大人こそ楽しめる!「ピクサー展」7つの魅力

現在、東京都現代美術館で開催されているピクサー展に行ってきました。

ピクサー展1



入場制限こそしていませんでしたが、平日でもたくさんの人で賑わっていました。
(週末は入るまでにかなり並ぶこともあるようで、その日は使われていませんでしたが「入場まで◯分待ち」の看板もありました。)

入り口横で音声ガイドをゲットしていざスタート!

音声ガイドでは、ピクサー最新作の「アーロと少年」の日本語吹き替え版で、アーロのママ役を演じた安田成美さんと、「カーズ」シリーズのライトニング・マックィーン役の土田大さんが展示をさらに魅力的に伝えてくれます。

それでは、会場マップをベースに、展示の様子をご紹介致します。

1:イントロダクション


ピクサー誕生から現在まで30年の歴史をたどります。その出発点となったジョン・ラセター監督の最初期の短編映画「アンドレーとウォーリーB.の冒険」、そしてピクサーのロゴにもなったライトスタンド「ルクソーJr.」のアートワークが並びます。
「私はずっとこう思ってきた。真に偉大なアニメーション映画を作るためには、3つのことをする必要がある。
まず、観客が座席から身を乗り出すような、人々の心をつかんで離さないストーリーを考えること。そして、本当に印象深い魅力的なキャラクターたちを、そのストーリーに登場させること。最後に、真に迫る世界を創り上げ、人々の心をつかんで離さないストーリーと印象深いキャラクターたちを、その世界に融合させることだ。この3つを本当にちゃんとできれば、観客は心を動かされ、心から楽しんでくれるだろう」
ジョン・ラセター(ピクサー&ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ チーフ・クリエイティブ・オフィサー)

ピクサーが、まだ社員40名くらいだった当時の写真から、「アーロと少年」までジョン・ラセターの上述の言葉、「観客が座席から身を乗り出すような、人々の心をつかんで離さないストーリー」が生み出されてきた軌跡を一気に辿ることができます。

2:「トイ・ストーリー」3部作


世界初のフルCG長編アニメーション「トイ・ストーリー」が1995年に発表されてから約20年。シリーズ1〜3の構想段階で制作されたドローイングやマケット(模型)などを、「ストーリー」「キャラクター」「世界観」に沿って振り返ります。
「ストーリーが必要だ。ストーリーがなければ、世界最先端のコンピュータグラフィックスを山のように積み上げても、何の役にも立たない」
ジョー・ランフト(ストーリー・スーパーバイザー(当時))

あくまでも、『大事なのは「ストーリー」』展示全体を通してそこが強調されていたのが印象的でした。(とは言え!もちろんピクサーに所属する技術スタッフ、アーティスト、デザイナーたちが、ディテールにこだわりにこだわり抜くプロフェショナルさも、この後の「④ ピクサー映画ができるまで」の展示でまざまざと見せつけられます!

ウッディの声優トム・ハンクスや、「ミスターインクレディブル」のフロゾンの声を担当したサミュエル・L・ジャクソンが、ここまで大変な仕事はこれまでなかった、と語っていたくらい、求められるもののハードルの高さがわかります。)

3:トイ・ストーリー ゾートロープ


映画発明以前の、アニメーションの基本原理を使った装置、ゾートロープ(ギリシア語でzoe(生命)とtrope(回転)を組み合わせた、「生命の輪」という意味)。トイ・ストーリーの人気キャラクターの3Dフィギュアが、暗闇の中で立体アニメーションのように動き出します。

#t=63

こちらは、実際にピクサーのメンバーで三鷹の森ジブリ美術館に行って見た、「トトロぴょんぴょん」というトトロのゾートロープに感銘を受けて作成したようです。(「トイ・ストーリー3」にもトトロが出てきますが、ジョン・ラセターと宮﨑駿監督とは個人的に友人であり、お互いに刺激を与え続けている関係です。どれだけ深い関わりがあるかは、また別の回で書きたいと思います。)

トイ・ストーリーのゾートロープは、このような期間展示以外では、ディズニー・カリフォルニア・アドベンチャーか香港のディズニーランドで見ることができるようです。

4:ピクサー映画ができるまで


ピクサーが作る映画の制作プロセスが、資料映像とともに詳しく詳細されています。アーティストたちが制作の舞台裏について語る貴重なインタビューもあわせて公開されており、プロフェショナルたちが自分が担当しているシーンやタスクに誇りを持って深く深く追求した、その結晶がピクサー作品になっている、というのがよくわかります。

ここを見てからピクサー映画を観直すと、また思い入れが違います。しかもすごいのは、その一つずつの努力はあたかもなんでもないように全体に馴染んでいるところです。

例えば、「トイ・ストーリー3」で、バズライトイヤーがスペイン語モードになるシーンがあるのですが、そこは1人のアーティストが「スペイン語モードのバズ」だけを専門で担当し、自身でラテンダンスを踊ってそれをムービーにおさめて研究をし、バズの動きに反映させて、バズがさらに愛されるように奮闘して出来上がっています。でも、そこはほんの1シーン(及びエンディングロールの際)で、全体の流れの中では一部に完全に溶け込んでいます。

また、「カーズ」の150種類ほどの登場キャラクターたちの瞳がすべて異なる虹彩の柄や色になっている、というのも驚きです。こちらは、今回の展示の中でも見ることができます。

全てのシーンがそうした無数のベストな働きの結晶なので、ピクサー映画がすごいのも納得です。

5:ショートフィルム


長編アニメーションだけでなく、同じく独創的なアイディアとテクノロジーへの挑戦に満ちた短編映画も、数々の賞を受賞し高い評価を得ています。ここでは、そのアートワークと映画作品も上映されています。

