映画コラム

REGULAR

2017年11月24日

「光」大森立嗣監督インタビュー「俳優には勝手に解釈してもらって自由に演じてほしい」

「光」大森立嗣監督インタビュー「俳優には勝手に解釈してもらって自由に演じてほしい」



(C)三浦しをん/集英社・(C)2017『光』製作委員会


三浦しをんの「まほろ駅前」シリーズの映画化を手がけた大森立嗣監督が、再び三浦氏の小説を原作に、過去の記憶とお互いへの執着心に翻弄される3人の幼馴染の愛と闇を描く、映画『光』が11月25日(土)に公開されます。

メガホンを取り、脚本も手がけた大森監督に、監督自身が“自分を壊した”という挑戦についてや、独自の撮影方法、キャストとの関係性について伺いました。




──オープニングから驚かされました。あの映像にあの音楽と言うのは大森監督のこれまでの作風からは想像つかないものでしたが、最初から構想はあったのでしょうか。

大森立嗣監督(以下、大森):普通にやったら『さよなら渓谷』と似た作風になりそうだと予感があって。ミステリー要素もあるし、男女の関係も描くわけだし。1度やったことを自己模倣するのはいやだなと思って。ジェフ・ミルズのことは以前から頭の中にあったので。ただ、勇気のいる決断でした。実際に音楽を付けていく作業は大変で、違和感はあって当然なんですが、そのさじ加減を調整をするのが本当に大変でした。

──エレクトロミュージックはもちろんですが、島での虫や鳥の効果音も印象的でした。

大森:効果音は映画にとってすごく大事なもの。いつも巨匠(伊藤進一さん)とお仕事をしているのですが、僕がほしい音、フレームの外を感じさせる音を出してくれる。効果音は、フレームの外を感じさせる上で一番大事ですね。

──本作では互いへの執着心による、愛憎劇がメインに描かれていますが、“執着心”というものを監督自身はどう捉えていますか?

大森:今の時代って執着しづらい環境じゃないですか。執着って言うのは誤解も受けやすいですし。でも、愛情と執着って紙一重で、人間が生きていく上で、そういう強力な感情って必要と言うか、大事なものなんじゃないかと僕は思っているんです。

──輔(瑛太)から信之(井浦新)、信之から美花(長谷川京子)への執着心ははっきりと描かれていましたが、信之から輔についての感情を監督はどのように考えていましたか?

大森:少年期は、輔に対する憐憫の感情と、輔につきまとわれてうざったいという感情が入り混じっていて、親戚とか家族に感じるようなものがあったと思う。大人になってからは輔に執着されて、より面倒な気持ちが強くなる…。

ただ、その奥先に信之ならではの、輔に対する愛情みたいなものがあるのかもしれない。ただ、これは輔だけが感じられる感情だと思うから、僕は映画を作るうえではあまり考えないようにしてましたね。



(C)三浦しをん/集英社・(C)2017『光』製作委員会


──では、美花から信之に対する感情はどんなものなのでしょうか。

大森:それは本当に難しかった。でも、ああいう女の人の感情ってわからないものだから、僕はわからないものとして描いているんですよ。ただ1つはっきりしてるのは、輔や信之と違って、3人の中で唯一、社会に対して向き合っている人だということ。

そういう意味では、映画を見ている人に一番近い立場なのかもしれない。社会で生活していて、仕事がたまたま女優だったという感じかな。生活を保持したいという気持ちがあるから。そういう気持ちはみんなわかりますもんね。

──逆に、輔は社会の底辺をさまような生き方をしていますが、監督は“その日暮らしの人間”の描き方がすごくリアルですよね。

大森:底辺と言うわけじゃないと思いますが…(笑)。ただ、僕も昔ああいう仕事をしていたりしたものですから。肉体労働、好きなんですよ(笑)。接客業よりはね、全然向いてるし(笑)。僕の好きな昔の日本映画なんかでは、ああいう生活の匂いが立ち込める映像がよくあって…やっぱり、映像に“匂い”とか“温度”が感じられる映画は強いなと思います。

──本作でもすごく温度が感じとれました。

大森:あとは湿度も意識しましたね。

──温度や湿度の出し方というのは法則があるのでしょうか。

大森:最初から撮る映像を決めておかないことですね。俳優という仕事をしていても、ひとりの人間なわけですから。「こうやってほしい」とか頭で決め付けないで、その場の温度とか湿度を感じとって、自由に演技してほしいと思うんです。そういう意味でもね、信之とか輔みたいに本能のまま生物として生きてる人間って興味深いし、描く上で面白いですね。

──今作で描かれた輔は、無垢ななかに野生的な凶暴さも感じ取られ、色気もあって。人間の本能を凝縮したような人物でした。そんな輔を演じた瑛太さんとは、監督は「まほろ駅前多田便利軒」で一緒にお仕事されている間柄ですが、今作での瑛太さんのお芝居はいかがでしたか。



(C)三浦しをん/集英社・(C)2017『光』製作委員会


大森:いやもうびっくりですよね。いや、「まほろ駅前~」をやっているころとは変わっていて当然なわけですが。僕、瑛太くん好きなんでね。舞台や映画で、彼のお芝居は見ていたんです。成長しているだろうとは思ったし、楽しみにしていたんですが、いざ撮影に入ったら本当にすごかった。すごく自由になっていたんですよ。頭で考えずに、新君の目線ひとつ、声色ひとつで感じて、芝居を変えていく。

──監督から瑛太さんに何か言われたことはあるんでしょうか?

大森:ないですね。脚本を書いてるのは僕なんで、足りない部分の説明くらいはしますし、質問があれば答えますけど。いつもカメラ回して「はい、どうぞ」って感じなんで(笑)。

──瑛太さんから質問は何かありましたか?

