映画コラム
傑作『ドリーム』素晴らしい女優陣!でも一番の見所はあの俳優のスーツ姿!
傑作『ドリーム』素晴らしい女優陣!でも一番の見所はあの俳優のスーツ姿!
(C)2016Twentieth Century Fox
映画公開前のサブタイトルを巡る騒動でも話題となった映画『ドリーム』。いよいよ9月29日より劇場公開された本作を、今回は公開2日目の夜の回で鑑賞して来た。主役の黒人女性3人をメインに押し出したポスターからは、人種差別の時代に生きた実在の女性たちのドラマとの印象が強い本作だが、果たしてその内容とはどんな物だったのか?
予告編
ストーリー
1960年代の初め、ソ連との宇宙開発競争で遅れを取っていたアメリカは、国家の威信をかけて有人宇宙飛行計画に乗り出す。NASAのキャサリン・G・ジョンソン(タラジ・P・ヘンソン)、ドロシー・ヴォーン(オクタヴィア・スペンサー)、メアリー・ジャクソン(ジャネール・モネイ)は、差別や偏見と闘いながら、宇宙飛行士ジョン・グレンの地球周回軌道飛行を成功させるため奔走する。
3人の女性が取ったそれぞれの戦い方は、現代の会社組織でも役に立つ!
優れた能力と経歴を持ちながら、女性や黒人ということで様々な社会の偏見や差別に直面する3人の女性たち。だが、彼女達は声を荒げて会社や社会に抗議するわけでは無い。実は本作では、3人がそれぞれ違った方法で社会に立ち向かい、見事に勝利を収める過程が描かれている。
3人の中でも特に注目したいのが、実はドロシーの行動だ。
(C)2016Twentieth Century Fox
黒人には管理職への昇進が許されない状況でも、彼女は決してあきらめることなく、ちょうどNASAに導入されたばかりのIBMのコンピューターに目を付ける。
黒人専用の図書館には無い専門書を手に入れるために、白人専用図書館にも勇気を持って足を運ぶ彼女は、独学でコンピューターのプログラミング言語を学び、IBMの技術者が二人がかりでも起動出来なかった巨大コンピューターを、ついに一人で動かしてしまう!
更にドロシーが凄いのは、その知識を自分一人の物とせず、自分の部下の黒人女性にも将来のために学ばせた点。人間による計算から機械による計算へと時代が確実に進歩する中、将来的に彼女たちが職を失わない様に先手を打っていたわけだ。そしてついに彼女は、新しい部署で管理職の地位を得ることに成功する。
社会の差別に対して強く抗議すること無く、ただ仕事で成果を出し自分の能力を周囲に認めさせることで、職場の偏見や差別を無くしたキャサリンの忍耐力。そして不可能と思われた白人専用の高校への入学を、真正面から突破するメアリーの行動力と交渉力。そして前述したドロシーの、現状の扱いに妥協したり腐ることなく、その先のステージで勝つために準備・先行投資する、先見の明と判断力!
(C)2016Twentieth Century Fox
本編中にも印象的に登場するセリフ、「数字の先を読む」ことで多くの部下の生活をも救ったドロシーの姿こそ、文字通り現代の男性が見習うべき「理想の上司像」だと言えるだろう。
実は、彼女達3人が当時の人種差別に立ち向かう方法がそれぞれ違うことは、映画の冒頭での車の故障シーンでの3人の対応の様子で既に予見されているので、これから鑑賞される方は是非冒頭シーンのチェックをお忘れなく!
(C)2016Twentieth Century Fox
実は女優陣だけじゃ無く、男性キャスト陣も凄い!
一般には知名度があまり高くない無い女優陣が、見事な演技で映画全体を牽引する中、実は脇を固める男優陣にも、中々に凄い俳優たちが起用されている本作。
まず、キャサリンの再婚相手を演じるマハーシャラ・アリ。
(下の動画はマハーシャラ・アリ出演シーン)
実は彼、アカデミー作品賞に輝いた『ムーンライト』の印象的なドラッグの売人で、アカデミー助演男優賞を受賞した名優。本作では犯罪者とは全く違う誠実な州兵役で、実に穏やかな笑顔を見せてくれる。
更に、長らくB級アクションや悪役・汚れ役などで低迷していたケビン・コスナーが、本作では久々に、また「JFK」の時の様な「アメリカの良心」としてのイメージで完全復活!
