『ディストラクション・ベイビーズ』感想、柳楽優弥&菅田将暉が世界を挑発!
(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会
現在公開中の『ディストラクション・ベイビーズ』は柳楽優弥、菅田将暉、小松奈々などの豪華キャストの出演、クズなキャラクターたちによる容赦のない暴力描写、『桐島、部活やめるってよ』の喜安浩平氏と共同制作した巧みな脚本など、ほかにはない魅力が満載な作品でした。
本作の舞台は愛媛県松山市。道後温泉や松山城などが有名ですが、訪れたことのない方も多いでしょう。
ここでは、愛媛県松山市出身の筆者が、より本作を楽しむための予備知識を紹ご介します。
1.“大街道”って何?
作中でクローズアップされる“大街道”は松山市の中心にある商店街です。服飾店、書店、ゲームセンターなどが並んでおり、若者が松山で何かして遊ぼうとしたら、だいたいここに集まります。
以下に、その周辺を含めて簡単に地図にしてみました。
大街道の特徴を簡単にあげるのであれば(1)アクセスが抜群(2)道幅がとにかく広い、ということです。
大街道は松山城(に行けるロープウェイ)まで歩いて数分の位置にあり、道後温泉に10分程度で着く“市内電車”にもすぐに乗れると、アクセスの良さは並々ならぬものがあります。
その利便性のためか、休日はもちろん平日でもたくさんの人々がアーケード内を歩いていますが、その道幅が15mもあるために人混みっぽさを感じることはほとんどないでしょう(ただし、“土曜夜市”という夏祭りの日には、人で道がいっぱいになります)。
もし『ディストラクション・ベイビーズ』の劇中のように大街道で通り魔事件が起きたとしたら、アーケードの端っこにいても気づけるほどに見通しもいいのです。
また、アーケードからちょっと道を外れるだけで、キャバクラや飲み屋などの“夜のお店”がたくさんあります。劇中に出てくるような“夜の仕事”をする人もこのあたりにいるわけです。
なお、大街道には“銀天街”という別の商店街が隣接していています(劇中で高校生が女の子をナンパしようとしていた場所は銀天街)。ここを通れば、“伊予鉄道”が通る松山市駅(松山駅とは別の駅)にも行くことができます。
2.怖い人が叫ぶ「いねや!」の意味って?
本作で登場するキャラクターは全員“伊予弁”を使っています。「〜やけん」「おるぞ(いるぞ)」などのクセの強い言い回しがありますが、関西弁とも似ているので、その意味がわからなくなることはあまりないでしょう。
ひとつ紹介するとすれば、作中の怖〜い人が叫んでいる「いねや!」という言葉。これは「帰れ!」という意味なのですが、「死ね!」という意味も3〜4割くらいの割合で含んでいます(捉え方には個人差があります)。
もし松山市で怖い人に「いねや!」と言われたら、関わりにならないことをおすすめします。
ちなみに、劇中では「ジャストラ」(かわいい女の子に言った言葉で、おそらく「ジャストストライク」の意味)や「B専」(ブサイクな女の子が好きな人)などの略語も使われていましたが、これは方言ではないですし、自分は使ったことがありません(笑)。
(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会
3.そもそも松山市って治安が悪いところなの?
松山市が、『ディストラクション・ベイビーズ』の劇中のように怖い人ばかりなのかと問われれば、もちろん答えは“NO”です。
大街道のすぐそばに“夜のお店”があるとはいえ、アーケードの中は健全なお店ばかりですし、犯罪がその中で起こったという話はほとんど聞いたことがありません。
“四国の中で住みたい街ランキング”では、例年松山市が1位になるほど。むしろ治安がいい街とも言ってもいいでしょう。
(劇中でも、通り魔事件が起きたときにすぐにネットに拡散されていましたね。裏を返せば、普段はそれほどに平和なのです)
とはいえ、頭に“ヤ”のつく怖い人たちが存在しているほか、劇中に出てくるような不良少年が“夜のお店”に出たり入ったりしている、という噂は聞いたことがあります。
(劇中のTwitterでも触れられていましたが)松山の刑務所では暴力団関係者が刑務所の看守を買収して無法地帯と化した事件もありましたし、つい先日にも松山市のマンションで立てこもり事件が発生していたりもしています。
普段は平和な街ですが、そうした危険な犯罪をする者がいるのも、また事実です。
4.“けんか神輿”って?
