映画コラム

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2016年06月22日

Jホラー、1996年から今日までの20年の歩み

Jホラー、1996年から今日までの20年の歩み


怪奇な廻り合わせ!?
同日公開「貞子VS伽椰子」「クリーピー 偽りの隣人」


そしてこの夏にJホラーのアイコン「リング」シリーズの貞子と「呪怨」シリーズの伽椰子との対決を描いた「貞子VS伽椰子」と、“ゴッドファーザー・オブ・Jホラー”と称されている黒沢清監督の最新作「クリーピー 偽りの隣人」が同日公開となった。それぞれ方向は違うもののいい意味で突き抜けた見逃し厳禁の快作に仕上がっていた。

「貞子VS伽椰子」はまず思念体型の貞子と地縛霊型の伽椰子を対決させるまでの展開が巧かった。

貞子vs伽椰子


(C)2016「貞子vs伽椰子」製作委員会


貞子を伽椰子の“呪怨の家”に引っ張ってこなくてはならないのだが、片方の呪いのターゲットになった者をもう一方のターゲットにして、呪いのターゲット争いを展開させ双方共倒れを狙う。この力技ともいえるアイデアを作り出した白石晃士監督にもろ手を挙げて喝采を贈りたい。

白石監督はJホラーの作品規模が小さくなり始めたタイミングで監督デビューを飾っているが、粗製乱造・玉石混交にはならずに着々と経験を積み、独自の世界観を築いてきたものが一つの大きな形になったといっていいだろう。「桐島、部活やめるってよ」組の山本美月とティーンから絶大な支持を集める玉城ティナのモデル出身組のヒロイン起用もよかった。

二人とも大きな瞳が印象的で、恐怖におののく表情がより強烈になっている。わざわざ呪いの発端のアイテムをVHSテープに戻し、クライマックスに井戸を用意するなど、心憎いアイテム選びも楽しい。恐怖描写に関してはやりすぎの部分もあって、怖いのを通り越して笑ってしまうような部分もあったが、要所を締め99分の上映時間を一気に駆け抜ける。次回作ではぜひKADOKAWAのもう一つのブランド「着信アリ」も絡んでほしいところだ。

一方「クリーピー 偽りの隣人」は黒沢清監督が一気に海外での評価を知らしめた97年の「CURE」の系譜につながる本格サスペンススリラー。

クリーピー 偽りの隣人


(C)2016「クリーピー」製作委員会


06年の「叫」以来約10年ぶりの恐怖映画への帰還だ。黒沢監督は00年の監督作品「回路」がカンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞、ハリウッドでも「パルス」としてリメイクされた。この時「呪怨」の清水崇監督が学んでいた映画美学校の講師であったことや、「リング」の中田監督より先んじてオリジナルビデオの世界でホラーを作り始めていたキャリアが注目され“ゴッドファーザー・オブ・Jホラー”として喧伝され、一躍国際的な地位確立した。今や海外の映画祭でクロサワといったとき“明”か“清”かを注意しなくてはいけない。

映画はひたひたとした気味の悪さが心身に絡みつくクリーピー(=CREEPY:身の毛がよだつように気味が悪い)というタイトルがそのまま映画になったような作品で直線的な「貞子VS伽椰子」が直接的な描写だったのに対して、こちらは得体の知れない違和感・居心地の悪さが満載の映画になっている。

西島秀俊・香川照之・竹内結子・東出昌大・川口春奈の演技合戦も見もの。「あの人、お父さんじゃありません。全然知らない人です。」というキャッチコピーにも使われているセリフを放つのは「ソロモンの偽証前後編」でデビューした藤野涼子だったりもする。原作を大きくアレンジし他脚本は作品のテンポをあげ2時間超の上映時間を気にさせることなく、ぐいぐいと観客を引き込み続ける。黒沢監督作品世界の象徴・影の強い画作りも健在。車移動のスクリーンプロセスなどのお馴染みの物から、ドローンを使った大胆な空撮なども見せ方も多種多彩だ。

今年の夏も猛暑になるといわれている。そんな時にヒヤッとする映画はいかがだろうか?

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(文:村松健太郎

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