『七人の侍』から派生していった名作珍作群、その7つのパターン!
古今東西の名画を毎朝10時からお届けし続けて、好評開催中の「新・午前十時の映画祭7」にて、いよいよ『七人の侍』(54)の上映がスタートしました。
黒澤明監督による、言わずと知れた世界映画史上に残る不朽の名作。
今回は4Kデジタル・リマスターによる上映で、画の奥行きなどの素晴らしさもさながら、音響が飛躍的に向上し、何とあの三船敏郎の台詞がちゃんと聞こえる! といった利点もあります。
(なお、上映館によっては4Kではなく2K上映のところもあるようなので、できれば劇場に直接ご確認の上、ご覧になることをお勧めしておきます)
それにしても、この『七人の侍』、そのクオリティの高さゆえに、世界各国の映画人によって、昔も今もリメイクやオマージュ、パロディなどが捧げられています……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.163》
というわけで、『七人の侍』を見終えた後のお楽しみとして、そういった作品群もちょびっとばかしチェックしてみました!
西部劇に宇宙に、
そしてアニメにと広がるリメイク作品
『七人の侍』を西部劇としてリメイクしたのが、名匠ジョン・スタージェス監督の『荒野の七人』(60)です。舞台をメキシコの寒村に置き換え、盗賊たちから村を守るべく、7人のガンマンが集結。ユル・ブリンナーをはじめ、スティーヴ・マックィーン、ジェームズ・コバーン、チャールズ・ブロンソンなど、後の大スターらの出世作となった作品。エルマー・バーンスタインの爽快な音楽も忘れられません。
本作はこの後も『続・荒野の七人』(66)『新・荒野の七人 馬上の決斗』(69)『荒野の七人 真昼の決斗』(72)とシリーズ化されました。
また現在、この『荒野の七人』をリメイクした『マグニフィセント・セブン』が完成し、来年1月、日本でも上映予定となっています。
ジミー・T・ムラカミ監督の『宇宙の7人』(80)は邦題に偽りなく、宇宙版『七人の侍』。原案のひとりで脚本を手掛けているのは後のアメリカ・インディーズ映画界の雄ジョン・セイルズです。
平和な惑星アキール“Akir”(これは黒澤監督の名前・明“Akira”から採ったものです)を襲う悪のセイドアに立ち向かうべく、7人の勇者が集められますが、面白いのはその中のひとりが『荒野の七人』のロバート・ヴォーンであること。『七人の侍』と『荒野の七人』の双方をリスペクトしていることが理解できるスタッフィングなのでした。
2004年にはTVアニメ全26話のTVアニメ・シリーズ『SAMURAI7』が製作されています。これはファンタジー版『七人の侍』ですが、オリジナル版で志村喬が演じた勘兵衛がイケメンオヤジのカンベエとなり、三船敏郎が演じた菊千代は、ここではなんと機械サムライのキクチヨとしてお目見えするなど、アニメならではの改変が試みられています。
「7」をつけたラッキー・タイトル
『七人の侍』が登場して以降、集団で何か事を起こそうという映画のタイトルに、何かと「7」をつける傾向があります。ラッキー7ではありませんが、この数字、やはり縁起が良いのでしょう。
1965年のマルコ・ヴィッカリオ監督によるイタリア映画『黄金の七人』は、アルマンド・トラヴァヨーリのダバダバ音楽に乗せて白昼堂々、7トンもの金ののべ棒を盗み出した“教授”および6人の男とひとりの女の騙し合いの活劇ですが、捉え方によっては8人じゃないの? と突っ込みたくところもありますね。
こちらも『続・黄金の七人 レインボー作戦』(66)『新・黄金の七人 7×7』(68)とシリーズ化。なお『黄金の七人 1+6 エロチカ大作戦』(71)は、実は『黄金の七人』と監督と音楽は同じですが、それ以外はまったく無関係の作品です。
