俳優・映画人コラム

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2022年09月03日

松岡茉優の無双の演技力:「初恋の悪魔」摘木星砂の“二面性”から紐解く

松岡茉優の無双の演技力:「初恋の悪魔」摘木星砂の“二面性”から紐解く



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今クール、ドラマファンの間で話題をかっさらっている「初恋の悪魔」

なんたって、「東京ラブストーリー」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「カルテット」「大豆田とわ子と三人の元夫」など、いつどの時代にも胸に残る物語を送り続ける坂元裕二の完全書き下ろし作品なのだから、注目されないわけがない。

林遣都、仲野太賀、柄本佑、伊藤英明、安田顕、田中裕子、佐久間由衣、毎熊克哉……演技派中の演技派が揃う中でも、異色の存在感を放っているのが松岡茉優だ。

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誰もが心揺さぶられる、激震の表現力


(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会

松岡茉優
といえば、思わず見入ってしまう卓越した演技力が特徴的だ。

映画『桐島、部活やめるってよ』での“THE イヤな女”な印象は鮮烈だったし、ドラマ「問題のあるレストラン」では坂元裕二が松岡茉優の魅力を確実に引き出した。

映画『勝手にふるえてろ』でのぶっ飛び具合には度肝を抜かれ「松岡茉優、かわいい顔してやるじゃん」と謎に上から目線になってしまったし、映画『万引き家族』での体当たりな演技にお茶の間も驚かされただろう。


(C)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

映画『蜜蜂と遠雷』はハマり役すぎるほどに至極天才な優等生だったし、映画『劇場』での純朴さとひたむきさからにじみ出る孤独感に涙した。

ドラマ「生きるとか死ぬとか父親とか」では吉田羊演じるトキコの若き頃を堅実に演じ、映画『騙し絵の牙』でのヒロインとしての安定感は記憶に新しい。


(C)2020「騙し絵の牙」製作委員会

松岡茉優の演技を見ていると、無意識の内に彼女が演じる役に憑依してしまう。

喜怒哀楽、一喜一憂。

感情がジェットコースターのように浮き沈みし、鑑賞後はどっと疲れが残る。まるで舞台を見ているかのような生々しさを与えてくれる激震の表現力に、心揺さぶられない人はいないだろう。

松岡茉優だからこその、摘木星砂の“二面性”



「先が読めない時代に、先の読めない物語を。」
ーーこのキャッチコピーの謎を深める存在、摘木星砂

スカジャンスタイルから漂う男勝りな雰囲気に相反する、目が合った男全員をたぶらかすかのような危うさ。買った記憶のないハイヒール、バナナのシールがたくさん貼られたスマホ、肉じゃがとコロッケ、嫌いなはずのトマト……物語の序盤から匂わせていた“ヘビ女”の存在が、話数を重ねるごとに明るみに出る。

衝撃の事実を知るとともに、私たちは一体どれだけ松岡茉優の無双の演技力に翻弄されていくのだろうか。

“摘木星砂”と“摘木星砂”の軌跡



どちらかというと“あざとい”印象が強かった松岡茉優。「初恋の悪魔」での摘木星砂という役柄は、チャレンジングなように思える。

だが、その先入観は第一話での登場から一気に覆された。必要以上に男勝りな振る舞い、人のポテトチップスを奪っては手づかみでむしゃむしゃと貪る……。

ちょっと新鮮、でもこういう松岡茉優もアリ。いいじゃん、摘木星砂



“ヘビ女”の匂わせにより最初から怪しい匂いがプンプンしていた星砂について、まずは第3話でのヘビ女の登場シーンに思わず唸らせられた。

悠日(仲野太賀)と酒を嗜んでいる最中、嫌いなはずのトマトを口にする星砂。悠日はもちろんのこと、視聴者一同違和感を覚えたはずだ。

その瞬間、なにかにとり憑かれたかのように人格が変わる。

「あなた…誰?」

居酒屋の喧騒に「やだぁ…ここうるさい…」と怯え、裸足のまま逃げ出す姿には、1ミリも“摘木星砂”の要素はなかった。服装や化粧等で見た目を変えることによって同一人物でも別人格を表現することは安易だが、完全に”摘木星砂”な状態からのあれほどまでの一変には「参りました」の一言に尽きる。



続いて、第6話。これは紛れもなく星砂回だった。

冒頭からすっかり“ヘビ女”ワールド。無意識に鹿浜鈴之介(林遣都)を惑わす、とんでもないあざとさ。

ファッションこそいつものカジュアルな星砂スタイルだが、ぐっと開いた襟ぐりから除くブラ紐がなんともセクシーに見える。洗練された女性らしい仕草や相手のすべてを見透かしているかのような表情、“摘木星砂”からは想像もつかない。

「鹿浜鈴之介さんは、素敵な人だなぁって思ったので」

天使のような微笑みのあとにこんなことを言われたら、誰だって惚れるに決まっている。

家出をして一文無しで東京に出てきたこと、崖っぷちな星砂を救ってくれたリサ(満島ひかり)のこと、奇妙な共同生活がはじまったこと、家族という言葉の意味を知ったこと、あっという間に引き裂かれてしまったこと、そして突然、記憶が失くなったことーー星砂の衝撃の過去が明かされていく。

男勝りな摘木星砂、あざとい摘木星砂、一体どちらが本当の摘木星砂なのか。

「それってどっちかが消えるってことでしょ。こっちが消えたくないのと、あっちだって消えたくないだろうし」

この台詞の通り、決してヘビ女が悪というわけではない。最初はヘビ女が現れるたびに「星砂、はやく元に戻ってくれ」と念じていたが、どちらの摘木星砂にも生命が宿っているわけで、どんどんどんどん2人の星砂ともに愛おしく感じるようになってきている。

この感覚は、松岡茉優のずば抜けた憑依力による、完璧すぎる二面性あってこそなのである。


摘木星砂の記憶に隠された真実が判明したとき、私たちは正気でいられるのだろうか。

(文:桐本絵梨花)

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