映画コラム
非モテ系男子のバイブル『ボーイズ・オン・ザ・ラン』でダメ男の輝きを見よ!
非モテ系男子のバイブル『ボーイズ・オン・ザ・ラン』でダメ男の輝きを見よ!
いよいよ4月23日に、花村健吾原作の人気マンガを実写化した『アイアムアヒーロー』が公開されます。主演は大泉洋さん、ダブルヒロインに有村架純さんと長澤まさみさんという豪華キャストを迎えた日本初の本格ゾンビエンタテイメント作品です。
(C)映画「アイアムアヒーロー」製作委員会 (C)花沢健吾 / 小学館
原作コミックと花村健吾さんのファンである僕は、これを機に作者の出世作『ボーイズ・オン・ザ・ラン』映画版をあらためて見てみたんだけど、忘れていた衝撃に打ちのめされて、しばし呆然としてしまいました。
ということで今回は、日本映画界において前代未聞のゾンビ・パニック・ムービーを生み出した花沢健吾さんの、さらに前代未聞とも言える衝撃作『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の見どころを紹介します。
非モテ系男子のバイブル
主人公・田西は29歳にして実家暮らしの冴えないサラリーマン。彼女いない歴=年齢の素人童貞。誕生日にテレクラへ行ってそこで出会った女に殴られるというかなり痛い状況から映画はスタートします。
愛想笑いもできず仕事もできず頭の中はエロいことばかりですぐにパニックになる、まさに典型的な非モテ系ダメ男の田西ですが、飲み会での接触を機にずっと恋心を抱いていた同僚のちはるちゃんとイイ感じになって有頂天。
と思ったら、隣に住むソープ嬢の部屋に裸でいるところをちはるちゃんに見られてあえなく自滅!という、もう見てるこっちの方がつらくなってくるような痛い展開がつづきます。
それからも、誤解を解きたいんだけど勇気が出なくて酒を飲みまくって同僚の結婚式のスピーチで泣き叫んでみたり、ちはるちゃんを弄んだ男を殴りにいって返り討ちにあったり、不器用でも間違っててもかっこ悪くても「とにかくやるしかない!」と青春を疾走する姿が、全国の非モテ系男子の心をつかんで離しません。
というか、原作のマンガもそうなんだけど、田西が持っている非モテ系ダメ男の要素って誰にでも少なからずあるんですよね。イケメンのモテ男だって、そういう情けなさやかっこ悪さを巧妙に隠して生きていける器用さを持っているだけかもしれません。
そんな「非モテ系男子のバイブル」と呼ばれる本作ですが、じつはすべての男たちにとっての「青春のバイブル」なのでしょう。
映画なのに、がんばってもがんばってもうまくいかない!
とはいえ、本作は「ダメ」を肯定してくれません。映画なので、がんばってればそのうち田西だって報われるだろうと思いながら見るんだけど、がんばってもがんばってもちっともうまくいかない!
恥を捨てて結婚式のスピーチで「私はあなたが大好きです!信じてください!」って絶叫したら、ふつう許してくれそうじゃないですか? でもちはるちゃんは「大嫌い」とメールしてくるだけで話もしてくれない。
女のために奮起してボクシングのトレーニングとかしていたら、ふつう女が感動して駆け寄ってきそうじゃないですか? でもちはるちゃんは「もしかしてヨリ戻せるとでも思った?大ッキライだから」とさらに追い討ち。
戦う理由を失っても自分のために戦うんだと宿敵を殴りにいったら、ふつう死闘の果てに勝てそうじゃないですか? でも一発のパンチも当てることができずボッコボコにされたあげくに、「何もしてこなかった奴が勝てるわけないんだよ」と、悪役に真理をつかれてもうどうしようもない。
嫌われても報われなくても戦う男の姿は、最後には女の心をつかみそうじゃないですか!?でも……。
とにかくもう、救いようがないくらい報われないのです。
でもそこが、予定調和がまったくない究極のリアルであり、そんな残酷物語だからこそ、どこかコミカルで、そこに青春の光が眩しく見えるのです。
『アイアムアヒーロー』との共通点は?
映画版『アイアムアヒーロー』はまだ見ていないので原作との比較になりますが、こっちの主人公も負けず劣らずダメ男です。鈴木英雄は将来が見えない35歳のマンガ家アシスタントで、臆病すぎて窮屈な人生を歩んでいます。
(C)映画「アイアムアヒーロー」製作委員会 (C)花沢健吾 / 小学館
これは花沢作品の一貫したテーマのようですが、ダメ男が隠し持っていて自分でも見つけられていない、最後の光とでも言うべき「宝物」を描いているんじゃないかと僕は思っています。
29年間の人生の中で1度も何かに本気になったことがなく、いつも逃げ回っていた田西は、ちはるちゃんという初めて本気になれる存在に出会って、不器用ながらに走りはじめます。かっこわるくても、間違ってても、嫌われても、生きてるからには疾走しなければいけない。そんな強い生命力を感じます。
『アイアムアヒーロー』の英雄も、崩壊した世界で生きのびるために少しずつ臆病な自分の殻を破って、かっこ悪いながらも成長していきます。
「恋愛」と「ゾンビ」___舞台こそ違えど、そこにあるのはダメ男が輝く瞬間です。そしてそのダメ男というのは、僕や彼や彼ら、すべての男の中にいる自分のことかもしれません。
日本初の本格ゾンビエンタテイメントも楽しみですが、その前に、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』で崩壊してない世界でダメ男が輝く瞬間を見てみてはいかがでしょうか。
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(文:茅ヶ崎の竜さん)
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