「もう!男って何で殴り合いが好きなの!?」そんな貴女に送る映画2本、「サウスポー」&「ディストラクション・ベイビーズ」
今年の邦画最大の問題作「ディストラクション・ベイビーズ」!
都内では単館ロードーショーながら、その内容と完成度の高さが評判となり、日本全国で上映されている話題作、それがこの「ディストラクション・ベイビーズ」だ。
絶賛派と否定派、両者によって評価が真っ二つに分かれる本作だけに、映画ファンにとっても絶対に見逃せない作品だと言えるだろう。
(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会
ストーリー
愛媛県松山の海沿いに暮らす二人の兄弟、兄の泰良(柳楽優弥)と弟の将太には両親はおらず、兄弟二人で兄の勤務先の造船所に暮らしていた。普段からケンカに明け暮れていた泰良は、ある日突然将太の前から姿を消す。松山の繁華街に現れた泰良は、手当たり次第に目をつけた相手にケンカを挑んでいた。相手が強くて負けても、執念深く追いかけて勝つまで何度でも立ち向かう泰良。そんな泰良と偶然出あった高校生の裕也(菅田将暉)は、「俺たちで、もっとでかいことしようぜ!」ともちかけ、街の通行人に手当たり次第に暴行を繰り返す。彼らが強奪した車にたまたま乗り会わせたキャバ嬢の那奈(小松菜奈)を人質に、夜の道を突っ走る3人。それが彼らの運命を大きく変える地獄への旅だとも知らずに。
主演の柳楽優弥を始め、とにかく出演俳優の演技がが全員ヤバイ!
とにかくこの映画、出演している俳優の演技がどれも凄い!
主演の柳楽優弥の無言の不気味さと存在感、菅田将暉の軽さと内に秘めた暴力性の爆発、そして同時期に公開された「ヒーローマニア」とは180度異なる印象の小松菜奈。彼女の映画デビュー作「渇き」を思い出させる狂暴さと二面性が素晴らしい。松山という地方都市に溢れる、行き場の無いエネルギーを見事に体現するかのような若手俳優陣の演技こそ、本作成功の最大要因と言えるだろう。
人によっては難解だとの意見もある本作だが、真利子哲也監督の長編デビュー作である「イエローキッド」を事前に観ておくと、本作との共通点に気付くことが出来て、より深く理解し楽しめると思う。例えば「イエローキッド」の主人公はボクサーであり、やはり殴ることと、空想と現実の境目に囚われているのだが、「ディストラクション・ベイビーズ」では、殴ることで現実に立ち向かう主人公が描かれる。むしろ主人公に惹かれて行動を共にする裕也の方が、現実と空想の区別がつかなくなって自滅の道を進むし、那菜が迎える結末にいたっては、女性の持つ生存本能と計算高さが上手く表現されており、底知れない怖さを観客に与えることに成功している。
併せて、真利子監督の前作である短篇「NINIFUNI」と比べても、閉塞的で死んだような地方都市を舞台に展開する点や、主人公の逃避行が描かれるなど、その姿勢や世界観は一貫しているので、ぜひこの機会に真利子監督の過去作を見返してみることを、オススメする。
あまりに衝撃的な内容に圧倒される108分!
とにかく、全編「暴力の嵐」が吹き荒れる、と言っても過言ではない本作。主人公が登場シーンから人を殴り続けて、それが前半の30分越えてもなお続くのは、ほんの序の口!
その後に続く、彼に感化されて次第に暴力の嵐に飲み込まれていく裕也と那奈のキレっぷりには、本気で圧倒されてしまう。108分の上映時間中、先の読めない展開に翻弄されたまま、緊張感が最後まで持続するという、文字通り「息も出来ない」映画となっている。ただ、あまりに多くの暴力描写が含まれるため、観客によっては拒否反応を持つ人も多いようだが、実は本作の魅力は、そうした暴力描写だけでは決して無い。
本編中では一切描かれないが、両親も無く周りからも差別されていた主人公が、引き取られた造船所の社長から日常的に虐待を受けていて、その暴力こそが唯一の他者とのコミュニケーションだったと考えると、主人公の一見狂気としか見えない行動にも、また別の意味が生まれてくる。
ラストの意味が不明な方も多いのではないかと思うが、舞台となる街で行われる「けんか祭り」に強くなって帰り参加する事で、主人公がコミュニティに溶け込もうとしたとも考えられるし、意外と殴り合いや暴力描写に惑わされずに観ると、他者とのコミュニケーション不全&生きている実感を得るための暴力という、本作の主題が浮き彫りにされてくるのではないだろうか。
実は柳楽優弥版「少林寺木人拳」だった!
本作の大きな魅力、それは引き絵の1カットで撮影された、あまりにリアルなストリート・ファイトのシーンだろう。特に、一度敗れた相手の後を追いかけて、すぐさまリベンジを挑む主人公の精神力の強さと、敗戦を参考にして次は相手の行動を読んで勝つという、抜群の格闘センス。確かに、初戦で一方的に殴られ蹴られする主人公の姿に、「うわ、どうかしてるよ、これ…」との拒否反応を持つ方も多いと思われるが、自分は映画序盤のファイトシーンを見ながら、実はこのように考えていた。
沈黙を守ったまま、大勢の敵に向かって行くが負けてしまう主人公。しかし、次に挑戦した時には攻略法を編み出して勝ち、更に強い敵、大人数の敵に向かう。そう、これって「少林寺木人拳」の設定そのものじゃないか!その時、自分の頭の中には「ミラクルガイ」がエンドレスで流れていたことは、言うまでも無い。(注:これはあくまでも個人の見解です、念のため。)
更には、松山の地方都市の閉塞感と、そこでのうわべだけの付き合い、生きているという実感が得られない現代の若者を描いたリアルな設定には、「ファイトクラブ」をすぐに思い出される方も多いのではないかと思う。
最後に
本作を鑑賞後、強烈に印象に残るのが全編に炸裂する過剰な暴力と狂気。だが、その表面的な部分に惑わされて、「主人公の行動が、単純に狂気によるもの」、そう考えて観るだけでは、本作の真の意味には到底気付くことは出来ないのではないだろうか。
実際、観た人のレビューでも、「主人公の行動が意味不明」「警察が出て来ないのが不自然」「ただ殴りすぎ、狂った行動」などの意見と、不当に低すぎる点数が目立つのも事実だ。出来れば、この記事の中で述べたような部分にも目を配って頂いて、お時間があれば、監督の長編デビュー作である「イエローキッド」なども、ぜひ併せてご覧頂くと、より本作を楽しみ理解することが出来るのではないかと思う。
次のページでは映画「サウスポー」を紹介する。
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