ヴェトナムの戦場で行方不明になったままの我が子を救出すべく、父親が息子の戦友ら6人を引き連れて、戦後10年経ったヴェトナムの捕虜収容所に乗り込む『地獄の7人』(83)は、ヴェトナム戦争時におけるMIA(戦闘中行方不明者)救出映画の最高傑作の誉れも高い名作です。
(もっとも、ここでもヴェトナム現地で彼らに協力する父と娘の数を加えれば、7人ではなく9人になりますが)
時のレーガン政権が鼓舞する「強きアメリカの復権」に伴い誕生した作品ではありますが、『ランボー』も手掛けたテッド・コチェフ監督は、ヴェトナム戦争がアメリカに与えたものは一体何だったのかを、冷徹に描き得ています。
2005年のツイ・ハーク監督作品『セブン・ソード』は、清王朝の圧政に反抗する武術家たちが7本の剣をもって立ち向かう武侠小説『七剣下天山』の映画化ですが、実質登場人物の設定などが大幅に改変されており、『七人の侍』の影響が色濃く感じられるものにもなっています。
レオン・ライ、ドニー・イエンらクンフー・スターが立ち並ぶ中、俳優・監督・武術指導で知られる香港映画界の重鎮ラウ・カーリョンの最後の作品ともなりました。
思わずオマージュ&パロディしたくなる
弱気を助け、強きをくじく『七人の侍』の設定
そもそも『七人の侍』は、弱者たる農民を悪しき野武士から護るべく集められた侍たちを描いた作品ですが、こうした「弱きを助け、強きをくじく」設定は世界各国感じ入るものがあるようで、それもまた『七人の侍』が世界中で受け入れられている要因のひとつではあるでしょう。
ジョン・ランディス監督のコメディ『サボテン・ブラザース』(86)は、『荒野の七人』のように盗賊集団に襲われるメキシコの村で用心棒を雇おうということになるのですが、そのスカウトを請け負ったヒロインが、町で西部劇『スリー・アミーゴス』を見て、銀幕の中の主人公らが実在すると勘違いしてハリウッドに電報を送ったところ、スリー・アミーゴス役の三人も、これを映画の出演依頼だと勘違いして、村へ赴いてしまうというお話です。
ディーン・パリソット監督の『ギャラクシー・クエスト』(98)はその宇宙版ともいえる内容で、かつて『スター・トレック』もどきのテレビSFドラマに出演していた俳優たちが、そのドラマを歴史ドキュメンタリーだと勘違いした弱小宇宙人の要請を出演依頼と勘違いし、やがて宇宙へ跳び、悪徳宇宙人と戦う羽目に陥ります。
ディズニー&ピクサーのアニメ映画『バグズ・ライフ』(98)は、虫の世界を舞台に、悪しきバッタたちから島を救うべく、用心棒を探しに都会へ出たアリの主人公が、やがてサーカス一座の面々を伴い(もちろん一座の面々は、サーカスの仕事の要請と勘違いしています)、バッタ一味と対峙していくのでした。
黒澤チルドレンのオマージュの数々
ここでは『七人の侍』に限らず、黒澤映画に多大な影響を受けた映画人=黒澤チルドレンに関して記していきたいと思います。
黒澤チルドレンには、黒澤映画の数々をモチーフに『スター・ウォーズ』(77)を作りあげたジョージ・ルーカスや、その彼と共に『影武者』(80)の国際配給に尽力したフランシス・F・コッポラ、『生きる』(52)のハリウッド・リメイクを試みるもいまだ実現していないマーティン・スコセッシなど多数います。
黒澤映画『夢』(90)を製作総指揮したスティーヴン・スピルバーグ監督は、新作の撮影に入る前、必ず『七人の侍』を見直して、映画青年だったころの素直な気持ちに戻って現場に挑むそうですが、そんな彼の戦争超大作『プライベート・ライアン』(98)こそは、スピルバーグ版『七人の侍』ともいえる集団アクション映画になり得ていると思います。
苛酷なノルマンディ上陸作戦を経て、若きライアン二等兵を救出する作戦に従じることになる8人の個性豊かな兵士たちの描出は、まさに『七人の侍』をお手本にした見事なオマージュたりえていました。
