君は「シン・ゴジラ」を見たか。その3「永い会議」
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●ご注意!!
随所にネタバレがあります。可能な限り「シン・ゴジラ」をご鑑賞の後、お読み下さい。ただしこの程度のネタバレで「シン・ゴジラ」の面白さが損なわれることはありませんが。
前々回の記事:君は「シン・ゴジラ」を見たか。
前回の記事:君は「シン・ゴジラ」を見たか。その2
ファミリー映画という呪縛から解き放たれて・・。
爺 ではただ今から、「シン・ゴジラ」について色々と語り合う会議を始めたいと思います。不肖この爺が最長老というだけの理由で、議長を務めます。
先輩 よろしくお願いします。で、結局ここにいる4人は「シン・ゴジラ」を見て面白いと思ったの?
女の後輩 思いましたよ、私は。というか、ちょっと不意を突かれた感じ。
先輩 なんで?
女の後輩 私が小さい頃、ゴジラ映画って子供が見るものって認識だったんですよ。それを今回、覆されました。
先輩 ・・・って、君、何歳なんだ?
女の後輩 女性に年齢を聞くのは失礼ですっ!!!
先輩 今のリアクションで、だいたい分かったよ(笑)。
爺 まあまあそうなんじゃな。ずっとゴジラ映画は子供向けというか、ファミリー映画として捉えられてきた。少なくとも東宝にとっては。だから、わしが「シン・ゴジラ」を見て関心したのは、ファミリー映画という呪縛を、見事に断ち切ったな、ということだ。
後輩 ゴジラ映画は毎年、お正月に公開されてましたよね。
先輩 そうそう。これは1984年の復活「ゴジラ」からそうなったわけで、90年正月の「ゴジラVSビオランテ」が、配給収入10.4億円を上げる。
女の後輩 それで92年の正月映画が「ゴジラVSキングギドラ」になるわけですか?
先輩 そう。人気怪獣とゴジラの対決を前面に打ち出して、その結果これが配収14.5億円のヒットとなる。ただ、当時の東宝はあくまでゴジラ映画をファミリー映画として解釈していた。
女の後輩 映画の内容をお子様向けにしたってわけですか?
先輩 それはない。ことVSシリーズに関する限り、映画の内容は、いわゆる大人の鑑賞に堪えるものを目指した。むしろ宣伝だね。ファミリーを意識したのは。あと、入場者プレゼントに子供向けのアイテムを配ったり。
後輩 要は映画を売るターゲットをファミリーに絞ったわけですね。
爺 そういうこと。実際に観客調査をとってみても、やっぱり子供たちの比率は高いわけさ。大ヒットした「ゴジラVSモスラ」なんて、女の子たちに支えられた(笑)。
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音楽によって、この映画の印象は大きく変わる。
先輩 だから僕が「シン・ゴジラ」を見て思ったのは、内容だけでなく売り方も大人の観客をターゲットにしているなということ。国産のゴジラ映画は12年間のブランクがあったわけだけど、その間に社会全体の様子が変わってきたのと、必ずしもファミリーを動員しなくても、怪獣映画が興行的に成立するという確信が出来たんじゃないかな。
女の後輩 それでも「シン・ゴジラ」の内容には驚きましたよ。ファミリー映画という呪縛から解き放されただけでなく、見事に庵野総監督の作風になっている。よくここまで、東宝側が庵野総監督の作家性を守ったな、と驚きました。
爺 うん。それはわしも同感なんだが、冷静に「シン・ゴジラ」という作品を振り返ると、庵野総監督の作家性がプラスに働いた箇所と、マイナスではないか?と思える箇所があるんだな。
先輩 ほほお。それは興味深いですね。例えばどの部分ですか?
爺 真っ先に上げたいのは、音楽に関してだ。
先輩 音楽についてですか?あの、伊福部昭のですか?