(C)2016Twentieth Century Fox
本作での彼の印象的な見せ場は、キャサリンが始めて人種差別に対して抗議するシーンだろう。そう、普段は決して自身の感情を表に出さないキャサリンが、初めて周囲の人々に対して涙ながらに自分の現状を訴える印象的なシーンだ。
いつも長時間席を外して外出していることを、ケビン・コスナー演じる上司のハリソンに問いただされ、初めて人種差別がこの職場に存在することを明らかにする彼女。
ここで問題にされるのが、黒人専用のトイレが無いため、800メートル離れた元の配属先の建物まで往復しなければならないという事実。
(C)2016Twentieth Century Fox
トイレに行く自由さえ許されないという、この事実に怒ったハリソンが取る行動が、実はこの作品最大の感動ポイントになるわけだが、確かに排泄行為は人間にとって最後の尊厳であり、そこを踏みにじられたらもはや人間として黙っていることは出来ない。あの忍耐強いキャサリンの涙ながらの訴えに、即座にハリソンが取った行動とは?
そう、ハリソンは非白人用トイレの表示をハンマーで破壊して、「NASAでは小便の色はみな同じだ!」と宣言するのだ!
このシーンが素晴らしいのは、実はハリソンは決して人道主義者でも無ければ黒人擁護主義者でも無く、単に自分が全てを賭けるプロジェクトの効率を下げる問題を解決したに過ぎない点。しかし彼は、キャサリンの優れた能力に関しては認めていて、このプロジェクトに彼女が必要なことは誰よりも理解している。
だから、「プロジェクトの成功と効率を最優先させるべき時に、お前ら下らない差別で俺の足を引っ張るな!」との意味も込めて、こうした強行手段に出たわけだ。
単なるヒューマニズムや同情だけでは、差別や偏見は無くならないことを見事に表現したこのシーン。思わず席を立って拍手を送りたくなるほどの名シーンなので、是非お見逃しなく!
しかし何と言っても本作一番の見所は、キャサリンの嫌味な同僚スタッフォードを演じるジム・パーソンズのスーツ姿だ!
ジム・パーソンズは左から2番目
(C)2016Twentieth Century Fox
テレビの超人気コメディシリーズ『ビッグバン・セオリー』で彼が演じるオタクな天才物理学者のシェルドンが、そのままNASAに入ったらこんな感じ?と、観客に空想させるためのキャスティングにしか思えず、この起用は完全にアメリカの観客向けにかなり狙った物だと確信した。
そう、日本で例えるなら『銀魂』の主役を小栗旬がやるくらいの適役、と言ったら判り易いだろうか。重度のアメコミとスタートレックオタクで、普段はアメコミ系のTシャツしか着ないシェルドンが見せるネクタイ姿は実にレア!なので、ここも是非劇場で!
最後に
本作が素晴らしいのは、声高に「人種差別反対!」をうたって、涙と感動のドラマに持って行くのではなく、国家規模の大きな目的に向かう状況では、個人の能力こそが重要なのであり、作業効率をアップさせ成功に導くためには、人種や性別による差別は不合理でマイナスにしかならない、と描いている点!
確かに国民共通の大きな目標の前には、肌の色や性別はあまりに小さな問題であり、本作の内容は人種差別的発言を繰り返す某大統領への静かな抗議とも取ることが出来るだろう。
実は今回鑑賞して意外だったのが、てっきり重い社会派ドラマだと思ったのに、実際は全編通してユーモアを忘れない軽い印象だったことだ。恐らくそれは、NASAでのプロジェクトやそれに関わる様々な社会問題と同じウェイトで、ちゃんと彼女達の家庭や私生活での幸せが描かれているからだろう。
夫や子供達に支えられ、新たな出会いや恋愛にも向き合いながら、これだけの国家的プロジェクトに重大な役割を果たした3人の女性の姿は、仕事や恋に悩んだり行き詰まりを感じている貴女にも、きっと勇気とひらめきを与えてくれるに違いない。
世界を一気に動かすのではなく、まず自分の周囲で自分が出来ることを精一杯やること。それが周りの人々を動かし、やがては世界規模の動きに発展シていく。今は厳しい状況でも、一人一人の努力こそがやがて変化への原動力となることを、我々に教えてくれる本作。
劇場で見ないと確実に後悔する傑作なので、全力でオススメします!
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(文:滝口アキラ)
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