リフ族首長の生きざまとセオドア・ルーズベルト大統領へのリスペクトをぶつけさせた戦闘活劇『風とライオン』(75)で、『隠し砦の三悪人』(58)のあからさまなオマージュをやってのけたジョン・ミリアス監督は、『地獄の7人』の脚本を経て、共産軍によるアメリカ侵略に徹底抗戦した8人の高校生を描いた近未来戦争アクション映画『若き勇者たち』(84)を発表。
そのタカ派的内容は激しい賛否を呼びましたが、実際の中身は8人が仲間割れして内ゲバにまで発展してしまう青春悲劇としての要素も強く、結果として『七人の侍』を彷彿させるものにはなり得ていませんが、その一方でラストは雪降る公園のブランコを出して、『生きる』のオマージュをやってのけています。
(ちなみに『若き勇者たち』は2012年に『レッド・ドーン』としてリメイク映画化されました)
黒澤映画はイラン映画界に強い影響を及ぼしており、先ごろ亡くなったアッバス・キアロスタミ監督をはじめ、多くのイラン映画界の才人たちは来日するたびに黒澤映画のことを熱く語ってくれます。そのなかのひとりアボルファズル・ジャリリ監督は『ダンス・オブ・ダスト』(92)『少年と砂漠のカフェ』(01)など自作の中に黒澤映画へのオマージュ的ショットを盛り込むことを怠りません。
『七人の侍』が日本映画に与えた影響
さて、『七人の侍』はその後の日本映画界にどのような影響を与えているでしょうか。
「7」のタイトルということでは、その名のごとく7人のおたくたちが冷酷な元夫の一族に奪われた赤ん坊を奪取しようとする『七人のおたく』(92)や、臓器売買をモチーフにダンカンが初監督し、7人ならぬ7組の親子が織りなすブラックユーモア劇『七人の弔』(05)などがあります。
ダンカンの師匠でもある北野武監督が、老いさらばえたヤクザ者たちの哀愁とリベンジを描いた、主要キャストの平均年齢72歳のアクション・コメディ映画『龍三と七人の子分たち』(15)も、当然ながら『七人の侍』からの影響がうかがえますね。
中村幻児監督の『V・マドンナ大戦争』(85)は、生徒会費を番長連合に強奪され続ける高校の生徒会長が7人の少女を用心棒に雇うという、今の美少女バトルアニメなどを先取りした荒唐無稽な集団美少女アクション映画でしたが、今リメイクしてみるのも面白そう。
また、映画化(11)もされた望月三起也の漫画『ワイルド7』や、石ノ森章太郎の『サイボーグ009』なども、個々のキャラクターを構築していく上で『七人の侍』的なセンスを多分に受け継いでいます。当時の漫画家たちの多くは、黒澤映画をリスペクトしながら作品を生み出していったのです。
(『もーれつア太郎』をはじめ、赤塚不二夫の漫画によく出てくるカエルのキャラクター「べし」は、『七人の侍』の村の長老の名セリフ「やるべし」からネーミングされたものでした)
また『七人の侍』はその後の東映集団抗争時代劇の構築に多大な影響を及ぼした節もあります。特に黒澤映画『用心棒』の大ヒットは、それまでの明朗快活な東映時代劇を時代遅れのものとし、代わってリアル路線を模索する東映は『十三人の刺客』(63)『大殺陣』(64)『十一人の侍』(64)など、『七人の侍』に倣った集団抗争時代劇の道へ邁進していきました。
もっとも、集団抗争時代劇の原点は『忠臣蔵』ではないかという感も一方ではなきにしもあらずで、そうこう考えると『七人の侍』も、実は日本の伝統の韻をきちんと踏んだものであったといえるのかもしれません。
滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』をモチーフにした深作欣二監督のSF映画『宇宙からのメッセージ』(78)も、弱き星の民のため、8人の勇士(とは名ばかりの落ちこぼれ⁉)が集結するという点では、『七人の侍』的要素も含まれている?
ちなみに深作監督は、その後、馬琴原作を大きくアレンジした鎌田敏夫原案・脚本の『里見八犬伝』(83)も手掛けています。
『忠臣蔵』にしても『南総里見八犬伝』にしても『七人の侍』にしても、日本人は集団で戦うお話が好みなのか?