爺 そう。この間、そこの聞き分けのない小僧と言い争った後(笑)、改めて考えてみたんだが、この映画における音楽の重要性は、とても高い。
女の後輩 それはそうですね。やっぱりゴジラ映画イコール伊福部昭の音楽というイメージがあります。
爺 今回は鷲巣詩郎が音楽を担当し、往年の伊福部ミュージックも使用したわけだが、それとは別に気になったのは部分的に「新世紀エヴァンゲリオン」の音楽が使われていることなんじゃよ。
女の後輩 ああ、テンションが高まるあたりに使われる、あのアップテンポの曲ですね。
先輩 他の作品のイメージが入り込むことを自覚的にやっているかどうかの問題なんですが、同じ庵野監督の作品なのですから、そりゃあ自覚してやっているのでしょう。それはそれで、演出してアリだと思いますが。
爺 そうかなあ? 例の伊福部昭の音楽にしても、庵野総監督と鷲巣詩郎は話し合いをした上で、伊福部音楽をそのまま使うことを決めたということだが、もしそこに鷲巣詩郎作曲の新曲が入っていたならどうなるのだろうか?と思ったね。鷲巣詩郎は「シン・ゴジラ」でレクイエム調の音楽を作曲していて、これがかなり雰囲気を盛り立てていたし、彼が新たに伊福部昭に変わるゴジラ映画の象徴たるべき音楽を作曲するという手もあったと思うんだ。それとやっぱり、観客が「このカット、エヴァに似ているな」と思うのは自由だけど、まんまエヴァの音楽を使うことはないと思うなあ。それでは観客の想像力を狭めてしまわないだろうか?
女の後輩 私は伊福部昭の音楽も、鷲巣詩郎のエヴァを含む音楽も、この映画の中で充分に効果を上げていたから良しとすべきだと思います。確かに鷲巣詩郎によるゴジラのテーマも聞いてみたい気もしますが、それは言わばタラレバの話であって、実際に作品に反映された曲が効果を上げているならば、それで良しとすべきでしょう。
先輩 この件に関しては、僕も彼女に賛成です。それはご隠居が後輩と話していたように、「ひとつひとつの要素は、既視感を誘うものであっても、そのまとめ方、作品としての構成がオリジナリティを感じさせる」というところに落ち着くのではないでしょうか?
爺 ううむ・・・無い物ねだりをしすぎたかもしれんなあ。この映画を見ると、「これはこれで充分面白いけど、もし、こうなっていたら」ということを、つい口にしたくなってしまうんだよ。
先輩 その気持ちは、とても分かります。例えば他の監督にしても、既成曲を作品の中で使うことはありますよね。クラシックの名曲を使ったり。それと同じように解釈されたらどうでしょう?伊福部昭による特撮映画の音楽は、もはやその域にあると思いますし。
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「つくづく俳優に恵まれた映画だと思うよ」
後輩 つまりこの映画は音楽の選択によって、大きく印象が変わってくる。僕たち観客は、音楽を聴いてそのシーンの意味することを理解しますが、やはり俳優たちのリアクションが、大きな情報になる。
先輩 うむ。そうなんだよ。
女の後輩 先輩は「あれは記号に過ぎない」と言ってましたけど、前半のおじさんたちの会議シーン。まあ私も「気持ち悪い」と言ってるけどね(笑)。俳優さんたちは、凄く頑張っていた。というか、この映画、全般的にキャラがはっきりした俳優さんたちが揃っていたので、それで状況が理解しやすかった。
先輩 中でも市川実日子演じる環境省の官僚がだな・・。
女の後輩 やっばりそっちに持って行きたいわけですね(笑)。麗しの屋頭ヒロミ嬢(笑)。
先輩 でへ(笑)。
爺 今や人気沸騰。「シン・ゴジラ」の真のヒロインと言われている彼女じゃが、今、どんな状況が起こっているかを明確にするのが彼女の役目で、巨災対の面々は彼女の発言にリアクションしたり対策をとったりヒントを得たりする。この構造がしっかりしていることで、この映画はとても分かり安くなってるんだよ。
後輩 その通りですね。例えば牧もと教授が残した書類を折り紙状にして、ゴジラの実態のヒントを得るあたり、何回見てもよく分からない。
全員 あれは分からない!!
