映画コラム

REGULAR

2016年11月07日

就活だけじゃ無い!映画「何者」が実は婚活にも役立つ理由とは?

就活だけじゃ無い!映画「何者」が実は婚活にも役立つ理由とは?

何者 場面1


(C)2016映画「何者」製作委員会


代表作「桐島、部活やめるってよ」で知られる、人気小説家「朝井リョウ」。
本作は、彼の直木賞受賞作品である小説「何者」を、佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生、山田孝之という豪華キャストで映像化した話題作だ。

監督・脚本は、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」「愛の渦」などでも知られる、演劇界の鬼才・三浦大輔監督。主人公が学生劇団に所属するという設定だけに、三浦監督の本作への起用は、正に適役だと言える。

学校を卒業した若者が初めて直面する、「就職活動」という名の実社会へ漕ぎ出すための高い壁。
本作の様に就職活動を扱った作品は、過去にも「就職戦線異状なし」や、「ギャッピーぼくらはこの夏ネクタイをする」など、バブル期の90年〜91年に集中して製作されている。

現代の長引く不況や、雇用環境が悪化の一途を辿る現在の日本で、果たしてどの様な就職活動ドラマを見せてくれるのか?
そんな期待の中、この「何者」を公開初日の夜の回で鑑賞してきた。果たして、本作の出来はどうだったのか?

ストーリー


同じ大学に通う3人の若者達。演劇サークルで脚本を書き、人を分析するのが得意な拓人と、学生バンドを組んでライブハウスで演奏し、あまり物事を深刻に考えない光太郎。そして光太郎の元カノで、密かに拓人が思いを寄せる瑞月。

就職活動の時期を迎えた3人は、初めて直面する就職活動の厳しい現実に戸惑いながらも、内定獲得のために悪戦苦闘していた。

そんな中出合った、瑞月の友人で「意識高い系」だが、なかなか内定に結びつかない理香。そして就職に対して否定的で、フリーランスの道を模索する隆良。それぞれに就職活動の時期を迎えた大学生の5人は、直面する就活への思いや悩みをSNSに吐き出しながら就職活動に励むが、かれらの人間関係は徐々に変化、悪化して行く。そんな中光太郎と瑞月の内定が決まるが、今まで隠されていたある衝撃的な秘密が明らかになって・・・。

実は、ほぼ原作に忠実な映画版。その主な相違点とは?


何者 場面カット


(C)2016映画「何者」製作委員会


今回の映画版だが、実は意外なほど、原作に忠実に作られている。

ただ一番の相違点として、原作ではもう少し理香と隆良の比重が大きく、拓人だけで無く隆良も実はXXXを作っていた!という描写があるのだが、97分という非常に短い上映時間を考えれば、今回の省略は効果的だったと言えるだろう。

特に、ラストで理香が拓人の秘密を暴露する部分。原作では延々長い会話が続いて若干しつこいと感じたのだが、そこも映画では短く省略されており、必要な部分だけで会話がコンパクトにまとめられていて、確かにこちらの方が判りやすかった。

逆に、映画版の方が隆良のキャラクターに救いを持たせており、小説には無かった、最終的に彼が就職活動に本腰を入れることにして、拓人に就職活動の教えを請う描写を入れることで、隆良の人間的な成長を描いているなど、原作に無い描写も本作には多く含まれている。

更に、小説に登場する拓人や、彼の大学時代の劇団仲間であるギンジの舞台の内容を、実際に映像化して見せてくれるのも、映画ならではの見所だと言えるだろう。

特に終盤、徐々に演劇の舞台と現実の世界が融合して行き、最後には完全に舞台の芝居に同化するという映画独自の展開は、三浦大輔監督ならではのものであり、小説では表現出来ない部分をこうして描けることは、映画という表現方法が持つ優れた部分に他ならない。

点数で単純に評価されない社会の壁、人間の優劣は何によって決まるのか?


