映画コラム

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2016年10月02日

少女漫画原作映画の枠を超えた?『ヒロイン失格』が面白いワケ!

少女漫画原作映画の枠を超えた?『ヒロイン失格』が面白いワケ!

■「映画音楽の世界」

みなさん、こんにちは。

昨年9月の公開からちょうど1年。少女漫画の実写化としては特大ヒットとも言える興行収入約25億円という数字を叩きだした映画、『ヒロイン失格』が早くも地上波初登場となりました!

ヒロイン失格画像2


(C)2015 映画「ヒロイン失格」製作委員会 (C)幸田もも子/集英社


筆者は「少しでも興味が湧いたら映画館へGO!」をモットーに、ほぼほぼ女子中高生が劇場を占拠するような少女漫画原作映画にも攻めて行くスタイルなのですが(なるべく平日の昼間を狙っても囲まれる)、そんな筆者から見ても確かに『ヒロイン失格』は毎年多く製作される少女漫画原作映画の中で頭一つ抜けて出来が良く、幸田モモ子さんによる原作のファンだけでなく、映画ファンも楽しめる作品だと思いました。

と、いうことで。今回の「映画音楽の世界」では、英勉監督・桐谷美玲主演『ヒロイン失格』の魅力を紹介したいと思います!

サブキャラに至るまで魅力的な登場人物に恋をした!


主人公である松崎はとりを演じたのは女優・モデルの桐谷美玲さん。ご存知の通り桐谷さんは米映画サイトの恒例ランキング「世界で最も美しい顔100人」で日本人最高位の8位を獲得したこともある女優ですが、本作ではそんな名声を投げ捨てるかのような見事なコメディエンヌぶりを披露してくれています。

そもそも本作のヒロインは「自分自身がヒロインである」と信じ込んでいるところから設定が面白いですよね。恋に奥手だったり、下手に不器用ではない、根っからの「ヒロイン」気質。悩むことなく想い人に突っ込んでいくその姿は頼もしく、爽快さすら感じさせます。

そんな「ヒロイン」に想いを寄せられているのが、山崎賢人さん演じる寺坂利太。「また山崎賢人?」という声が聞こえてきそうですが、はい、また山崎くんではあるのですがそこはひとまず置いておいて(確かに現在の恋愛系映画は山崎賢人と福士蒼汰の二人に頼りすぎな感もありますが)、容姿端麗文武両道、はとりとは幼馴染という設定があり、ありがちなパターンならはとりと利太がすぐにでも結び付きそうなものですがそうはいかない。序盤にして利太が安達未帆と付き合うことになるのだから映画は王道パターンから逸らしていきます。

安達未帆を演じたのは我妻三輪子さん。「ヒロイン」であるはずのはとりから利太を奪い(と書くと語弊がありますが)、はとりはおろか観客からも憎まれそうな難役を体重を増やしてまで挑んだその女優魂たるや。特に本作では利太と付き合うことになってからが難しい役どころ。はとりからは「なぜあなたが?」と睨まれ、この辺りからはとりの視点が観客の視点を担うようになり、安達さんがとった行動も本作における「憎まれ役」を印象付けてしまいました。それでも健気に利太を想う姿には憎みきれない弱さも重なっています。

坂口健太郎さん演じる弘光廣祐は安達さんとは逆パターン。登場当初は「恋愛感情なんてただの思い込み」というスタンスで女の子とは真剣に交際したことがないという弘光くんが、徐々にはとりという一人の女性に惚れ込んでいき、時には利太以上の優しさを見せるほどに。いやもう本当に彼がイケメンなんですよね。イケメン、という言葉で片付けるのが申し訳ないくらい、実に人間的な優しさを持ち合わせたキャラクターでもありました。

この四人が中心となり、擦れ違い、時にはぶつかり、悩み、最後の最後までどう結末が転ぶか解らないじっくりとそれぞれの揺れ動く心の内を、本作では描いていきます。恋せよ乙女とはよく言いますが、過剰なまでの「ヒロイン」の自覚ありというメタ構造を活かしながら、青春真っ盛りの心の機微を描いている脚本の巧みさが光っていました。

