「第3回蒲田映画祭 シネパラ蒲田」香川京子トークショーリポート
大スター・原節子さんとの共演
また、ロケに使った旅館はまだ残っていて、旅番組で何度か訪れたことがあるというお話から、撮影時は隣の部屋が姉役の原節子さんの部屋だったという話題も。
「原さんは憧れの人だったので、本当にうれしくて。小津組に参加できる喜びというより、原さんと一緒にお仕事ができることの方がうれしい気持ちで、小津監督には申し訳ないですね(笑)」と今だから話せるお話も飛び出します。
香川さんが芸能界に入った時にはもう大スターだったという原さんに対しては「本当に美しい方で、笑顔が太陽のような方。明るくて温かくて。何を話したわけではないけれど、他愛ない世間話をして、それが楽しかったですね」と思いを語っていました。
原さんとの共演作は『東京物語』が最初で、その後にも映画『女囚と共に』や『驟雨』などで共演されています。
世界で評価されている映画『東京物語』
『東京物語』は60年以上前の作品ながら、2012年に世界の映画監督が選んだ映画のベスト1に選ばれたり、2015年10月に開催された韓国・釜山の国際映画祭でアジア映画ベスト100の中で1位を獲得した映画でもあります。
香川さんは当時は演じた京子という役の気持ちそのもので演じられたけれど、自分も歳をとっていくにつれてその年齢の登場人物の気持ちがわかってくるようになったとお話され、「その年齢年齢で、なるほどなぁと思うんですね。世界中でこの『東京物語』が評価されるということは、どの国の人でもその年齢ごとに共感される作品なので、すごいなぁと思うんです。たとえば一冊の小説があったとして、若い時に読んだ時と中年になったとき、また歳をとったときに読んで違う感動を覚える。そんな一冊の本を読むような作品だと思いますね」と作品の奥深さを語っていました。
また、ニューヨークでの映画祭で公開された際には、日本人の来場が多いであろうという香川さんの予想に反して、現地の若い人がほとんどだったというエピソードも。
香川さんは、その映画祭に持っていったという「小津安二郎 全発言 1933~1945」の内容を引用しながら、監督の考えややり方をどう受け止めたかといったお話もされていました。
そしてトークセッションの最後に「フリーになったおかげで、溝口健二監督や黒澤明監督などいろんな監督とお仕事をさせていただいたけれど、私はやっぱり一番若手でしょ? だから、日本中の皆さんが期待している大監督の新作に出るということに、私が台無しにしてはいけないという責任感があって、それだけでしたね。出来上がった作品を観ると出られてよかったなと思うんですが、撮影中は不安と緊張の連続でした。小津監督の作品に出られたのは『東京物語』というたったひとつの作品だけなんですけど、世界的に評価される作品に参加できたことはなんという幸せなことだとしみじみ思いますね」と締めくくっていました。
イベントの最後には客席からの質問コーナーも
トークセッションに続いて行われた客席からの質問に香川さんが答えるQ&Aでは、気になっていたことを思い思いに質問され、中には立花さんが驚くような質問もありました。
質問「小津監督と原節子さんの関係というのは、現場でご覧になっていていかがでしたか?」
香川「当時は子供だったから、そんなこと考えもしなかったですね(笑)。そんなことはなかったと思いますけど…。でも、演じるというのと結婚というのはまた別じゃないかなと思いますけど。原さんに聞いていただかないとわからないです(笑)」
立花「私などは聞けないようなことを、すぐ聞いていただいて(笑)」
質問「今までやってきた映画で印象的だった役や作品を教えてください」
香川「溝口健二監督の「近松物語」ですね。芝居ができなくて、死にたいくらい苦しんだ作品なんですが、人妻役も京都の言葉も、着物のすそを引いて歩くのも初めてで、初めてづくしだったんです。ちなみに、最初はおたまという女中の役だったのにベニスの映画祭から日本に帰ってきたら役が変わっていて、よくわからないまま京都にいきました(笑)。溝口監督は小津監督と正反対で、演技指導を一切しない方なんです。「俳優というのはセットに入ったときにその役の気持ちになっていれば自然と動けるものだ」とおっしゃるんですが、どうやっていいのかわからなくて本当に辛くて、おこう役の浪花千栄子さんにいろいろと教えていただきながら。監督には芝居というのは自分の番だからセリフを言うんじゃなくて、相手の言葉や動きに反射してくださいと言われ続けて、それが芝居の根本だと教えていただきました。それで、黒澤組に行ってもできたと思うんです。だから、やっぱり溝口監督のご指導が私の中に一番残してくれたと思います」
質問「一番好きな日本の俳優、海外の俳優を教えてください」
「男性では森雅之さんが憧れでした。共演したかったんですけど、私にはそのチャンスがなくて。ラジオでご一緒したことはあるんですが。どんな役をなさっても、ぴったりこなされる素晴らしさ。森さんの演技が好きでしたね。女優さんは、原さん始め尊敬する方はたくさんいらっしゃいます。海外の女優さんはイングリット・バーグマンが好きで、男性はあまりいないですね(笑)」
『東京物語』を中心に、出演作品の撮影当時を懐かしむ様子でお話される香川さんの姿が印象的なイベントでした。
「第3回蒲田映画祭 シネパラ蒲田」公式サイト
http://www.o-2.jp/cinepara
(文・取材:大谷和美)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。