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2015年05月21日

是枝監督が溝口作品への思いを語る。カンヌ・クラシック部門『残菊物語』

是枝監督が溝口作品への思いを語る。カンヌ・クラシック部門『残菊物語』

現在開催中のカンヌ国際映画祭クラシック部門で現地時間2015年5月18日に1939年制作の『残菊物語』デジタル修復版が上映されました。

残菊物語



溝口健二監督のワンシーン、ワンカットの技法の完成度を一気に高めた作品と言われる本作。可燃性フィルム時代に製作された作品を、オリジナルから数世代を経たネガ、マスターポジを4Kでスキャニング、傷の修復やユレを補正し、画調を整え修復という非常に手のかかった修復作業で蘇らせています。さらに音声は、保存状況が原因のノイズをクリアにしたデジタル修復版として、よりリアルに当時の状態に近づける修復作業が行われています。

上映前には、ゲストに是枝裕和監督を迎え、上映前のプレゼンテーションが行われました。

是枝裕和監督プレゼンテーション書き起こし


2年前の小津安二郎『秋刀魚の味』のプレゼンターに続くプレゼンターを任させれまして非常に自 分の上映より緊張してここにやって来ました。

この部門を作っていただいてこのように毎年、映画史に対するリスペクトの念をきちんと表現されている映画祭のみなさまに感謝を伝えたいと思います。ありがとうございます。  溝口健二の研究家でもないですし、それほど多くの作品を観ているわけでもないですのでここで 語ることはかなり個人的な話になることをお許しください。

ここ数年歌舞伎の勉強を自分なりに始めていまして、その段階で今日上映されるこの溝口さんの素晴らしい『残菊物語』をこの数年繰返し繰返し観ていたという偶然があり、これも何かひとつの 縁だろうと思ったのが一つの理由です。

もう一つは僕の『ワンダフルライフ』という映画に香川京子さんという女優さんに出ていただい てまして香川さんは溝口の『近松物語』に主演されています。その香川さんから撮影が終わった後 に「古いポスターがあるんだけれど、いるかしら」と言われて、小津の『東京物語』と溝口の『近松物語』『山椒大夫』という彼女の出た日本映画史の3本の傑作の公開当時のポスターをいただいて、今、僕の自宅に3枚が飾ってあります。ここで溝口の上映プレゼンターを断ると僕はそのポスターを飾る資格がなくなるのではないかという、そういう恐怖からここへやってきました。

作風に共通性を感じておられない方が多いと思われるのですが、空間の中で人間をどう動かして、カメラをどう動かすかという監督の職業を突き詰めて考えていくときに、やはり、最終的に溝口の名前というのは考えざるをえない存在だなと最近よく考えています

香川さんが溝口の演出について語った言葉がいろいろなところで紹介されているのですが、そのひとつに現場で役者に対して「反射してますか」と「反射してください」と繰返し役者に話すということを聞いたことがあります

反射ということは演技の基本であるという溝口さんの考え方を僕なりにとらえた結果と言ってもいいと思うのですけれど、僕自身も自分の撮影の現場で用意してきたものをそこで再現するので はなくて、そこで生まれたものに自分が反応していく、役者の芝居に反応していく、役者同士も相手のセリフに反応していく、その瞬間瞬間の反応の連続が演出というものにつながっていく、映画撮りにつながっていく、そういうような撮影現場の捉え方というのを僕はしてきているのですが、そのあたりは溝口さんの「反射してますか」という言葉とつながっているような気がします。

みなさんがご覧いただく作品について僕が多くを語ることは失礼にあたると思うので、『残菊物語』については、一つだけお話しすると、溝口の多くの作品の中に描かれる非常に重要な瞬間とい うのがあって、それは最高に幸せな瞬間ととても不幸な瞬間というのがひとつの画面のなかに同居している。端から見ていると非常に不幸なんだけれども、本人たちは幸せであるという感情を二重に重なり合わされている形で登場している、そういう瞬間がよくあります。

この映画のなかにも自分が最初に使用人として入った家で最終的には妻と呼ばれる存在となる一 組の夫婦が、夫は舞台の上にいて、妻は舞台袖でその夫の芝居を見ているその瞬間、今お話したような非常に複雑な残酷なシーンがあります。そこを見るたびに僕はいつも鳥肌が立つのですけれども、そんな非常に溝口的な瞬間が随所に現れている作品だと思いますので、是非ごゆっくりご覧ください。

上映会場では「最高でした!」の声が


今回の上映会場では、観客の感想では「かなり古い作品なのにきれいに修復されていたクオリティも素晴らしかった。森赫子の演技が秀逸だった。」(米・20代男性)「最高でした!」(仏・50代女性)  などの反響があり、「とても楽しめました。普段、日本の歌舞伎や歌舞伎座のことを知る機会がないけれど、その機会を提供してくれたことに感謝します。」(仏・60代女性) と、海外の観客からも感動したとの声が相次ぎました。

カンヌ国際映画祭での上映は、画・音ともに現在のデジタル修復技術によって蘇った『残菊物語』。デジタル修復版のワールド・プレミアとなり、創業120年を迎える松竹にとっては 2012年から4年連続クラシックス選出の快挙となっています。

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