女の後輩 ま、ここにいる人たちがバリバリの文化系ばかりで、生物学なんてものに弱いということもあるけどね(笑)。
後輩 理数系の女性って、知的な感じがして素敵ですよ。
女の後輩 じゃあ「ゴーストバスターズ」でも見ていなさい。リケジョのおねいさん、たくさん出てくるわよ。
先輩 ところがあの折り紙をヒントに、何か重要なことを発見したというあたりは、ちゃんと伝わるんだな。俳優さんのリアクションが上手で。
爺 つくづく、俳優に恵まれた作品だと思うよ。先日の話にも出た石原さとみの日系特使にしても、あのアニメ・キャラみたいな役を演じ切ったのは、ひとえに石原さとみの努力だと思うんだよ。
先輩 平泉成の総理代行も、平泉さんのとぼけたキャラでないと成立しませんよね。
女の後輩 今、俳優さんたちは大変なんですよ。アニメ・キャラやコミックの主人公みたいな演技を要求されるので、なりきらなくちゃいけない。最近多い、少女漫画の映画化にしても、演技力よりまず原作コミックのキャラと違和感がないこと。それからメインの客層になる若い人から嫌われないように振る舞う。それが大事になってくるんですよね。
先輩 確かに、映画全体がある種のキャラクター商品と化しているのは感じるよ。映画1本を引っ張るだけの、魅力あるキャラクターがいれば良いのだけれど。
爺 まあ「シン・ゴジラ」の場合もゴジラというキャラクターがいて成立しているわけだから、キャラクター主導映画と言えるだろうな。でも、その虚構の存在であるゴジラを際立たせているのが、俳優たちのリアルな演技だ。
先輩 必ずしも現実に即したリアルである必要はなく、この映画の中のリアリティを体現出来ていることが大切ですね。
後輩 そういう視点で見ていくと、やっぱり石原さとみのカヨコと、市川実日子の尾頭ヒロミ課長補佐が、それぞれ役割分担をしているように思います。
先輩 いいところに気づいたねえ。いいかい、そもそもヒロミ役を演じた市川実日子という女優はだね・・・。
女の後輩 (小声で)あーあ、始まっちゃった。
後輩 (小声で)ヤバいスイッチ、押しちゃったみたいですねえ。
女の後輩 (小声で)あんた、なんとかしなさいよ。延々続くわよ。
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なぜこんなに「シン・ゴジラ」の話はつきないのだろう?
爺 そろそろお開きにしようじゃないか。
後輩 賛成です。先輩、もうそのへんで尾頭ヒロミ論はけっこうですから・・・。
先輩 いやあ、これからが大事なとこなんだがなあ。
女の後輩 それにしても、なんで私たちは、こんなに「シン・ゴジラ」について話しているんですかねえ? ここまで色んなことを話した映画は、始めですよ。
先輩 語りたくなる。それも良いところ悪いところ含めてね。賛否両論あるのは傑作の証しだよ。
爺 傑作であることはもちろんじゃが、「シン・ゴジラ」は話題作だよね。そういう呼び方が出来る日本映画が、久々に出てきた。もはや「シン・ゴジラ」を見ていないと、仲間の会話に入れない。
女の後輩 いやいや、こういう特殊な仲間うちに積極的に入ろうとは思いませんが(笑)。
爺 とにかくこれで、打ち止めにしよう。皆、お疲れ様。
全員 お疲れ様でした!!
先輩 ・・・ところで、ラストのゴジラ。気づきましたか?あそこで・・・。
全員 え?なになに?
(以下、会議という名目の雑談は、さらに続く。キリがないのでこれにて終了)
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(企画・文:斉藤守彦)
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