大森:あったけなぁ。「このシーンの動きどうでしょうか」とかその程度だと思いますよ。それでだいたい僕は「まぁいいんじゃない」くらいしか言わないんで(笑)。理屈をつけて「さっき撮ったシーンがこうだったから次のシーンはこうだ」とか考え始めると、どんどん演技のふり幅が狭くなっていく。だから、勝手に解釈してほしいんですよ。「さっきのシーンはこうだったけど、今はこうなんだ」って自分で感じて。

──その輔の芝居を受ける信之を演じる井浦さん。今作で強烈に感じたのは、信之の目の奥の、底知れないほどの冷たさ。

大森:なんか、感じましたねぇ…。



(C)三浦しをん/集英社・(C)2017『光』製作委員会


──意図したわけではなかった?

大森:そうそう。輔と再会する工場でのシーンなんかね。「うわ、あんな冷たい顔するんだ」って、びっくりするくらいだった。俳優の恐ろしさを改めて思い知って、感心しましたね(笑)。

──信之、輔、美花、それぞれに恐ろしい部分がありますが、監督がいちばん恐ろしいと感じるのは誰でしょうか?

大森:やっぱり信之。途中で、すんごい怖い顔していて、もう見るのが嫌になるくらい(笑)。

──本作では、信之の背中がよく映されているのですが、それは関係しているのでしょうか?

大森:そうでしたっけ(笑)。確かに僕は背中を撮るのが好きなんですよ。今作に関してはそこまで意識したつもりはなかったでけど。でも、思い返すと「背中を向けて」と言って背中をカメラに向けてもらったシーンもあったから、無意識にやってたのかもしれないですね(笑)。

──大森監督が考える背中の魅力とは?

大森:積極的に見せようとするものより、あふれ出てきてしまうものが撮れるからいい。背中が上手に撮れると嬉しいですね。

──信之を演じた新さんの、監督から見た魅力とは?

大森:彼はなんとも奇妙な人で。普段の彼のほうが、感情を読み取りにくい。お芝居に入ると、感情が開放されていくから、大丈夫と言うか、わかりやすいんですが。彼は多方面に気を使う人だし、本心がなかなか読み取りづらいんだけど、それが芝居に入ると一気に変わる。そこがまた面白いんですよね。

──そんな新さんが望んだという、瑛太さんとの共演が本作で実現し、ふたりの相性はいかがでしたか?

大森:いや、もうバッチリですよ。ふたりとも生き生きしてましたね。年の差もちょうどよかった。瑛太君は最近はもう“主演”って感じのお仕事が多くて、自分が中心に動いていかないといけない立場の作品が多かったから、こういう風に先輩の俳優がいて、自由に芝居ができるっていう環境はすごくよかったと思いますよ。新もね、こんな底冷えするほどの恐ろしい人間を演じることはなかなかないでしょうから、よかったと思いますね。



(C)三浦しをん/集英社・(C)2017『光』製作委員会


──また、今作で強烈な印象を残すのが数々のアート作品。一番の存在感を放っていた岡本太郎さんの作品を作中に入れるというのは、元から構想があったのでしょうか?

大森:岡本太郎さんの作品は生命力に満ちていて…。「光」を初めて読んだ時に僕が強く感じたのが「生命力」だったので。それで、映画化する過程で、岡本さんの作品にリンクしだして、作品を映画の中に出したいと思うようになったんです。

──たびたび、「カピトリーニの牝狼」が出てくるのも頭に残りました。

大森:あれはね、たまたまロケハンしてたらごみ置き場みたいなところに落ちてたんですよ。

──本当にごみ置き場にあったんですか!?(劇中でもごみ置き場で登場する)

大森:いや、あのごみ置き場じゃないんだけど、近くにたまたまあったんですよ。それで、パッとインスピレーションが沸いて「これを使いたい!」って。まぁ、ローマ帝国を作った双子がモチーフなんですが、その関係性がどこか信之と輔に通じるものがあったし、狼に育てられたという野生の象徴的な像が、理性に逆らうというイメージで、この作品に合うなという勝手な想像なんですけどね。

──今回、大森監督の作品を見てきた監督のファンの方々も驚かれる仕上がりになってると思います。最後に、監督ご自身で、映画のアピールをお願いいたします。

大森:「なんか怖そう」って思われるかもしれないけど、そういうイメージだけで映画館から足を遠ざけることだけはやめてもらいたいですね。

僕は自分で自分を壊すようなことをこの映画でやっていて、いまだにこの作品を見た後に、上手く言葉では説明できない「ざわざわ」する感情が渦巻くんですよ。

それが何なのか、これからずっと考えていこうと思っています。なので、皆さんにもこの映画を見ていただいて「ざわざわ」を感じてもらい、それについて考えていただきたい。そういう時間もきっと楽しいものだと思いますよ。

──本作で大きな挑戦をされたわけですが、次回作でさらなる挑戦などは考えているのでしょうか…?

大森:こういうのを撮っちゃった後はね…次はおとなしく、売れそうな映画を作るつもりですよ(笑)。

──そちらも楽しみにしております(笑)!




大森立嗣(おおもり・たつし)


1970年東京生まれ。阪本順治監督作に俳優として参加し、そのままスタッフとなる。以降、阪本監督、井筒和幸監督作のほか多数の映画で演出部として参加し、05年、花村満月原作、荒戸源次郎製作の「ゲルマニウムの夜」で長編監督デビュー。「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」(2010)で第51回日本映画監督協会新人賞受賞。「まほろ駅前多田便利軒」(2011)、「さよなら渓谷」(2013)、「セトウツミ」(2014)など。「光」は11月25日(土)新宿武蔵野館・有楽町スバル座ほか全国ロードショー。

(撮影:井嶋輝文、取材・文:NI+KITA)

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