本作が面白いのはメインどころ以外でも個性的なサブキャラの扱いにも表れていました。

はとりの性格もさることながら、序盤で登場する学食のオヤジ役の竹内力さんのインパクトは本作のギャグ面においての方向性をいきなり見せつける形でインパクト大。「序盤でこんなオイシイ役出しちゃっていいの?!」と笑っていると、それどころかまさかの役で今野浩喜、柳沢慎吾、六角精児、中尾彬それぞれが配されているという徹底した遊び心っぷり。その登場の仕方にも思わず笑わされてしまう、まずは作り手から楽しむスタイルで観客に届けようというコメディ要素も強い作品となっていました。

そのコメディ要素は演出面にも活かされていて、CGを多用した画作りに加え、世界で最も美しい顔の一人に坊主頭で熱演させ、さらには世界の中心で愛を叫んだアノ映画をパク……いえパロディにしたシーンすら堂々と描いてしまうのだから映画ファンならばより一層楽しむことも出来るという作りでした。が、観客をただ笑わせて終わるだけの映画ではなかったことが、本作の完成度を上げた理由の一つ。ラストシーンに向けてコメディパートは徐々に抑えられていき、青春映画本来の輝きを放っていきます。根っからのヒロイン気質でありながら実は繊細な一面を持つはとり。はとり、安達さん二人の想いを受け止め苦悩する利太。涙する安達さんの姿。ひたむきにはとりを見つめようとする弘光くん。それぞれが答えを出したとき、幻想的とも思えるラストシーンはどの作品よりも記憶に刻まれるのではないでしょうか。

『ヒロイン失格』は音楽も楽しめる!


本作の音楽を担当したのは以前このコラムでも紹介しました『ちはやふる』上の句・下の句の美麗なメロディが記憶に新しい横山克さん。本編同様、劇伴においても遊び心満載のサウンドが展開!

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[メシは静かに食うもんだ][おギャァぐざああ~ん!!]はそのタイトルからも解る通り、竹内力さんの熱演が光った学食のオヤジのテーマ曲。まるでアクション映画音楽のような重厚な音楽で少女漫画とは真逆の方向性が楽しめますが、それにしてもこのタイトル、竹内力さんサイドからクレームは来なかったのでしょうか(笑)。

[世界は関係なく、利太が叫ぶ?]は涙を誘う壮大なバラード曲。なのですが、このタイトルを見ればピンときますね。前述のはとりの妄想シーンという名の世界の中心で愛を叫んだ映画のパロディシーンで使用された楽曲です。この曲は音楽だけ聴くと心揺さぶられる名曲のような響きがあるのですが、逆に本編で見るとあまりのギャップ(本編は本気で笑いに走り音楽は極めて真面目)に、よけい面白可笑しくなってしまいます。

しかしながら、本編と同じく遊び心だけでは終わらないのが本サウンドトラックの魅力。特に後半に進めば進むほどはとりの心情と音楽の距離がぐっと縮まっていきます。

[別れ]や[ふたりの行方は、、]では少女のようなあどけなさを帯びたピアノの切ないメロディに、チェロやヴァイオリンなどの大人びた情感的な音色が加わることで、ヒロインとしての挫折と失恋を通してゆっくりと、ゆっくりと成長していくはとりの心情にぴたりと寄り添うような曲に。そこから走り出すはとりを応援するかのような力強い曲調へと転換していく采配は感動的であり、文字通りこの映画を縁の下から支える重要な要素となっています。

まとめ


少女漫画原作、と聞くと中には青春特有の眩しすぎるほどのきらびやかなイメージを持ってしまい、つい取っ付きにくくなる方もいると思います。どうしたって似たようなスト-リーラインや配役につまらなさを感じて鑑賞予定リストから漏らしがちになる方もいると思います。

けれど、ちょっと待ってほしい。確かにそれも一理あるとは思いますが、劇場で若さ溢れる中高生に囲まれて心折れつつも結果的に「観て良かった」と思えてしまう筆者の立場から提言させてもらうと、「少女漫画が原作だから」とシャットアウトしてしまうのは実に惜しいと思うのです。

そこには他の映画と変わらない、物語があって、キャラクターがあって、作り手の熱意とちょっぴり遊び心があって。映画を愉しむ分には身構える必要なんてないんじゃないか、そう思わせるほどの魅力とエネルギーを持つ作品の一つが本作『ヒロイン失格』だったと思います。もちろん当たり外れもあるのが映画の世界ですが、まずはアンテナを拡げて、これからも続々と公開される少女漫画原作映画もチェックされてみてはいかがでしょうか。心に残る意外な作品と、出会えるかも知れませんよ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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(文:葦見川和哉)

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