しようともちかけて……。

と、あらすじをだらだら書き記してもなんなんで(このレビューもこれ入れて4回ですから)、ここから論考的なことを書きます。「おむすび」の脚本は高度だと制作陣は当初から語っていました。どこが高度なのか考えてみます。

詩と花の会話の場面。花は、歌が好きだと言っていた詩にどんな歌が好きか聞きます。この質問はあの日、備品室に隠れたときにするのが自然でしょう。ところが花は好きなものが「歌」と聞くと、歌手になればいいと発想をすっとばしました。

歌が好き。どんな歌が好き? そこから話がはずんで、歌がうまいらしい。歌うのが好きらしい。などと情報を積み重ねてからの、歌手になれば? が妥当でしょう。でも、花はどんな歌が好きか、聞きませんでした。こういう人もいるにはいますが。この場合のそれは、のちに、どんな歌が好きか聞いて、浜崎あゆみや安室奈美恵が好きと聞いて、歩と同じ!と盛り上がる展開のためでしょう。

不自然なことを平然とどんどん書き続けていくってすごいことです。例えるなら、ジェンガ。一段抜き取って上に乗せるゲームです。「どんな歌が好き?」のセリフを抜き取って、先の回に乗せている。土台がぐらぐらしてハラハラしますが、なんとか上に積み上がり続けているのです、この脚本は。高度というか無謀というか。まるで雪山にサンダルで挑んでいるようなハラハラ感。野性味溢れています。これが「おむすび」の魅力です。

その昔、根本ノンジさんを助っ人や脚本協力として起用していた日本テレビの河野英裕さんに、筆者がインタビューしたとき「ペラ1枚くらいのアイデアを出してもらうのですが、できたものを『つまんない』と何度突っ返してもめげずに何度も書き直して持ってきていたのがノンジ君でした。ガッツがあるんですよね」と聞きました。話を聞いた当時はピンと来なかったのですが、いまはなるほど〜と思います。

まるで一段抜きとっていくような手法は、詩があゆの歌が好きと聞いて、歩が真紀を思い出し込み上げてくるものを抑えきれず席を立つ場面でも顕著です。そんな態度されたら、事情を知らない詩はショックでしょう。私もあゆが好き!といっしょに盛り上がってくれるのではなく、「眠くなっちゃった」とふいに席を立ってしまうのです。そんなんされたら、機嫌が悪くなったのかなと誤解するじゃないですか。いろいろ傷ついて人間不信になっている少女によけいな心配をさせてはいけません。いや、もちろん、大人とはいえ、傷をもった人はいるので、我慢しないといけないわけではないでしょうけれど。

「眠くなっちゃった」の場面で歩に感情移入するか、詩に感情移入するかで、この場面の受取りかたは変わります。筆者は詩に感情移入したので、歩が席を立って取り残されたとき、胸が潰れるような気持ちになりました。朝からしんどいっす。

たぶん、歩が席を立ったあと、戸惑う詩に結が事情を話したのかもしれません。そこをすっ飛ばし、翌日、歩は、自分の店で詩を働かせることにするのです。慕っていた人に、好きな歌の話をしたら、「眠くなっちゃった」と素っ気なくされたことの解決はデリケートなところです。連ドラだったら、詩が傷ついて、歩がごめん、そうじゃないのと事情を話して、すったもんだのすれ違いで、一時間の何割かを割くところです。雨のなか、出ていって追っかけて、抱きしめて、とかね。そのへん、容易に想像できるから、そこはもう要らないヨネと一段抜いてしまうわけです。大胆です。従来のセオリーにとらわれない、それが「おむすび」。

あと3回です。

結のNST存続の危機に関してはどうなるのでしょうか。あと3回ですよ。

(文:木俣冬)

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–{「おむすび」第24週あらすじ}–

「おむすび」第25週あらすじ

第25(最終)週「おむすび、みんなを結ぶ」3 /24-3 /28


愛子と聖人が糸島に移住することになり、一人前になった翔也(佐野勇斗)が神戸の理容店を継ぐ。

そんな折、結たち NST は来週手術予定のがん患者が食事を全く食べられないため 、 手術の延期を担当医に申し出るが、担当医は点滴で補給すればいいと延期に反対する。

さらに病院の上層部からの要請で、コロナの影響による人員不足に対処するため NST の活動が一時停止されることに。

一方、歩の元に退院した田原詩がしばらく泊めてほしいとやって来る。

結は詩の行く末を心配するが、 歩は詩に自分のアパレルの仕事をやらせ、やがて大きな決断をす る。

–{「おむすび」作品情報}–

「おむすび」作品情報

放送予定
2024年9月30日(月)より放送開始

出演
米田結(よねだ・ゆい)/ 橋本環奈
『おむすび』の主人公。平成元年生まれ。 自然豊かな福岡県・糸島で、農業を営む家族と暮らしている。 あることがきっかけで、人々の健康を支える栄養士を志すようになる。