松山市では、秋になるとお神輿をかつぐお祭りが開催され、あちこちで「ワッショイ、ワッショイ」という掛け声が聞こえてきます。
とくに三津の厳島神社や道後温泉前などで行われる“けんか神輿”は有名。それは神輿どうしが鉢合う(ぶつかり合う)ため、神輿が壊れることも珍しくなく、けが人も非常に出やすいという危険なものです。
『ディストラクション・ベイビーズ』の劇中では、厳島神社のけんか神輿が重要なモチーフとして登場します。
父親代わりの男(でんでん)は、18歳になった主人公(柳楽優弥)にこのけんか神輿に参加することを望んでいたのですが……それは叶わないことになるのです。
けんか神輿が始まった理由には、農民と漁師の揉めごとが絶えなかったため、一年に一度だけ神輿をぶつけ合って豊穣を願う儀式をつくった、という説があります。
いわばけんか神輿は、暴力を“社会的に許されているもの”に変換したものなのです。そのことが作中でどういう意味を持つかは……映画のラストでわかるかもしれません。
ちなみに、自分は怖かったので、けんか神輿に参加した経験はありません(笑)。その代わりと言ってはなんですが、小学生のころから、子ども用の神輿をかついで、松山の市内を巡り歩くという行事に毎年参加していました。お祭りのゴールまでたどり着くとお菓子がもらえることもあり、とても楽しかったと記憶しています。
(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会
5.そもそも、監督はなぜ松山市を舞台にしたの?
真利子哲也監督が東京都出身にもかかわらず、愛媛県松山市を舞台にこの『ディストラクション・ベイビーズ』を撮ったことには理由があります。
それは、ミュージックビデオの撮影時に松山市にはじめて訪れたとき、バーのマスターから「10代のころから路上でのけんかを生業のように生きてきた」という話を聞いたことだったそうです。
ちなみに、シネマルナティックという映画館では、真利子監督が何度も足を運んでくれたこともあり、過去作品の『イエローキッド』や『NINIFUNI』が特別上映されたことがあります。
(シネマルナティックは、大街道のすぐそばにあります。はじめに紹介した地図にも場所を書いていますよ)
さらに、真利子監督は愛媛県のローカルアイドルグループ“ひめキュンフルーツ缶”を主演に迎えた『あすなろ参上!』という青春ドラマも手掛けてたこともありました。
(ちなみに、『ディストラクション・ベイビーズ』でも、ひめキュンフルーツ缶”のメンバーがエキストラで少しだけ出演していたそうです)
『ディストラクション・ベイビーズ』の物語は理不尽な暴力描写に溢れていますが、決して松山市を暴力的な街であるなどと貶めたりする映画ではありません。
むしろ、松山市という場所ならではの舞台装置(大街道やけんか神輿)をうまく使い、多分なリスペクトも込められていました。
真利子監督は、松山市という場所に魅了され、また愛している人物と言ってよいでしょう。
地元の出身者として、とてもうれしくなりました。
6.似ている映画は『顔』?
最後に、本作『ディストラクション・ベイビーズ』を気に入った人におすすめの映画を紹介します。
それは、2000年の映画『顔』。犯罪者が逃亡生活をする、暴力的な描写がある、港町が重要な場所になるなど、けっこう共通点が多いのです。
また、『顔』は、愛媛県松山市で実際に起きたホステス殺害事件をベースにしている作品だったのですが、作中では殺人の場所が兵庫県に変更されていました。
『顔』を観て「舞台が実際に事件が起きた松山でなくてがっかり」と思った方もごくわずかにいる(?)でしょう。その方には、ぜひ『ディストラクション・ベイビーズ』もおすすめします。
なお、『顔』と同じく藤山直美主演&阪本順治監督作品である『団地』も6月4日(土)より公開予定ですので、こちらもぜひチェックしてみてください。
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(文:ヒナタカ)
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