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『勝手にふるえてろ』大九明子監督インタビュー「人生上手く渡り切れてない全ての“人間”に向けて…」

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ニのような面倒臭い男って
割と嫌いではないです(笑)




(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会


── 対する男たちですけど、同性としてはもう感情的に見てしまいましたね。特にヨシカにつきまとうニ(渡辺大知)は「もう少し空気読めよ!」と近くにいたら思わず言ってしまいそうなほどで(笑)。一方でヨシカが憧れ続けているイチ(北村匠海)のクールな佇まいには、奇妙なリアリティが感じられました。

大九:あ、そうですか(笑)。



(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会


── いや、実は私も先日同窓会があったとき、似たようなことがありまして……というのはともかく(笑)、でもイチもニも「こういう奴いるよな」とか、特に二に関しては、「ああいったこじらせ男子って、意外にヨシカみたいな女子と相性が合うのかな?」とか、映画を見終わった後もしばらくの間、いろいろ考え込んでしまいましたね。

大九:私自身は小説を読みながら、ニがどんどん可愛くなってきて惚れちゃったとでもいいますか(笑)、ああいう面倒臭い男って割と嫌いじゃないんですよ(笑)。だから、そんな二に私自身が言われたいことやされたいことなどを、映画では好き放題に描くことにしました。ラストシーンなんて完全にそうですね。

シナリオの段階でもヨシカはたとえ宅配の人でも部屋の玄関の中に入れない。いわば玄関は彼女にとっての結界なわけですけど、それをいかにしてニが破るのか? みたいなことも含めて、いかに二をかっこよく描くか?

── だからラストで彼が急にかっこよくなるわけですね。確かに、あそこで彼の顔がガラッと変わるんですよ!

大九 また、シナリオでそう書かれているにも関わらず、その撮影中に白石裕菜プロデューサーが飛んできて「これではヨシカがニに食われてしまう。ここはラストなんだから!」と言われて、「うるさいな、もう!」と思いつつ(笑)、「はいはい、わかってます。でもニはかっこよく撮りますし、それに負けるヨシカじゃないから」と。



(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会


── 実は映画を見ながら、ラストの前の段階で映画が終わってもいいのではないかと思えたのです。つまり、もう既に観客はみんなヨシカのことを好きになっていて応援しているのだから、それでいいのではないかと。でも、その後があるのであれば、観客のそういった想いを越えるものをニに持たせなければならない。映画はそこが非常に上手くいっていると思いました。つまりは、男の目から見て嫉妬の悔しさも味わいつつ、ラストのニはかっこよかった!

大九:ああ、なるほど(笑)!

── 撮り方も全体的にユニークですよね。たとえばマンションに集っての同窓会のくだりでは、ヨシカのハイヒールから始まり、スリッパが画面からフェードアウトして終わる。さりげなくも面白い繋ぎだと思いました。

大九:そうなんです。張り切ってた足元が、最後はつらい現実から逃げてしまうという感じでやってみたのですが、気づいていただけて嬉しいです。

── ヘンな感想ではありますけど、この映画のヨシカを見ながら、まるで自分自身を見ているような錯覚に陥りました。孤独であること、人とうまくコミュニケーションをとりたいのに上手くいかずに悶々としたり、それゆえに孤独に陥ることって、男女の別に関係ないと思えるのです。その意味でも、先ほど監督がおっしゃった「万人に向けてというよりも、ヨシカ的な人にちゃんと届けよう」という意図は見事に達成されていると思いますし、何よりも実は万人の中にヨシカ的な要素はあるのではないでしょうか。

大九:実は男の人には絶対受け入れられないだろうなと思いながら作っていたのですが、完成した後でいろいろな男性の方々から「ヨシカは俺だ」みたいな感想をいただくもので、驚きと同時にすごく嬉しいです。ありがとうございます。

性別を超越したところでの
“人間”の魅力を描く大九監督作品




(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会


── もともと大九監督作品は女の子にこだわって作られているような印象ですけど、たとえば『ただいま、ジャクリーン』の染谷君なんてかなり女の子っぽいというか、どこかしら性を超越した感もあります。

大九:言われてみれば(笑)。確かに私は、人生上手く渡り歩き切れてない感をくすぶらせていたり、鬱々しているような人が好きなんです。だから実は女の子に限らず、そんな人間を描いていけたらなと、いつも思っていますね。