期間によって上映される作品は変わるようですが、私が行った時に上映されていた、トイ・ストーリーの前身とも言える「ティントイ」(1988年短編アニメーション部門でアカデミー賞受賞)では、はいはいして迫り来る赤ちゃんビリーが怖くておもちゃが隠れてしまうシーンがあるのですが、そのビリーが怖い、と一部で定評があり、その日も「キャー!気持ち悪い〜」という悲鳴が聞こえてきました。笑

ピクサー社内での試写会のときにも、「不気味すぎる」というフィードバックが最初にあって改善されてから上映された、とのことだったので、最初のビリーは、どの程度だったのか気になるところです。

この「ティントイ」に出てくるビリーは、3月に放送された「林先生が驚く初耳学」でも取り上げられていた、「不気味の谷」というの凡例としてもよく使われます。「不気味の谷」とは、ある点を境に「親しみ」から「不気味」へと印象が変化する現象です。

「アーロと少年」の監督のピーター・ソーンは、「人物をリアルなキャラクターにする事は技術的には可能だが、操り人形みたいで正直可愛くない」と語り、ピクサーでは、この「不気味の谷」をなくし愛されるキャラクターを創りだしたり、逆に効果的に使うことで、作品をより魅力的にしてきました。(例えば、おもちゃを次々に破壊して改造を重ねる「トイ・ストーリー」のシドは、この不気味の谷にぴったりはまっています。)

6:アートスケープ


ピクサーのアーティストたちが生み出した絵画や、ドローイングを大型スクリーンに投影する映像作品で、臨場感溢れる音響との相乗効果で、アニメーションの世界に入り込んで旅をしているような感覚になるインスタレーションです。15分のループ上映ですが、一瞬で世界に入り込み、15分があっという間に経ちます。

7:長編映画のマスター・ピース


「バグズ・ライフ」、「モンスターズ・ユニバーシティ」から「アーロと少年」まで、長編映画の手書きのドローイングやカラースクリプト、ストーリーボードなど数多くのアーティストの作品が、映画ごとに紹介されています。

その中には、2014年にピクサーを退社した、「トイ・ストーリー3」の色彩、照明監督をした日本人堤大介さんや、一緒にピクサーを卒業して「ダムキーパー」を制作したロバート・コンドーのデジタルペインティングも見ることができます。
(余談ですが堤大介さんの奥様は、となりのトトロのメイのモデルになった、宮﨑駿監督の姪御さんです!)

540円で借りられた音声ガイドは、合計25分ほどで、展示の魅力が深まるようなエピソードもたっぷりでした。(ナビゲーター 安田成美 / 作品解説 土田大)

【音声ガイドリスト】


1 プロローグ : ピクサーの原点 (制作年1986年)
2 オープニングシークエンス ピクサーの原点 : ウッディ / バズ (1995年)
3 トイ・ストーリー : ストーリーボード (1995年)
4 トイ・ストーリー2 : ストーリーボード (1999年)
5 トイ・ストーリー3:カラースクリプト (2010年)
6 トイ・ストーリー ゾートロープ : アニメーションの原理 (2005年)
7 ピクサー・プロセス : ピクサー映画ができるまで
8 アートスケープ : ピクサー作品の世界を旅する (2014年)
9 デジタルコレクション : キャラクターデザインの細部
10 バグズ・ライフ : バグズ・ライフのキャラクター (1998年)
11 モンスターズ・ユニバーシティ : モーメントペインティング 退学 (2013年)
12 ファインディング・ニモ : 色々な魚たち(2003年)
13 ミスター・インクレディブル : アニマティクス 100マイルダッシュ(2004年)
14 カーズ2 : 歌舞伎座のポスター(2011年)
15 レミーのおいしいレストラン : ストーリーボード セーヌ川(2007年)
16 ウォーリー : ごみ山の地球 (2008年)
17 カールじいさんの空飛ぶ家 : ストーリーボード 結婚生活(2009年)
18 メリダとおそろしの森 : カラースクリプト / ストーリーボード メリダのオープニングシーン(2012年)
19 インサイド・ヘッド : ヨロコビ / カナシミ / カナシミ (2015年)
20 アーロと少年 / エピローグ : スポットとアーロ (2015年)

音声ガイドをじっくりと聞いて説明文を読んで、短編映画は全部は観ずに抜粋する、という見方でだいたい3時間ほど掛かりましたが、お出かけの際には公式HPにて混雑状況を確認して予定を立ててみるといいかもしれません。

会場限定のオリジナルグッズの販売もあったり、1階の出口を出て左に進むと、サリーとマイクと一緒に記念撮影をすることもできます。

ピクサー展2



家族連れやカップルもたくさんいましたし、一緒に行った主人は、ピクサーの人々の仕事の進め方や、ディテールにこだわる徹底ぶりなどを見て、「自身の仕事やチームを引っ張る上でも活かせそう」と話していましたので、もともとピクサーに興味のない人でも色々な視点から楽しめること間違いなしです。
そして、もともとピクサー作品大好きな方は、この展示を見た後に作品を観ると、全体に溶け込んでいるディテールにも目を凝らして、何度も巻き戻して繰り返し観たくなることでしょう!

3月5日から始まった東京都現代美術館での展示は、5月29日まで。
http://www.pxr30.jp

その後は、長崎県美術館にて2016年7月27日〜9月8日まで開催されます。
http://www.nagasaki-museum.jp/exhibition/archives/436


ディズニー / ピクサー最新作「ファインディング・ドリー」公開まで少し時間がありますので(2016年7月16日公開予定)、ピクサー展を見てプロ集団の作品にかける熱い想いや裏側を覗いて予習をしておくのもオススメです。
http://www.disney.co.jp/movie/dory.html

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(文:hosohana

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