映画コラム
芸術の秋にふさわしい美のエンタメ『ポリーナ、私を踊る』
芸術の秋にふさわしい美のエンタメ『ポリーナ、私を踊る』
(C)2016 Everybody on Deck - TF1 Droits Audiovisuels - UCG Images - France 2 Cinema
肉体のすべてを駆使して踊るダンスほど人間の躍動感を醸し出すものはないと個人的には思っていますが、ここにまた1本、そうしたものを如実に訴えながら、人生そのものの機微まで描出し得た素敵な青春映画が登場しました……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.266》
『ポリーナ、私を踊る』、この“私を踊る”という部分がとても印象的な良い邦題、そして良い映画です。
天才バレエ少女がたどる
数奇な青春の運命
映画『ポリーナ、私を踊る』の舞台は、ロシアから始まります。
主人公はボリショイバレエ団のバレリーナをめざすロシア人少女ポリーナ。貧しい家庭環境ながらも両親の尽力と厳格な恩師のもとで、将来を有望視される存在となっていきます。
(C)2016 Everybody on Deck - TF1 Droits Audiovisuels - UCG Images - France 2 Cinema
しかし、ようやく念願のボリショイ入団を目前にしたある日、ポリーナはフランス人ダンサーのアドリアンと恋に落ちるとともに、コンテンポラリーダンスの魅力に目覚めてしまい、全てを投げ捨ててアドリアンとともに南フランスのコンテンポラリー・ダンスカンパニーへ赴きます。
カンパニーでは著名な振り付け家リリアの厳しい指導を受けながら、やがてポリーナは自分を見失い、気持ちが空回りし始めていきます。
そしてついに練習中に怪我をしてしまい、やがてアドリアンとも別れて傷心の心のまま、ベルギーのアントワープへ流れ着きますが……。
一人の天才バレエ少女が数奇な運命に翻弄されながらも成長していく姿を美しく真摯に捉えたこの作品、原作はフランス漫画界の新潮流を代表するバスティアン・ヴィヴェスの『ポリーナ』。
これをドキュメンタリーからドラマまで幅広く手掛けるヴァレリー・ミュラーと、バレエダンサーでありコンテンポラリーダンス振付家としても著名なアンジェラン・プレルジョカールが共同で監督。
若い女性の人生のドラマのうねりを、決して大仰ではなく淡々と描く手腕と、対照的に数々のダンスシーンの躍動感のバランスが巧みに保たれているのも、この二人の監督のコラボに負うところが大きいでしょう。
(C)2016 Everybody on Deck - TF1 Droits Audiovisuels - UCG Images - France 2 Cinema
本物のダンスと本物の美、
そして本物の“映画”!
また今回のヒロイン、ポリーナを演じるアナスタシア・シェフツォワの聡明な美しさも、本作の質と品格を高める上での決定打となった感があります。
1995年のロシア生まれで、幼い頃から芸術をたしなみ、10歳よりバレエアカデミーに入学し、9年後にはクラシックからモダンまで幅広いレパートリーを持つサンクトペテルグルクのマリインスキー劇場に入団。
その輝かしいキャリアは、映画デビューとなった本作でいかんなく発揮。何よりも天性ともいえる彼女の美しいダンスの数々に、見る者はただただため息をつくばかり。
(C)2016 Everybody on Deck - TF1 Droits Audiovisuels - UCG Images - France 2 Cinema
またポリーナを指導するリリア役に何と名優ジュリエット・ボノシュが扮していますが、彼女は2008年に舞台『イン・アイ』で初めてダンスに挑み、それが高く評価されたことを活かしての抜擢なのでした。
その他、ポリーナに関わっていくさまざまなアーティストたちの、本物の貫録と魅力が映画全体の本物感を増幅させながら、いかにしてポリーナが「私を踊る」=自分自身を表現できるようになっていくかがスリリングに、そして真の映画的情緒として発散されていきます。
「芸術の秋」という言葉にぴったりな、そして芸術こそは真のエンタテインメントでもあり、魅惑的かつダイナミックなものであることを改めて知らしめてくれる美しい秀作です。
ポリーナと一緒に、ぜひ青春の心を彷徨しながら、自分自身のステージを見出してみてください。
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(文:増當竜也)
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