── そういった性別がとっぱらわれて“人間”そのものの悶々とした部分を魅力として描く大九映画という大きな一面が、今回は特に大きく開花されている気もしています。話を最初のほうに戻しますと、『東京無印物語』(09)『ただいま、ジャクリーン』の趣里さんや、『でーれーガールズ』の前野智哉さんなど、これまでの大九監督作品に出ていた役者さんが美味しい感じで登場してくるのも、大九映画をずっと見てきたファンとしては楽しいものがありました。

大九:趣里さんは趣里さんありきで、あの店員役をアテ書きしました。彼女はもう本当にこの世のものとは思えないというか、まるで天女みたいに可愛く美しく、そして研ぎ澄まされた彼女の肉体がフィギュアみたいで素敵だと思って、じゃあ今回は金髪かぶして人形にしちゃえ! と(笑)。

── 思えば彼女から映画は始まるわけですが、実はそこである種の映画の象徴というか、方向性を示唆する存在にもなり得ているわけですね。

大九:駅員役の前野君も大好きな俳優さんです。『でーれーガールズ』で初めてご一緒しましたが、いいですよねえ。彼の顔が大好きなんです。もう見ていて飽きない(笑)!



(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会


── そういった、どこか浮世離れした雰囲気のキャラが多数登場することによって、この映画はリアリズムの映画ではないなと思いながら見続けていくうちに、いつのまにか哀しいまでのリアルに満ちたものへと化していくという面白さが、この映画の最大の魅力ですね。しかも決して見る側を突き放すようなことはしない。

大九:そうですね。そういう意味で言いますと、今回は映像作家みたいなこととしてやりたいことは全部引っ込めようと心がけながら作ったんですよ。

たとえば、もともと私は1シーン1カット撮影とか好きで、チャンスがあればやってみようと思いつつ、シナリオを書いて実際ロケハンしたり松岡さんと話したりしていくうちに、これはそんなことをやる映画ではないなと。

ヨシカという人間をきちんと伝達する映画にしなくちゃいけないし、そこに変な作家性やらキャメラワークやらといった監督の匂いがしてはいけないと思ったんです。

だから歌のシーンも先ほど言いましたように、変なギミックで見る人の思考を停止させるのではなく、言葉でちゃんと誰からもわかるようにしたい。むしろ泥臭くやろうと思いました。



(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会


── でもそういう風に心がけながら完成した作品が、見事なまでに大九監督作品になっていると、少なくともこれまでのファンが思えてしまうのも、また不思議ですね。

大九:ホント、そうですね(笑)。

── 音響も実験的な気配りがあります。ラストも卓球のピンポン・ラリーの音を効果的に挿入していますね。

大九:ピンポンのシーンを撮っているとき、あのラリーの音がすごくまろやかで素敵だったので、録音技師の小宮元さんに「この音、仕上げでなにかしらに使うから」とオンリーでいろいろなパターンを現場で録っておいてもらったんです。

卓球のシーンでニにバシンと心を射抜かれてハッとなったヨシカは、そこで一瞬でも彼のことをかっこよく見えただろうし、また今どきベタなレインボーブリッジを見て「綺麗」と素直に言えてしまう二を「今どき素直な奴っているんだな」とちょっと見直してみたり、そういった事象を思い出しながらラストの想いが高まっていければなあと。

つまりドッキンドッキンの代わりがカッコンカッコンなんです。

── 私はあの音を聞きながら、あの二人はこれから卓球でラリーを続けていくような関係が築かれていくのかなと思ってしまいました。
大九:あ、これからそう答えるようにします(笑)。

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この取材の直後、『勝手にふるえてろ』は第30回東京国際映画祭コンペティション部門で観客賞を受賞しました。



第30回東京国際映画祭授賞式にて(観客賞を受賞) (C)2017 TIFF


それは今までも、そして今回も、技巧的なことをひけらかすことなく、それでいて個性は見る人が見ればわかるようにできている。そんな万人に開かれた大九監督作品だから成し得た受賞ともいえるでしょう。

続いては12月23日(土)から始まる本興行で、多くのヨシカたちにこの快作に触れていただきたいと、切に願っています。

プロフィール:大九明子(オオク・アキコ)




第30回東京国際映画祭にて (C)2017 TIFF.jpg


1968年神奈川県出身。プロダクション人力舎スクールJCA第1期生となり、数々のバラエティやライヴに出演した後、制作サイドに転身。1997年、映画美学校の第1期生となり、『意外と死なない』(99)で監督デビューを果たす。その後、『恋するマドリ』(07)『東京無印物語』(12)『ただいま、ジャクリーン』(13)『モンスター』(13)『放課後ロスト/倍音』(14)『でーれーガールズ』(15)『渚の恋人たち』と作品を発表し続けている。

(取材・文:増當竜也)

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