日本一小さな映画館! シネマノヴェチェント
シネマズby松竹の新企画、全国各地の名物映画館を訪問し、その魅力をご紹介していきます!
《ちょっくら映画館に行ってきました。vol.3》
第3回:シネマノヴェチェント(神奈川県横浜市)
シネマノヴェチェントは京浜急行線戸部駅もしくは相模鉄道線西横浜駅から徒歩10分のところにある、客席数28席という日本最小を自負する(?)映画館。フィルムにこだわったプログラムや、ここでしか見られない初公開洋画作品などユニークな編成は既に映画ファンの間で評判となっている。さらには場内の隣に飲食スペース“トラットリア”も設けられており、鑑賞後は軽く一杯やりながら、見たばかりの映画について語り合うこともできる。
今回は、株式会社シネマノヴェチェント代表取締役の箕輪克彦さんにお話をうかがった。
シネマ・バーを移転して
新たなオープン
「もともとは小田急線読売ランド前駅のほうで“ザ・グリソムギャング”(ロバート・アルドリッチ監督作品『傷だらけの挽歌』の原題“THE GRISSOM GANG”から採られている)というシネマ・バーを2002年8月からやっていたのですが、建物の老朽化で取り壊すことになったので、13年11月をもって閉め、こちらに引っ越して15年2月7日より“シネマノヴェチェント”として新たにオープンさせていただくことになりました。
前の店のときから、週末だけですが関係者を呼んで上映し、その後で懇親会をやるというのが一つのフォーマットだったのですが、それをここでも踏襲してやらせていただいております」
ちょうど取材にうかがったとき(15年12月末)は今関あきよし監督特集が組まれており、監督が来館してのトークショーが開催されていたが、2016年も『メカゴジラの逆襲』が上映される1月23日(土)には中野昭慶特技監督、24日(日)には高山由紀子(脚本)、山下賢章(当時助監督)トークショーが、また1月30日(土)には日活青春映画の秀作(ソフト未発売)『私は泣かない』主演の和泉雅子と石森史郎(脚本)のトークショーなど多くの催しが行われる予定だ。
(詳細はホームページをご参照ください:http://cinema1900.wix.com/home)
「来館していただく関係者の方々には、本当に感謝しております。東宝特撮ものはおかげさまで、いつも盛況ですね。『私は泣かない』は持ち込み企画なのですが、和泉雅子さんは開館時に『非行少女』を上映したときもいらしていただいて非常に盛り上がりまして、あれからちょうど1年ぶりの来館となります。また2月には往年の伝説的名画座・大井武蔵野館のプログラムとスピリッツを受け継いだ形で、丸根賛太郎監督祭なども企画しています」
宿願だった
自主配給への挑戦
またこちらの劇場で目を見張るのは、ここでしか見られない作品を自主配給していることだ。現在イアン・シャープ監督、ルイス・コリンズ主演『SAS〈特殊部隊〉人質奪還指令 ファイナル・オプション』(82)とケン・ヒューズ監督、ジェームズ・コバーン主演『恐るべき相互殺人』(74)が定期的に上映中である。この2作、未公開ビデオや深夜テレビ放送などで伝説とされていた映画マニア垂涎の作品であり、日本での劇場公開はこれが初めてとなる。
「スティングレイさんから『ファイナル・オプション』のDVDが出たとき、本国から送られてきたマスターは35ミリ・フィルムだったのですが、DVD化の作業が終わってフィルムは倉庫にずっと眠ったままという話を聞きまして、もったいないなと思いまして。もともと前の店のときから自主配給は夢でしたので、では今回のオープンにあたってやってみようと。
『恐るべき相互殺人』のほうは、かつてテレビ東京などで見て大好きな作品でしたので、これも一緒に配給したいと思ったのですが、権利関係などに少し時間がかかって、さすがにオープニングには間に合いませんでしたね。
『ファイナル・オプション』は国内にもファンの多い作品で、福岡から見に来られたかたもいらっしゃいました。こちらは1月31日で上映権が切れてしまうので、イベントを企画していますが、今後も自主配給活動は続けていきたいですね。洋画だけでなく、日本映画の埋もれた作品なども発掘していきたいです」
70~80年代映画ファンとしての
フィルムなどへのこだわり
ただし、フィルム上映にはこだわってゆきたい。
「そこは譲れないですね。『午前十時の映画祭』もプリントで上映していたときは良かったのですが、デジタル上映になってからは正直がっかりですし、まるで大きいテレビを見ているようですから、それなら自分の家で見たほうがいい。
もちろん最初からデジタルで制作されたものはそれでいいし、こちらもデジタルの上映設備は整えていますが、フィルムで制作された作品に関しては、特にシネマスコープはちゃんとフィルムで上映したいですね」
ちなみにシネマノヴェチェントの館名は、ベルナルド・ベルトルッチ監督作品『1900年』の原題“NOVECENTO”から採られたもの。
(ちょっとした映画通なら、この館名だけでピンとくるものがあるだろう)
「本当は『1900年』をこけら落としでやりたかったほどなのですが、何せ5時間半の映画ですから一日それだけになってしまうし、それでお客さんが来なかったら開店休業になってしまうので断念しました(笑)。また『1900年』もヴィットリオ・ストラーロ撮影監督の映像が素晴らしいわけで、やはりフィルムで上映したいですよね」
場内に飾られた懐かしの映画ポスターや、伝説的絵看板師・大下武夫による表画、さらには配給作品のチラシなどなど、至るところに1970~80年代の映画ファンの香りとこだわりがうかがえる。
「チラシのデザインをやってくださった中平一史さんがやはり70年代映画世代で、話をしていてもツーカーで通じ合える。ならば70年代風のチラシを作りたいとお願いしましたら快く引き受けてくださいまして、そして完成したものは『ファイナル・オプション』は東急レックス系で、『恐るべき相互殺人』はジョイパックフィルム配給風の雰囲気のものに見事仕上がっていました(笑)」
今は映写技師も厨房関係も、箕輪さんがひとりでやっている。
「お客さんからは『人を雇ったら?』とか『少し休んだら?』とか言われますけど、僕自身はこのほうがストレスがないですね(笑)。基本的には自分のやりたいものをやっていますし、スペース的にも自分の身の丈にちょうど合っている感じがします。
また、自分が好きではない作品なども、意外とやってみたら面白いことがあるかなとも思っています。持ち掛け企画にも柔軟に対応しておりますし、そういった中で自分のすそ野をどんどん広げていきたいですね」
自らの映画ファンとしてのこだわりと観客へのサービスを、“日本最小”であることを最大限に活かしながら両立させているシネマノヴェチェント。
老若男女それぞれが、さまざまな発見と歓びを見出せる映画館である。
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(取材・文:増當竜也)
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