インタビュー

2018年01月05日

「映画作りも結局“嘘八百”と思えた」『嘘八百』武正晴監督インタビュー

「映画作りも結局“嘘八百”と思えた」『嘘八百』武正晴監督インタビュー



──では、監督自身がお好きな食べ物を、映画の中に入れてみるなんていうことも?

武:バウムクーヘンは大好きです。夢の食べ物で、あれをまるまる一個食べるのが僕の一つの夢でした。一人暮らしをしたときに、あれを一個食べていいということになった瞬間は、本当に夢が叶った感じがしましたね。




──ひとりであれを全部食べきるのは大変そうですが…食べられましたか?

武:食べたと思います。家族と分けないで、あれを独り占めで食べるというのがよかったんです。

『嘘八百』でバウムクーヘンを食べるシーンでは、森川葵さんが細かい芝居をしているんですよ。編集をしているときに気がついて、「ああ、いろいろ考えているんだな」と思いました。

人間の在り方ということでもっというと、本当はメシを食ってウンコをするところまで描きたいんですけれど、なかなかその機会がないんです。人間が生きているということは、結局その二つだけなんですよね。

メシを食うときと、その次の日の朝、トイレできれいなものが出るとき、生きているなという感じがするというか。みんながやっていることで、それで一喜一憂しているじゃないですか。それをいつかやりたいんです。

なので、映画を作っていていつも思うのは、メシを食う場面と便所かな。でも、なかなか便所を描けなくて(笑)、僕の今の課題はそこなんですよね。

「映画を作ると、社会とつながれる」





──『嘘八百』は、『百円の恋』に続く監督と足立紳さんによるタッグ作品ですが、『百円の恋』とはかなり作風が違うようにも見えたのですが?

武:『百円の恋』のころは、僕ら人生をかけていましたから。崖っぷちにいて「これがだめならもうだめだろう」というところだった。『百円の恋』のときは、それこそ足立さんの生きるか死ぬかが出たんじゃないかと思います。

『嘘八百』は、『百円の恋』があったおかげでいただいたお仕事で、崖ではなかったので、そこの感じは違っていましたね。もう少し気を楽にして作ることができました。誰からも望まれていない仕事と、求められた仕事というところでの差は大きいと思います。

──本作は、タイトルどおり大人たちが嘘と騙し合いで勝負していく物語ですが、監督自身、この作品を撮ってみて“嘘”ということに対してどうお考えでしょうか?

武:「本当のことなんて、普通人間は話さないんじゃないかな」というのがずっとあったんです。まず、映画作りが全部嘘で、僕らはずっと嘘を作り続けているわけですから。それがリアルだとか、リアルじゃないとか怒られるわけですけれど(笑)。

でも、“嘘”というのは、昔の人が作ってくれたいい言葉だと思いますね。モラルみたいなものを確認してくれる言葉で「いい嘘をつこう」「これだと悪い嘘になるな」と考えさせられる。

人は無意識に嘘をついてしまったり、どこかで本当のことをねじまげてしゃべっていることもあるし、場合によっては、人と人とが出会ったときも「本当にその人なのかな」と調べてみないとわからないこともある。




ただ、嘘だとしてもよい嘘ならばその人たちにとっていい関係になっていくわけで、結局は人間らしさというか、「嘘八百」とか「嘘も方便」とかいろいろな言葉がありますが、そこに人を騙す悪意が込められるとそれはまた違う言葉になるので、いい嘘をつけるのであればいいのかなとは思います。

作っていて面白いなと思ったのは、「映画作りも結局、“嘘八百”じゃん」と思えたこと。本当の詐欺師にならなきゃいいんだ、楽しい嘘をついて人を面白がらせてあげられたらいい仕事なのかなと、すごく楽になれましたね。

──本作は、2018年お正月公開ですが、監督ご自身、2018年をどのような年にしたいと思っていらっしゃいますか?

武:映画が作り続けられたらいいですね。映画一本作るのも厳しい世の中ですが、何か少しでも人が楽しめる、役に立てる作品が作れたらいいなと思っています。ただ、それは来年ということではなく、自分の命が続く限りやりたいと思っていることです。

映画作りって、一年単位とか来年はどうこうということでなく、ずっと継続している感じがしているんですよ。なので、できるなら年が変わらないでほしいなと思っているくらい、時間が足りない。でも、いろいろといただいているお話もありますし、足立さんと一緒に作った脚本も何本かまだあるので、それらをなんとか成就させていきたいという思いもあります。




──2018年の個人的な目標などはありますか?

武:いや、もう映画を作るだけです。それ以外何もないですね。それがないと、きっと僕は生きていけないんですよ。社会では全く通用しないので。映画を作っていると、まだ生存できるので、自分自身がこの社会で生きのびるためにも「映画を作らないと」と追い込められている感じがしています。

──映画作りにおいて、監督がいちばん好きなのは、どんなところでしょうか?

武:社会とつながれるところですね。僕はどこにも所属していないので普段社会とあまりつながっていないんですけれど、映画を作るときだけは、他の人たちや社会や親のことを思ったり、昔の自分の記憶をたどったりしていく。普段はまったくそうしたことから外れているので、映画作りのときに自分自身と社会のつながりができるのがすごくいいのかなと思っていて、だから必死です(笑)。

あと、もうひとつは、ひとりじゃなくなる、他人と関われること。それが映画作りのいいところです。

──ありがとうございました。

映画『嘘八百』は、2018年1月5日(金)より、全国ロードショーです。

(取材・文:田下愛)

(C)2018「嘘八百」製作委員会

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!