【結の家族・米田家の人々】

米田歩(よねだ・あゆみ)/ 仲里依紗
主人公・結の8つ年上の姉。
福岡で“伝説のギャル”として知られる。 奔放な振る舞いで米田家に波乱を巻き起こすが、ギャルになった裏にはある秘密が…。
主人公・結の父。 娘のことが心配でしょうがない、真面目な性格。 奔放な父の永吉とは言い争うこともしばしば。 元理容師。今は糸島で農業にいそしんでいる。

米田聖人(よねだ・まさと)/ 北村有起哉
主人公・結の父。
娘のことが心配でしょうがない、真面目な性格。 奔放な父の永吉とは言い争うこともしばしば。 元理容師。今は糸島で農業にいそしんでいる。

米田愛子(よねだ・あいこ)/ 麻生久美子
主人公・結の母。
結の祖母・佳代と家事をしながら、聖人の営む農業を支えている。 絵を描くのが得意。

米田永吉(よねだ・えいきち)/ 松平健
主人公・結の祖父。
野球のホークスファンで、自由奔放な“のぼせもん”。 困っている人がいたら放っておけない、情に厚い性格。

米田佳代(よねだ・かよ)/ 宮崎美子
主人公・結の祖母。
古くから伝わる先人たちの知恵に明るく、結が困った時の良きアドバイザーでもある。

【福岡・糸島の人々】

四ツ木翔也(よつぎ・しょうや)/ 佐野勇斗
福岡西高校に野球留学中の高校球児。
四ツ木という姓と眼鏡姿から「福西のヨン様」と呼ばれている。 糸島に練習場があり、結と時々出くわす。栃木県出身。

古賀陽太(こが・ようた)/ 菅生新樹
結の幼なじみで高校のクラスメイト。野球部員。
父は糸島の漁師だが家業を継ぐ気はなく、IT業界を目指している。 ある約束により、結のことを何かと気にかけている。

風見亮介(かざみ・りょうすけ)/ 松本怜生
書道部の先輩。
結にとって憧れの存在。 書道のイメージを一新するような書家を志している。

宮崎恵美(みやざき・えみ)/ 中村守里
結のクラスメイトであり、高校での最初の友達。
結を熱心に書道部へと誘う。 派手なギャルが苦手。

真島瑠梨(ましま・るり)<ルーリー>/ みりちゃむ
結の姉・歩が結成した「博多ギャル連合」(略してハギャレン)の、現在の総代表。
ハギャレンの復興を目指している。

佐藤珠子(さとう・たまこ)<タマッチ>/ 谷藤海咲
ハギャレンのメンバー。
子どものころからダンス好きで、ハギャレンではパラパラの振付を担当。 筋が通らないことを良しとしない、一本気タイプ。

田中鈴音(たなか・すずね)<スズリン>/ 岡本夏美
ハギャレンのメンバー。
結と同い年で、いつもスナック菓子を食べている。 手先が器用で、ネイルチップ作りが趣味。

柚木理沙(ゆずき・りさ)<リサポン>/ 田村芽実
結のクラスメイト。
学校では校則を守るおとなしい女子高生だが、実は隠れギャル&ハギャレンメンバーでもある。ギャルの歴史を本にすることが夢。

ひみこ / 池畑慎之介
糸島の「スナックひみこ」の店主。
年齢、性別、経歴、すべてが不詳の謎の人物。 糸島の住人一人一人の事情をなぜか把握している。

草野誠也(くさの・せいや)/ 原口あきまさ
糸島の商店街で陶器店を営んでいる。
ホークスの大ファン。

古賀武志(こが・たけし)/ ゴリけん
結の幼なじみ・陽太(ようた)の父親。
糸島で漁師をしている。

大村伸介(おおむら・しんすけ)/ 斉藤優(パラシュート部隊)
糸島の商店街で薬店を営んでいる。
ホークスの大ファン。

井出康平(いで・こうへい)/ 須田邦裕
結の父・聖人(まさと)の幼なじみ。
糸島の農業を何とかしたいと日々奮闘している。

佐々木佑馬(ささき・ゆうま)/ 一ノ瀬ワタル
結の姉・歩と行動を共にする“自称・米田歩のマネージャー”。

大河内明日香(おおこうち・あすか)/ 寺本莉緒
結の姉・歩と対立していた、元天神乙女会のギャル。

飯塚恭介(いいづか・きょうすけ)/ BUTCH
福岡県博多のカフェバー「HeavenGod」の店長。


根本ノンジ

音楽
堤博明

主題歌
B’z「イルミネーション」

ロゴデザイン
大島慶一郎

語り
リリー・フランキー

制作統括

宇佐川隆史、真鍋 斎

プロデューサー
管原 浩

公式サイト

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