旅する音楽『LIFE!』の魅力、音楽をポケットに携えて
みなさん、こんにちは。
いよいよゴールデンウイークが近付いてきました。中にはもう既に旅行の予定を入れている方もいるのではないでしょうか。
今回の『映画音楽の世界』では、旅に出たくなるような映画をご紹介しながらその音楽についても注目してみたいと思います。
その一歩が旅の始まり。『LIFE!』の音楽の役割
今回みなさんにお勧めしたいのは、2013年の映画『LIFE!』です。
監督は、主演も務めたベン・スティラー。この作品は1947年公開の『虹を掴む男』のリメイクですが、現代を舞台に随所にベン・スティラーらしいコメディ要素を散りばめつつ、一人の男が世界を飛び回る旅の中で「一歩を踏み出す勇気」を得てやがて成長していく姿を、アイスランドやアフガニスタンなど、ダイナミックで美しい景色を背景に描いた映画になっています。私自身、近年のベストに挙げたいくらい好きな作品でもあります。
空想の中だけで描いてきた「なりたい自分」に、旅を通して「なりたい自分」になっていくウォルター役のベン・スティラーの熱演も素晴らしく、映画を支える演技、ビジュアルセンスなど、彼の多才ぶりに驚かされます。
それは音楽のセンスにもはっきりと現れていて、全編を彩る劇中使用歌曲、劇伴ともに素晴らしく、鑑賞後に大慌てでコンピレーション盤、スコア盤サウンドトラックを購入しようと走ったものです。
この映画では予告編の段階からホセ・ゴンザレスが歌う主題歌[Step Out]が話題になりました。圧巻の映像美と物語のスケールを表現しているようなメロディで、広大な大地を一人の男が巡り巡る様子を音に置き換えたような壮大なコーラスも用いた、感動的な楽曲に仕上がっていました。
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実はこの曲は、映画の劇伴を担当したセオドア・シャピロが作曲を担当しています。つまり、[Step Out]は『LIFE!』のために書き下ろされた楽曲で、それもあって映画の世界観にぴたりと当てはまったナンバーに仕上がっていたのではないでしょうか。
旅を彩る音楽。そのスパイス。
劇伴を担当したセオドア・シャピロはベン・スティラーとは『ズーランダー』、『トロピック・サンダー』でもタッグを組んでいて(ちなみに最新作『Zoolander2』も担当)、安定の信頼関係。スーパーマンもびっくりな街中でのバトルでは電子音を多用したスコアで盛り上げる一方、ウォルターがバックパックを背負って旅をする場面ではオーケストラに民族楽器やコーラスを使用することではっきりと色分けを行い、旅を通して変化するウォルターの心情には音の厚みをあえて減らしてアコースティックに寄り添うような表現でアプローチしています。
この計算されたスコアと、ベン・スティラーの演技が見事にマッチして、一層映画を引き締めていたように思えます。
主題歌、劇伴だけでなく挿入歌も絶妙な選曲で、特にデヴィッド・ボウイの名曲[Space Oddity]の使い方は鳥肌ものでした。ウォルターの空想上ではありますが、カースティン・ウィグ演じるウォルターの憧れの同僚シェリルがグリーンランドの片隅の酒場でギターを片手に[Space Oddity]を優しく歌い上げ、その歌声に後押しされてウォルターがヘリコプターに飛び乗るという、音楽がウォルターに「次の一歩」を踏み出させるスパイスとして抜群の効果を発揮していました。
世界を、見よう。駆け出した男の応援歌
先に紹介しました[Step Out]は予告編でも使用されたこともあり知名度が高いのですが、私としてはエンディング曲として使われた同じくホセ・ゴンザレスが歌う[Stay Alive]を強く推したいのです。
この曲では冒頭からピアノのメロディの後ろ側で、何かを待ち続けているような秒針音が流れ続けます。それはまるで映画のオープニングから、何度も立ち止まっては物思いに耽けるばかりのウォルターを表すように。そこにドラムリズムが加わることで、導かれるように一歩を踏み出したウォルターを、さらにアップテンポのスネアドラムが加わって、世界中を駆け巡ったウォルターを表したのではないかと私は思います。
この一曲に、一人の人間としてのミティの成長と彼が辿った足跡が投影されていて、より感動的なエンディングに仕上がっています。そしてこの曲は冒頭と対になってラストで再び秒針音が使われていますが、それに同じテンポで手拍子が付け足されています。よくよく聴いていると、まるで私たちに「さぁ、次はあなたの番ですよ」と音楽が語りかけてきているように思えて来ないでしょうか?
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まとめ
新しい春を迎え環境の変化に戸惑っている方もいるかもしれません。あるいは劇中の主人公同様いつもと変わらない日常に刺激を求めて「なりたい自分」を描いている方もいるかもしれません。
せっかくの機会です。バックパックに荷物を詰め込んで。パスポートの期限も確かめて。旅する音楽を携えて、「一歩を踏み出す」「世界に飛び出す」扉を開けてみてはいかがでしょうか。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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(文:葦見川和哉)
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