『家族はつらいよ』は笑いと涙をもたらす快作だ!
(C)2016「家族はつらいよ」製作委員会
まもなく山田洋次監督の最新作『家族はつらいよ2』が劇場公開されますが、その前に前作『家族はつらいよ』(16)を見直してみませんか。
山田洋次監督が久々に喜劇に挑んだこの作品、松竹映画の伝統を巧みに牽引しつつ、現代日本の家族像を厳しくも温かく見据えたものでもあり、シリーズ化もウエルカムの快作なのでした!
現代家族の諸問題を見据えつつ
笑いと涙をもたらす意欲的喜劇
もともと『家族はつらいよ』は、その前に山田洋次監督が小津安二郎監督の『東京物語』にオマージュを捧げた『東京家族』(13)を発表し、そこでのキャスト(橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優)のアンサンブルの素晴らしさから、彼らと一緒にもうひとつの家族の物語を作りたいという想いから生まれたものです。
(C)2016「家族はつらいよ」製作委員会
『東京家族』は『東京物語』からおよそ60年後の日本の家族関係の崩壊を描きつつも、「決して人生は無ではない」と前向きに訴える山田監督の姿勢に希望の灯を見出すことができる作品でした。
そして『家族はつらいよ』は、崩壊したくてもできない、どこの家庭にもあるようなしがらみまみれの関係の機微を、喜劇として見据えていったものです。
とにもかくにも舞台となる平田家の家長・周造(橋爪功)の、いかにも戦後昭和を引きずる頑固で傲慢で、なかなか人の話を聞かなくて、おまけにちょっと助平で……といったキャラクターは、「ああ、結構いるよね、こんな人」といった按配ですが、そのつけが一気に回ってきたかのように突然妻(吉行和子)から離婚の話を突き付けられてしまいます。
そう、本作は現代社会において深刻な問題にもなっている「熟年離婚」をモチーフにしているのですが、劇中それが深刻に発展すればするほど、なぜか笑えてしまうというあたり、さすがは『男はつらいよ』シリーズで家族に対して喧嘩も辞さない主人公・寅さんの駄々っ子ぶりを毎回披露しては観客を笑わせてきた山田監督ならではの貫録でしょう。
「悲劇こそ最高の喜劇」とは俗に言われる言葉ですが、そんな人間のシビアな人生模様から目を背けることなく、しかしながら絶対にその中から温かい光のようなものを指し示す、それが山田映画の本領でもあるのです。
また本作を作るにあたって、山田監督は徹底的に“喜劇”という言葉にこだわったとのことです。昨今よく使われる“コメディ”という乾いた笑いではなく、どこかウエットで日本的情緒を湛えた“喜劇”。これもまた120年を越える松竹映画の歴史の基幹ともいえる“笑いと涙”の大船調の精神に即したものであるのです。
(C)2016「家族はつらいよ」製作委員会
『家族はつらいよ2』の前に
ぜひ予習復習を!
それにしても齢80を超えての山田監督の若手監督顔負けのエネルギッシュな演出には脱帽させられます。特に今回は久々の喜劇を撮れることが嬉しくてたまらないといった気持ちが画面いっぱいに溢れ出しているので、たとえ傲慢な周造に家族の面々がハチャメチャに振り回されながらも、そんな面倒臭さもまた家族の日常の一コマであるといった大らかさに、いつしか見る者は包み込まれていきます。
また見ている側が、本作のキャラクターのいずれかに似ているというか、どこか自分も思い当たる節があるところからくる照れ臭さなども、笑いに繫がってしまっているような、そんな巧みさも感じられます。
一方で、庶民的な部分と品の良さとを両立させている山田監督ならではの手腕は今回も俄然健在で、特に妻夫木聡と蒼井優の初々しいカップルの描出などは好感の持てるところです。
(C)2016「家族はつらいよ」製作委員会
そういえば『男はつらいよ』シリーズに毎回登場したマドンナを例にするまでもなく、山田映画は女優を美しく捉えることに長けており、美少女は美少女として、熟女は熟女として、その年齢に応じた人生の年輪の美しさを確実に描いてきているのです。
さて、5月27日より全国公開される『家族はつらいよ2』は、『東京家族』『家族はつらいよ』と気心の知れた面々がさらなる勢いをもって、人の「死」という、かなり過激なエピソードに挑戦していることで革命的ともいえる作品になっていますが、最後まで見終えると山田映画ならではの温かさに心包まれること必至です。
(C)2017「家族はつらいよ2」製作委員会
また前作をおさらいしてから鑑賞すると、シリーズものならではの笑いのツボが既に確立されていることに驚嘆することもできるでしょう(少なくとも、うなぎ屋さんのことは覚えておきましょう)。
現代社会の厳しさを笑いと涙ではねのける『家族はつらいよ』シリーズ、ぜひ第3作も期待したいところです。
[この映画を見れる動画配信サイトはこちら!](2017年5月16日現在配信中)
(文:増當竜也)
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