ドラマ『コウノドリ」、“命”の現場を見つめる物語の圧倒的魅力!
同作は、「モーニング」で連載されている鈴ノ木ユウの同名タイトル漫画が原作。2015年10月期のドラマとして1度映像化されており、今回は第2シーズンの放送という形になる。主演には、前シリーズで連続ドラマ単独初主演を飾った綾野剛が続投。産婦人科医にしてピアニストでもある主人公・鴻鳥サクラを演じている。そして今回の放送では綾野以外にも、前シリーズから松岡茉優、坂口健太郎、吉田羊、大森南朋、そして星野源が続けて登場しており、新たなキャラクターやゲスト出演を含め豪華キャストの共演を実現している。
同作の魅力は何と言っても、人生において最も重要な出来事である妊娠・出産を医療の現場から見つめた、リアルなドラマ作りにある。俳優・綾野剛といえば売れっ子中の売れっ子で、現在公開中の映画「亜人」では亜人グループのリーダー・佐藤役で強烈なインパクトを見せつけているが、同ドラマシリーズでは患者の目をしっかりと見据えて一つ一つ丁寧に言い聞かせるように優しく語りかける姿が印象的だ。また歌手として活躍し、ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の好演が話題を呼んだ星野源は、冷静沈着すぎるほどに状況を見極め現実的に患者と接する産婦人科医・四宮を演じている。
志田未来、再び母になる
中でもその演技が視聴者に大きな感動を与えたのが、第1話で耳が聞こえない妊婦・早見マナ役を演じた志田未来だ。志田の妊婦役と聞くと、2006年に放送されたドラマ「14才の母」を思い浮かべる人も多いだろう。放送当時センセーショナルな内容が話題を呼んだが、それ以上に志田は14才にして母親になった少女を熱演してその演技が高く評価され、橋田賞新人賞など多くの賞を獲得した。それから10年以上が経過し、今回再び妊婦役に挑んだ志田だがそれに加えて “耳が聞こえない”という難しい演技に挑戦した。
夫婦揃って耳が聞こえないために、鴻鳥ら周囲の医療スタッフは筆談や口を大きく開けてマナにも伝わるように配慮を見せる。出産シーンでは「いきんで!」などと書かれたフリップを医療スタッフが手にし、全員が呼吸を合わせてマナの出産のサポートに入る場面は胸を熱くさせたが、何より耳が聞こえない状態という演技も含めながらそのリズムに合わせていきむ志田の姿は圧巻の一言。目を見開き歯を食いしばりながら、呼吸を合わせようとする鴻鳥をひたすら見つめ、叫び声を上げる姿は本当に出産するのではないかと思わせるほど。やがて元気な子を産んだマナだったが、赤ちゃんをそばにして涙をこぼすマナ役の志田の姿に視聴者は釘付けになったはずだ。
“母親”の現実
そしてもう1人、同ドラマで需要な役を担っているのが第1話から登場しているキャリアウーマン・左野彩加を演じる高橋メアリージュンだ。彩加はその性格ゆえに妊婦の時から出産後の職場復帰を考えているような人物で、さらにエコーによる診察の結果赤ちゃんが心臓に疾患があることが判明する。
無事に出産して“みなみ”と名付けた彩加だったが、第2話では四宮による産後の定期診察を受けた際に「何か困ったことはありますか」と聞かれ彩加は「いえ、大丈夫です」と即答。「母乳は出ていますか」「夜はしっかり眠れていますか」という質問には語尾に被せるような勢いで「大丈夫です」と答え、「来月仕事復帰したら眠いなんて言ってられないですから」と強気な態度を見せる。産後うつ病質問票を見ても、あくまでも“自分は忍耐強い”“体力と根性には自信がある”と言い張るのだが、その一方でふと不安げな表情を見せる瞬間も。
この情緒不安定な面持ちを覗かせる高橋の演技がやたらリアルで、目鼻立ちがはっきりして女性らしい“凛とした強さ”をたたえる高橋だからこそ、彩加の感情の落差が視聴者を不安にさせる。
