俳優・映画人コラム

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2022年03月16日

のんの魅力:『Ribbon』で放った天性の才能と引力

のんの魅力:『Ribbon』で放った天性の才能と引力


(C)「Ribbon」フィルムパートナーズ

俳優が演じ手から創り手にシフトすることは、少なくない。

『夏、至るころ』では池田エライザが原案・初監督を、『ゾッキ』では竹中直人×山田孝之×齊藤工という異色なコラボによる監督を、『MIRRORLIAR FILMS Season1』『MIRRORLIAR FILMS Season2』では安藤政信、三吉彩花、志尊淳、柴咲コウなどが監督を務めている。

演じ手と創り手では、まるで勝手が違う。
だが、演じ手を経験したからこそ生まれる新しい発想や切り口が、作品のスパイスになり、映画業界に新しい風が吹くこともある。

のんが脚本・監督・主演、そして編集まで務めた『Ribbon』もまた、のんの確固たる才能を魅せつけられる作品となった。

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今だからこそ伝えたい苦悩。コロナ禍のリアルが紡ぎ出された『Ribbon』


【予告編】


コロナ禍になって、はや2年。

外に出ることを制限されるなんて、マスクがファッションの一部になるなんて。

「自分が生きているうちに大々的に教科書に載るような出来事が起こるなんて、思いもしなかったよね」

まだまだ予断ならない状況ではあるが、特に第一波の時にはこれまで当たり前だった生活がどうなってしまうのか、不安で不安でしょうがなかった。

「仕事は?学校は?私たちの将来、大丈夫?」

人間からすっかり生気を吸い取っていった、コロナ禍。
『Ribbon』を観ると、あの頃の感情がぶわっと溢れ出てきて感傷的な気持ちになるとともに、今、少しずつでも前に進むことができているこの現実に対して感謝せずにはいられなくなる。

(C)「Ribbon」フィルムパートナーズ


のんが脚本・監督・主演、そして編集とマルチに務め、いかんなくその才能を発揮した『Ribbon』は、コロナ禍により受けた打撃をあますことなく脚本にぶつけたような内容となっている。
実際、のん自身、開催を予定していた「NON KAIWA FES」がコロナ第一波の影響により中止、その他の仕事の予定もキャンセルになり、「こうしちゃいられない」という思いから脚本を書きはじめたという。

コロナの影響により卒業制作展が中止となり夢が絶たれるいつか(のん)、ともに夢を目指し絵への思いを捨てきれずにいるいつかの親友・平井(山下リオ)、いつかを取り巻く朗らかでちょっとクスッとさせられる独特な母(春木みさよ)、父(菅原大吉)、妹(小野花梨)、ほっと一息つきたい公園でなにかと遭遇する男(渡辺大知)。

「こういう人、いるいる」「こんなやつおらんやろ」が交互に繰り返され、観ているうちについつい感情移入してしまう個性豊かなキャラクターたち。
そして、それらに彩りを添えるのがタイトルにもなっているリボン。作中で登場する浮遊したりまとわりついたりするリボンは、いつかの感情の起伏を現している。

自身の挫折や苦悩が反映されているからこそ、コロナ禍によって破壊された日常が激しくも淡々と紡ぎ出されていて、人によっては観ていられないくらいつらいのではないかと感じるほどリアルだった。

創作あーちすと・のんの魅力:放っておけない惹き付け力

のんが創り手として携わっている作品は、『Ribbon』だけではない。
以前よりプライベートで自主制作の映像作品を創っていたそうだが、2019年にYouTube Japan公式チャンネルにて公開された『おちをつけなんせ』が監督デビュー作品となった。



本作品では監督だけでなく、脚本・衣装・美術・撮影・証明・音楽・編集にまで携わっている。
自身の才能はもちろんのこと、是枝裕和監督や片渕須直監督から脚本の作り方について教えてもらったり、監督・主演経験のある桃井かおりから演出について教えてもらったりと、錚々たる顔ぶれから数多くの助言をいただいているそうだ。

何事も、一人でやり切るには限界がある。
自身の中で芽吹いたアイディアを形にしていくためには、たくさんの人の協力が必要。
が、たとえどんなに天才であっても、「この人だから手を貸したい」と思ってもらえることが何よりも難しいことかもしれない。

まだまだ未熟な点があるにしても、その道のプロをも魅了するのんならではの独創性、また、人間性や才能、言語化できない魅力。
どうやらのんには、誰もが放っておけなくなる惹き付け力があるようだ。