何者 サブ8


(C)2016映画「何者」製作委員会


本作は、実は人間の「優劣」に関する物語だ。

試験の点数・成績という明確な基準により、他者との差・優劣が評価されていた学生時代。ところが、そこから実社会へのスタートラインに立とうとする時、そこに立ちはだかる高いハードル。

実は、それこそが就職活動という、若者にとって得体の知れない化け物の姿に他ならない。

自分が得意としていた分野や、学生時代の経験では通用せず、自分が理想としていた「成りたい自分」と、現実の自分への評価との落差に押し潰されそうになる主人公達の姿は、多くの観客にとって過去の自分の体験を思い出させるに違いない。

自分よりも学校の成績で劣っていると思っていた友人が、自分よりも先に内定を取ったり、評価されるのは何故だ?!なんであいつが?なんで私じゃないの?

SNSにより、まるで自分が社会の中心であるかの様に錯覚している彼らのタイムラインに流れて行く他人の幸せ・リア充っぷり。それらを自分の現状と比べて焦り、嫉妬する彼らの目には、どうしても自分への社会からの客観的な評価を受け入れることが出来ない。

現実の自分の姿を包み隠し、まるで自分が「何者か」であるかの様に振舞うことで就職活動に立ち向かおうとする彼らが、内定に結びつかないのは当然と言えば当然のことだと言えるだろう。

更にツイッターやSNSで、自身の黒い感情を簡単に吐露出来る現代社会が、彼らの間の優越感と劣等感、そして人間不信を増加させて行く!

本作で描かれる人間の表と裏、それは極めて残酷で決して見たくない部分だが、人間が成長する上で決して目を背けてはいけないことだと、この映画は最後に教えてくれる。

かっこ悪い自分を認める勇気の大切さ!実は人生の教訓が詰まった作品


何者 場面3


(C)2016映画「何者」製作委員会


自身の家庭の事情により、仲間よりもより現実的に就職を考えねばならず、一早く就職を決めた瑞月。

そして、頭から否定していた就活に取り組むことに決めて、潔く拓人に就活への教えを請うてきた隆良。

どちらも当初の目標やスタンスから比べれば妥協したようで「かっこ悪い」「敗者」かも知れないが、現実に目を向けて、自身の行動を修正した彼らの勇気こそ、一番拓人に足りない部分だったのかも知れない。

ラストの面接試験で、大学時代の演劇仲間であるギンジの行動を、初めて逃げずに真正面から評価しようとした拓人は、一見今までの態度を崩したように見えて、かっこ悪いかも知れないが、自分のかっこ悪さや無様さを、覚悟・意識した彼は、やっと他者と同じ就職へのスタートラインに立つことが出来た、とも取ることが出来る。

自身の現実に目を向けてそれをしっかり受け止め、そこから一歩を踏み出す勇気を持つための通過儀礼。実はそれこそが、彼らにとっての就職活動だったのかも知れない。

「えっ!今の就職活動って、こんな風になってるの?」正に駆け引きと情報戦の現代就活!


何者 サブ12


(C)2016映画「何者」製作委員会


思えば自分が就職試験を受けたのは、まだネットの無い時代。

しかし、まさか今の就職活動に、WEBテストなどという制度があったとは!映画鑑賞後に原作小説を読んだところ、更に最近の就職活動の選考方法が書かれていて、文字通り目からウロコだった。面接試験に進むまでに、書類先行と更にWEBテストにパスしなければならない現実・・・。現在の就職活動の厳しさが、もはや昔とは比べ物にならないハードルが上がっていることが良く理解できたと言っておく。

ちなみに映画版よりも、原作小説にはこの辺りがもっと詳しく書かれているので、これから就職試験に向かう方は、是非この映画で予習をしておかれた方が良いだろう。

タイトルにもある「何者」とは誰か?その衝撃的な意味とは?


何者 映画


(C)2016映画「何者」製作委員会


タイトルの「何者」という言葉。実はその意味は、映画の中で意外な形で登場する。おそらく、現代のSNS社会において、誰もが思い当たるであろうその意味に、多くの観客が「ホラー映画だ!」との感想を持ったようだが、何のことは無い、「ホラー映画」という生易しい虚構などでは無く、現代ではこれこそが現実なのだ。

これ以外にも、自分の現実よりも立派な「何者か」になることを強要される、SNS上での交流。

自分は本来「何物でもない」存在なのに、就職面接においては「何者」かであることを装わねばならない事実。

大学時代は自分は「何者」かであると思い込んでいたのに、実社会に出る時点で会社から必要ない存在として扱われ「何者」でもないと思い知らされる。

本人の本質でなく、何に所属しているのか?どれだけ有益で知名度のある人脈を持っているかで人生が有利に運ぶ、に象徴される「何者」かの庇護を得るための自己アピールと立ち回り方の卑屈さ。