そして案の定、彩加は立ち行かなくなる。第3話ではどことなく憔悴したようすでみなみの診察のために病院を訪れ、職場復帰を急ぐあまりみなみを預ける保育園探しに躍起になって自宅内が乱雑な状況に。心臓に不安があるみなみの育児がのしかかり肉親や夫の言葉ですら彩加の負担になるなど、いよいよ彩加は産後うつの兆候を顕著にしていく。ここで描かれる過程は実際にその立場になってみなければ体験し得ないものだが、妊娠から出産、子育てを経て社会復帰するまでに“母親”という存在が、どれだけ体力や気力、精神力を磨耗しているのかが嫌が応にも伝わってくるはず。
そこには日本で言うところの“イクメン”という言葉が、どれだけ家庭内においてズレた価値観であるかを伺わせ、互いが互いを思いやることを忘れた瞬間から崩壊の足音が聞こえてくるかが分かる。強がるあまり、“言葉にできない”“助けを求められない”という声ならぬ声が、ドラマを通して掬い上げられているように思えるというのは果たしてオーバーな表現だろうか。ドラマという創作上の世界とはいえ、子育て・家事・社会復帰の準備に追い詰められていく彩加の状況は、見ているだけでも胸に尖った楔を深く打ち込んでくる。
“自分は強い人間だ”という自負が音を立てて崩れ去り、精神的に孤立していった彩加はついに我が子を置き去りにして、病院の屋上に立つ。それでも、彩加を想う眼差しが彼女を救うことになる展開は、彩加にとって、そしてドラマにとっても登場人物の描きこみに拍車をかけることに。彩加を救ったのは四宮であり、四宮は医師として、1人の人間として彩加と向き合い、それだけでなくどこか考え方が逸れてしまっている夫を叱責する。四宮が差し出した救いの手によって、次々とその輪が広がりを見せて、ようやく彩加も、そして彼女に感情移入していた視聴者も大きな安心感に包まれていく。ドラマの終盤で、 “誰かに助けを求める”ことの必要性や、夫が“父親”になることの大切さが、沢山の親子の表情とともにメッセージとして伝わってくるはずだ。
ドラマではこれらの出来事以外にも、新たな命が誕生する瞬間をその前後も踏まえて描いている。離島で鴻鳥が向き合った命。癌を患い、お腹の中の赤ちゃんを救うのかそれとも自らの体を守るのか。ときにはコメディタッチで、迷信や周囲の言葉に左右されすぎる妊婦のエピソードを描くが(ゲスト出演の川栄李奈がまた良い味を出している)、そんな中でも無痛分娩を拒否する発言に対して「痛みがなければ愛情が生まれないっていうなら、俺たち男はどうやって父親になればいいんだよ」とさり気なく本質を突く発言を夫にさせたりもする(同じくゲスト出演のゴールデンボンバー・喜屋武豊もまた良い味を出している)。命と向き合う現場だからこそリアルなドラマが生まれ、登場人物1人1人の言葉が胸に響く。
まとめ
妊娠・出産を巡るヒューマン医療ドラマだからと言って、「女性に観てほしい」という価値観のドラマではない。むしろ「男性に観てほしい」ドラマでもある。妊娠から出産、子育てを経験する妻がどんな思いを抱えているのか。それがどれだけリスキーであり、そんな中で幸せを感じているのか。そんなパートナーとどう接していけばいいのか、その指南書の役割をドラマは果たしている。テレビドラマだからこそ客観的に観ることが出来る部分もあり、もしもドラマの中と同じような状況に立っているのならば尚更のこと重なる部分が多くなるはずだ。過酷な展開を描いているが、あくまでもその視点は鴻鳥の視線と同様に暖かいものになっている。命が生まれる現場と、命を育てる現場から見えてくるリアルなドラマを、しっかりと見つめてほしい。
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