ちょっと変わり種では、まずくて売れないラーメン屋を謎のトラック運転手がグルメ仲間を集めながら改革していき、いつしか極上の美味さを誇る店へと押し上げていくという伊丹十三監督の『タンポポ』(85)も、その基本構成としては『七人の侍』を踏襲しているのかもしれませんね。
アニメーション映画
アニメーション映画のジャンルでも『七人の侍』の設定を継承したものは多々あります。
1986年の映画版『ゲゲゲの鬼太郎 妖怪大戦争』は、凶悪な西洋妖怪軍団に占拠された島の人々を救うべく、鬼太郎ら7人の正義の妖怪(プラスねずみ男)が対峙します。
『七人の侍』ネズミ版ともいえる斎藤惇夫の原作小説『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』では15匹のネズミが登場しますが、出崎統監督によるTVアニメ版『ガンバの冒険』(75)は7匹に改変され、その劇場用総集編映画『冒険者たち ガンバと7匹のなかま』(84)も作られました。
3DCGアニメ映画『GAMBA ガンバと仲間たち』(15)ではヒロインを含めると8人の構成となっています。
人気シリーズ19作目『名探偵コナン 業火の向日葵』(15)では、かつてゴッホが描いた7点の『ひまわり』がすべて集められ、それを護るために世界中から集められたエキスパートたちを”7人のサムライ”と呼称するといった「7」絡みのお遊びが見られます。
7人のアイドルたちの青春群像を描いた山本寛監督の『劇場版Wake Up,Girls!七人のアイドル』(14)は、そのタイトルからして『七人の侍』をもじっていますが、実はこの後始まったTVシリーズ版(14)も、サブタイトルが第1話『静かなる始動』(静かなる決闘)、第2話『ステージを踏む少女たち』(虎の尾を踏む男たち)、第3話『一番優しく』(一番美しく)などなど、すべて黒澤映画のタイトルをもじったものになっています。こういった遊び心はアニメファンのみならず、映画ファンの興味をそそらせてくれるものがありますね。
別ジャンルへのリメイク
最後に、映画やドラマ以外のジャンルでリメイクされた『七人の侍』も紹介しておきましょう。
2004年にプレイステーション用のTVゲームとして『SEVEN SAMURAI 20XX』が発売されました。これは近未来を舞台にしたアクション・ゲームで、オープニング&エンディング・テーマの作曲を坂本龍一、キャラクター・コンセプトをフランス漫画界の名匠メビウス・ジャン・ジローが担当したことでも話題になりましたが、ゲームそのものとしての評価はあまり得られずに終わった感はあります。
また2006年にはアニメ『SAMURAI 7』を基にした同名ゲームが発売されましたが、これもいわゆるアニメのゲーム版の域を出てはいませんでした。
個人的に驚いたのは、2008年にリリースされたパチンコ版『CR七人の侍』で、これは『SFサムライ・フィクション』(98)などで知られる中野裕之監督がパチンコ液晶画面内の再現ドラマ部分を演出しているのですが、キャストが勘兵衛役の千葉真一をはじめ、何と菊千代に永瀬正敏! その他、田口トモロヲ、六平直政、田中要次、吹越満、魔裟斗といった豪華な布陣で、しかも衣裳デザインはワダエミ。ここまでくると、とりあえず見てみたくなるのは人情で、私、当時はせっせとパチンコ屋に通っては、大当たりしないとお目にかかれない7人それぞれのシーン・コンプリートを目指して頑張りましたが、いかんせん資金が追い付かず、最終的にはダウンしました……・。
(さすがにもう、どこのホールにも置いてないだろうな)
映像そのものは映画館で特別上映されたほどのクオリティで、またこのキャストならマジにリメイクしても……いや、せっかくならオリジナル作品で勝負してほしいかな……などなどと、いろいろ思わされるパチンコ台でした。
以上、『七人の侍』から発生していった作品群を、ざっとおおまかに紹介してきましたが、やはりまずはオリジナルを4Kで鑑賞していただき、そこからDVDなりTVなりいろいろな形でこういった作品群も堪能していただければと思います。
いずれにしても世界映画史上に残るこの名作、映画ファンであろうとなかろうと、長い人生の中で一度は見ておくべき価値はあるでしょう。
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(文:増當竜也)
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