以上に挙げた意外にも、観客の年代や性別、仕事の内容によって、様々な「何者」の意味が見つかるはずだ。

そんな「何者」を読み解く上で、本作でも象徴的な物として登場するのが「名刺」だ。

学生でありながら、プライベート用の名刺を持つ理香と隆良。会社の一員となって持つ名刺は、正に会社の一員である事の印、自分が何者かの所属を証明する大事なツールなのだが、理香と隆良の持つ名刺に書かれた多数の肩書きには、対外的に自分が何者かであると見せかけるためのハッタリでしかない。主人公拓人のセリフで語られる通り、多すぎる肩書きで名前に注意がいかないのだ。

本来の自分の名前にトッピングとして大量に降りかけられた空虚な肩書き(実際は何の実績にもならないもの)。こうした一種の「盛り」や「過剰な自意識」を捨てた時、その時こそ就職に向けてのスタートラインに立てるのではないか?個人としての自分で勝負しようとした物、現実に目を向けてなりふり構わず行動しようとする者から内定がもらえていく。皮肉な結果ではあるが、そこにこそ人生の秘訣があるような気がした。

本作のテーマが、大学時代までの積み重ねたものを一旦捨てる勇気と気付きを持つまでの物語。そう考えれば、ラストで拓人がやっと就職活動へのスタートラインに立てるのか?という、本当に僅かな進歩を感じさせる展開が、非常に現実的でリアルなものに感じられるはずだ。
思えば三浦大輔監督の前作「愛の渦」のラストにも、本当に僅かな主人公たちの変化が描かれていた。

映画的なハッピーエンドもいいが、まだ自分が「何者」でもないことを認める強さを持つこと。実はそれこそが、社会人へのスタートラインに立つということなのではないだろうか。実際、映画の中でもいち早く厳しい現実に気が付いて、自身の目標を修正した瑞月と光太郎が仲間に先駆けて内定を勝ち取るのは、正に象徴的だと言えるだろう。

最後に


何者 サブ14


(C)2016映画「何者」製作委員会


鑑賞前に抱いていた、「就職戦線異状なし」のような、青春就活映画では?という予想。

しかし、実際の内容は、「フリーランスがいかにして生きていくか」という部分を含む上に、もはやコネや明るいさなどではどうしようも無い、現代の就職への底無しの怖さが描かれていて、非常に自分の身に置き換えて考えさせられてしまった。

実は本作を鑑賞中、ふと気が付いたことがある。まず、この映画の内容を要約すると次の様になる。

理想を追い求め、自身の価値を過大評価し、就職先である会社を、その仕事の中身で判断せず、知名度やイメージで選んでは、ことごとく失敗。

周りがどんどん就職先を決めて行く中で、徐々に自分の希望先のランクを下げたり、「なんであいつの方が先に内定を」と、他人を羨んだり妬んだり。そんな若者達が、就職活動を通して自身の評価と外部からの評価のギャップに折り合いを付けて行く。

はい、実はこれって、完全にアラフォーからの「婚活」そのものなんですよ!

現代において、もはや就職活動と並んで、人生の2大ハードルとも言える「婚活」。

更に近年晩婚化が進み、若者の結婚離れが進む現実、それはそのまま「就職浪人」や「フリーター」に当てはまる。実際本作では、主人公達5人ともが大学5年生であり、留学のためだったり拓人のように就職が決まらず1年浪人したり。その理由は確かに様々だが、正に適齢期を逃したアラサー・アラフォーの婚活に通じる設定だと言えるだろう。(これはあくまでも個人の見解です)

自分もここ数年婚活を続けている関係で、非常にこの「何者」という映画を、自分の経験と比べて別の視点から見ることができた。前述した通り「婚活」必勝法としても、きっと応用出来るので、女性の方にこそ是非オススメいたします。

本作を見る事で、自分も含めた多くの男女に幸せを掴むヒントが得られましたら、幸いです。

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(文:滝口アキラ)

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