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2015年07月28日

戦後70年の今、戦争を改めて考える―半藤一利&原田眞人監督フォーラム全文

戦後70年の今、戦争を改めて考える―半藤一利&原田眞人監督フォーラム全文


本木雅弘が演じる昭和天皇


天日:
この映画の中で極めて重要な登場人物であります“昭和天皇”。昭和天皇について原田監督のほうからお願いいたします。

監督:
昭和天皇は、1番最初に誰に演じてもらおうかという、これがものすごく重要だったんですね。最終的には本木さんになったわけなんですけど、最初候補は4人くらいいて。準備に入った時には、本木さんロンドンだったんですね。ご家族と一緒に向こうに居られて。別の人から色々交渉をはじめて。

日本のいちばん長い日 原田眞人監督



昭和天皇の僕のコンセプトとしては何かというと、本木さんはもちろん実際の昭和天皇よりもハンサムなんですが、美しいとか美しくないとかそういうことではなくて“気品”ですよね。

昭和天皇は、たとえばマッカーサー司令官が昭和天皇に会った時に、最初に感動しているわけです。それで、2回目からは昭和天皇に対しては“サー(Sir)”という敬称をつけて話しているんです。つまり、昭和天皇には実際にお会いすると“神のすえ”という形の何か違うものがあったであろうと。

これが戦後、ニュースフィルムであるとか写真とか、そういったものからは匂ってこないです。そういう昭和天皇の神がかりの雰囲気、それから人間味というものは、実際に2時間16分の映画の中にいれるとしたら、スター性があって、カリスマ性があって、なおかつ昭和天皇を理解してくれている、そういう俳優さんということで最終的に本木雅弘さんになりました。

それで、本人も言われていることですから敢えていいますが、本木さんというのは「史上最大の決断を毎日下さなければいけない」くらい“優柔不断な人”なんですね。全てのことに迷うんですって。

ですから、昭和天皇みたいな役をオファーされたら、これはもう悩みの悩みの悩みなんですね。で、ものすごい時間かかったんです、了承してくれるまで。最終的には、義理のお母様の樹木希林さんがプッシュしてくれて。樹木希林さんとは『わが母の記』で一緒にやっていたので「原田作品ならあんた出なさいよ」と言ってくれて、最終的にOKしてくれたんですね。

本木さんとは色々メールでやりとりして、撮影が去年の10月中旬に始まったんですが、本木さんが戻ってこられたのが11月3日。その時に、彼の中にすでに昭和天皇の像として降りてきたものがひとつあって、ただひとつ悩んでいたのが“眼鏡”です。

昭和天皇というのは、この15年戦争、最後の太平洋戦争だけじゃなくて、満州事変からはじまる15年戦争の中で眼鏡が2タイプあるんですね。ひとつは縁無し、もうひとつは銀のフレーム。「これどっちにしましょうか」と彼は悩んでいたんですね。

僕も見てみると、どちらも合っている。縁無しだと形はいいんだけど本木雅弘が前に出過ぎる、銀のフレームがあると、天皇に見えるけれども、どうも今ひとつ腑に落ちない。それで悩んでいた。

僕の方も「どっちがいいでしょうね?」と言われて「どっちもいいけど…」と受け応えしたら、11月3日に撮影が早く終わった後、全員じゃないんですけど美術部とか録音部とか全部のスタッフがいたので、本木さん挨拶したいって言ってくれて。それでスタッフを一同に集めました。28人いました。

本木さん、ものすごく腰が低い方なんです。「はじめまして、私今回昭和天皇を演じさせて頂きます、本木雅弘です」って挨拶をはじめて。そして、1番最後に「実は眼鏡で悩んでいます」と言って、みんなに銀縁のやつと縁無しのやつをかけて「どちらがいいでしょう?」と聞いたんです。そしたら、14対14だったんです。これで彼がまた悩んで、彼の出番がその1週間後でしたから。

みなさんご覧になれば、どっちかわかると思いますけど、両方使っています。

時を経て描ける昭和天皇の姿


半藤:
今から48年前に岡本喜八監督が映画を作った時に、昭和天皇を表に出せなかったんです。先代の松本幸四郎というものすごい大物を使っているんですが、後ろ姿しか映せなかったんです。要するに、昭和天皇は、ほとんど発言をしないっていう風な映画だったんですね。

でも、本当にこの終戦というのは鈴木貫太郎が“鞠躬如”として静かに前に進んで「陛下のご決断を」と言った瞬間の、この天皇は「私は外務大臣の意見に賛成する」といって戦争をこのまま集結するということに断を下したところに、一番大事なところがあるわけなんです。

ですから、昭和天皇が主役にならない映画っていうのは無いわけなんですが、今度はじめてそれがそっくり出てきたというので、私は本当に「これで終戦というものはある程度分かったんじゃないだろうか」ということで、原田監督には大変感謝しています。そして、この時代というものがそのくらい変わったんだなということを痛感しております。

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