映画コラム

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2015年09月15日

『天空の蜂』へと連なる 日本映画の核との対峙

『天空の蜂』へと連なる 日本映画の核との対峙


東日本大震災および福島原発事故のあと
作られ続ける意欲作たち


その東日本大震災と、それに伴う東京電力福島第一原発事故の後、事故そのものを背景に据えた日本映画も徐々に登場してきます。

園子温監督の『希望の国』(12)は、放射能に汚染された区域からの避難を拒み続ける酪農主とその妻、および子どもたちの悲劇を描いたもの。社会派的作品ではありますが、夏八木勲と大谷直子が扮する夫婦の絆など人間ドラマとしても秀逸な問題作でした。

内田伸輝監督の『おだやかな日常』(12)では、東京在住の主婦が放射能の恐怖におびえるあまり、世間から迫害されていく悲劇を描いています。これは当時、実際に都内近郊のママさんたちの間で起きた出来事を参考にしているようです。
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菅野廣監督の『あいときぼうのまち』(14)は、終戦直前の1945年から福島と原子力の因縁が実は始まっていたという事実を基軸に、親子4世代の福島の家族の歴史の中から、見る側に愛と希望の未来を問うていく問題作。

太田隆文監督の『朝日のあたる家』(13)は、原発事故に翻弄されていく家族の悲劇とその絆を描いたもの。現在、安保法案や原発再稼働などに際して鋭い論調で議論を巻き起こし続けている参議院議員の山本太郎の出演も話題になりました。

似内千晶監督のデビュー作『物置のピアノ』(14)は、放射能や風評被害におびえながらも日々の生活を営む福島の桃農家の次女の不器用な青春をつつましやかに描いた秀作。現在TV『表参道高校合唱部!』などで話題の芳根京子の映画初主演作でもあります。

松島哲也監督の『ソ満国境15歳の夏』(15)は、かつてのソ連軍による満州侵攻に翻弄された日本の少年たちと、現在の福島に住む若者たちをだぶらせながら、歴史の悲劇を訴えつつ未来への希望を示唆する意欲作でした。

変わったところでは、金子修介監督の『少女は異世界で戦った』(14)は、かつての歴史を反省して核も銃器もない世界に、核も銃器もある世界からの侵略者と戦う美少女戦士たちが織りなすSFアクション映画。武田梨奈をはじめ、清野菜名、花井瑠美、加也乃といった若手女優たちの壮絶な立ち回りの中から、核批判が浮き彫りにされていきます。

また河崎実監督、壇蜜主演のエロティック・パロディSF映画『地球防衛未亡人』(14)は、原発の使用済み核燃料を食料とする宇宙怪獣をわがものにしようとする日・韓・中・米の思惑と、その怪獣に夫を殺されたヒロインの復讐を描いた、実はなかなかに反骨の内容なのでありました⁉
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こういった流れの中、『天空の蜂』は、単なるポリティカル・サスペンス映画の枠を超えて、原発にまつわる現代人のさまざまな想いを巧みに描いています。

秀逸なのは原発賛成派のみならず反対派の闇まで描き得ているところでしょう。これによって本作はエンタテインメントを通した一級の人間ドラマとして屹立することになったのではないかと確信しています。

ぜひご覧になり、核をはじめとする科学の進化と未来の行方を、それぞれの想いをもって判断していただければと思います。
また、今回ざっと挙げた作品群も、なにがしかの役に立つのではないでしょうか?
(今回挙げた作品は、ほんの一例です。また最近急増中の、原発や核をモチーフとした記録映画も省かせていただきました。それらはまた別の機会に)

■「キネマニア共和国」の連載をもっと読みたい方は、こちら

(文:増當竜也)

映画『天空の蜂』は現在絶賛公開中!
公式サイト http://tenkunohachi.jp/
https://www.youtube.com/watch?t=7&v=UQ7HXQTzbKs
(C)2015「天空の蜂」製作委員会

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