インタビュー
「世界は今日から君のもの」尾崎将也監督インタビュー・後編 「自分を肯定してしまえば、世の中に悪い人なんていません」
「世界は今日から君のもの」尾崎将也監督インタビュー・後編 「自分を肯定してしまえば、世の中に悪い人なんていません」
「世界は今日から君のもの」尾崎将也監督インタビュー・前編 「門脇麦さん演じる真実は、自分自身とフィクションが混在」
「渡る世間は鬼ばかり」か「渡る世間に鬼はなし」か。
「世界は今日から君のもの」というタイトルに込めた、尾崎監督の思い。そして、なぜ彼の作品には悪人があまり登場しないのか? そこにあるのはたくさんの研磨を重ねた末にたどり着いた、自身と世界を肯定するという姿勢だ。
−ただし真実がプロとして仕事をするようになるのを、快く思わない人もいますよね。それで映画の後半で彼女のスケッチブックが盗まれる事件が起こります。でも、その犯人を悪人として描いていません。それはなぜですか?
尾崎 真実のスケッチブックをとった人は、真実の才能を認めているからです。才能が気になるからです。とったという行為は悪いけど、「すみません」と言って謝ることでチャラになる。この人をただ悪人にして排除して終わりにはしたくありませんでした。この映画をハッピーエンドにしたかったので。抽象的なことではなく、現実的なひとつの前向きな形を見せたかった。
−「世界は今日から君のもの」という映画には、いわゆる悪人が登場しませんね。手塚治虫的というか、一見悪人に見えてもそうではないない。
尾崎 基本的に僕の作品は、悪人が少ないと思いますよ。実は「世界は今日から君のもの」というタイトルに、その思いを込めています。自分を肯定してしまえば、この世に悪い人はいないものです。「渡る世間は鬼ばかり」と考えるか、「渡る世間に鬼はなし」と見るか。
でも、見ている世界は同じじゃないですか。見方が違うだけで。ではどちらが幸福に生きていけるかと言えば、「渡る世間に鬼はなし」のほうだと思うんです。どうやってその状態を獲得していくか。真実があの後、ハッピーな人生を送るかというと、そうではなくてまだまだ試練はある。そういうことを乗り越えていく中で獲得するという、ひとつの理想型みたいなことじゃないですかね。
−テレビドラマのシナリオを書かれていて、スタッフから色々と意見を言われると思いますが、中には受け入れがたい意見もあるのではないですか?
尾崎 「好きなように書いて」と言われたものが、必ずしも良いものになるとは限りません。むしろ皆で話し合って、人の意見を聞くのは嫌いじゃないです。自分ひとりで籠もって書いていても、絶対に出てこないことってありますから。
中には的外れな意見も来ますが、それをどうやって取り込めるか。それを考えて取り込んだ場合、前より良くなることがあります。時にはピント外れな意見を言われて、それで変なものになってしまうのは、それはある意味自分の敗北じゃないですか。そこは負けにはしない。どんなピント外れな意見が来ても、勝ちにしてやる。そういう姿勢でありたい。「やっぱり負けました」ってケースもありますけどね。
「YOUさんには、計算するのではなく存在してもらおうと」。
真実を取り巻く人物たち。中でも両親の存在は彼女に影響を与えるが、現在は離婚しているという設定ゆえ、とりわけ母親の心境は複雑だ。そんな女性をYOUが見事に演じきる。
−真実を取り巻く周囲の人たちの描写は出色ですが、特にYOUさんが演じる母親は良かったですね。
尾崎 きっちりと計算した芝居を繰り出すかといえば、おそらくYOUさんの場合そうじゃないんですよね。でもお任せしてみることで、面白いお芝居が出てくる予感がありました。
計算するのではなく、マキタスポーツさんもそうですが、とにかく存在してもらおうと考えて演出しました。僕も監督経験2回目なので、どのくらいそれがうまく行っているかどうか分かりません。それは見ていただいた方の感想を聞くしかないですね。
「山田洋次監督と山田太一さんが、日本でのメンター」
−好きな映画は何ですか?
尾崎 「ベニスに死す」と「アデルの恋の物語」「タクシー・ドライバー」が根源的なベスト3です。すべてストーカーの話です(笑)。ビリー・ワイルダー監督はどちらかと言うと、好きと言うよりテキストとして、勉強に役立つという意味で。自分が書く作品に影響が出ているのはウディ・アレンですね。皮肉っぽいキャラとか。比較的初期の「アニー・ホール」「インテリア」あたりですね。黒澤明監督の作品は大好きですし、影響ということでは山田洋次監督と山田太一さん。ふたりのヤマダが、自分にとって日本のメンター的な存在ですね。
−では、寅さんとかもお好きですか?
尾崎 好きですね。
−寅さんも、悪役が出てこない映画でしたね・・。
このインタビューを通して、「世界は今日から君のもの」が、自分と世界を肯定することの大切さを描いた作品だということが分かっていただけたと思う。映画のラストで真実は髪の毛1本分の自己主張を見せ、そして白い服に身を包み、かすかな微笑を観客に見せる。その笑顔から広がる世界。 少しずつ、一歩ずつ。
(企画・文:斉藤守彦)
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