(C)「Ribbon」フィルムパートナーズ

これは、『Ribbon』においても顕著に出ている。

尊敬する監督の一人であり、過去作品を見返しエッセンスを多く取り込んだという岩井俊二監督は予告編の制作を担当。映画全体としても、光の切り取り方や映像全体の淡い透明感など、節々で”岩井俊二ワールド”が取り込まれていることを感じられる。

キャスティングにおいても「信頼のおける方にお願いしたい」という思いが強く、基本的に役者に当て書きをしているそうだ。『おちをつけなんせ』に続いて春木みさよと菅原大輔が両親役、『あまちゃん』で共演した山下リオが親友役で登場しているなど、毎度おなじみなメンバーが顔を揃える。

また、たまたまかもしれないが、『おちをつけなんせ』での蔵下穂波、『私をくいとめて』での橋本愛、そして『Ribbon』での山下リオ。……これは意図したあまちゃんメンバー再集結?気になるところだ。

人との出会いや繋がりを重要視し、類まれなる巻き込み力で作品の可能性をアップデートさせていくのん。
ミステリアスな印象が強い彼女だが、実は究極の無自覚な人たらしなのかもしれない。

女優・のんの魅力:黒々しくも儚い瞳、心地よいこもった声

女優としてののんの印象を劇的に変えた作品が、三つある。

『ホットロード』:透明感満載な不良少女


(C)2014「ホットロード」製作委員会 (C)紡木たく/集英社

のんに対して”透明感の塊”な印象を抱いていた私にとって、『ホットロード』での不良少女な役どころには正直驚いた。『あまちゃん』のイメージもあったから尚更だ。
見た目の透明感はそのままに、物憂げにぼーっとする表情と荒々しい言葉遣い。そのギャップに驚きつつも、のん(当時は能年玲奈)演じる和希の家庭環境を知ればそうなる理由は明らかだ。

『この世界の片隅に』:すずはのん以外に考えられない

実は、のんの芝居を見ている中で、こもった声がずっと気になっていた。
違和感があるわけでも、聞き取りづらいわけでもない。ただただ、少しこもって聞こえる。良くも悪くもないという感じ。
だからこそ、『この世界の片隅に』でのんが主役・北條すずを演じると耳にしたときは若干の不安があった。
が、『この世界の片隅に』を観てみると、いや聴いてみると、彼女のこもった声があまりにも心地よく耳に入ってくる。「すずはのん以外に考えられない」と断言できるまでにだ。

『私をくいとめて』:大人になったのん、新たな魅力が爆発


(C)2020「私をくいとめて」製作委員会

実年齢は28歳とはいえ、その童顔さからか、ピュアさからなのか、のんに対してアラサーのイメージが持てずにいた。
にもかかわらず、『私をくいとめて』”31歳、おひとりさま”というこじらせアラサーOLを好演。10代の頃から見た目が変わらなさすぎてやはり同世代とは思えなかったが、のん自身が持つミステリアスさとおひとりさまキャラが見事に融合。独特な"大九明子ワールド"に驚くほどマッチしていた。

それぞれ印象はまったく異なるものの、どの作品にも共通している、女優・のんの魅力。
それは、黒々しくも儚い瞳と、心地よいこもった声にある。


(C)2014「ホットロード」製作委員会 (C)紡木たく/集英社

見よ、この瞳の吸引力。
くりっと大きな黒目がうるうるキラキラと、見るものすべてを引き付ける。こんな瞳で見つめられたら何も言えなくなってしまいそうだ。

声については、とにかく『この世界の片隅に』を観ていただきたい。観たことがある方は、何も言わなくとも完全同意してくれているはずだから。

表現者・のんの止まらない才能


(C)「Ribbon」フィルムパートナーズ

才能というと、「生まれ持ったもの」と解釈しがちかもしれないが、そういうわけではない。
才能とは、ある個人の素質や訓練によって発揮される、物事をなしとげる力のこと。ここにのんを当てはめててみると、スルッとハマる。

のんが持つ独創的な世界観に女優として培った経験が合わさり、創造するためにあらゆる人を巻き込み実現する。恐ろしいほどに才能に溢れた人物だ。

今後、女優として、創作あーちすととして、どんどん活動の幅を広げていくことだろう。5年、10年後には、是枝裕和監督や岩井俊二監督に並ぶ名監督になっているかもしれない。

(文:桐本絵梨花)

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