『リバーズ・エッジ 』が描く、青春の“窮屈さ”とは
予想を裏切られた『リバーズ・エッジ』実写化
(C)2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社
2018年2月16日(金)公開の映画『リバーズ・エッジ 』。ストライク世代ではないけれど、筆者も岡崎京子による原作を手に取ったことがあり、公開を心待ちにしていたひとりです。
とはいえ、あの華奢な人間離れした2次元ならではのデッサンが生み出しているであろう、独特の空気を実写化で表現できるのか…。誰が演じる、とかではなく、肉がつき、血の通った人間が、あの世界観を表現できるものなのかという不安があったというのも正直な気持ちです。
(C)2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社
でも、実際に観てみると、二階堂ふみちゃんはハルナに、吉沢亮くんは山田にしか見えなくなって、いい意味で予想を裏切られました。
それぞれ漫画とは髪色も(おそらく)違うし、決して生き写しのような姿ではないのに、例えば吉沢くんの気だるげなへの字の口元なんかが、山田そのもののように見えてきて、どんどん作品の世界に引き込まれていきます。
(C)2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社
上杉柊平くん演じる、暴君の観音崎くんのやるせなさや、土居志央梨ちゃん演じるルミちゃんの切なさも、映画という決まった尺のなかでしっかり描かれていて、自分が過ごした青春以上の痛さを、自分のもののように感じることができました。
そして、これだけのキャストが揃っていながら、原作における表現から逃げずに描いているところが本当にすごい…! 多分、誤魔化そうと思えばやりようはそれなりにあったと思います。
でも、それをせず、ちゃんと向き合っているところに、原作に対するリスペクトと原作ファンに対する誠実さを感じずにはいられません。そこからも、これまで漫画原作を手がけてこなかった行定勲監督が、いかに惚れ込んだ作品なのかということが伝わってきます。
(C)2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社
見終わったあとは作品のパワーに圧倒されていましたが、改めて映画の登場人物たちのことを思い返すと、なんだか泣きそうな気持ちになります。そのくらい、リアルさを感じました。
田舎には田舎の、都会には都会の“窮屈”がある
(C)2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社
『リバーズ・エッジ』が描くのは高校生だけれど、派閥もないくらい平和な高校に進学した筆者が思い出したのは、ひとつ上の学年が荒れていた中学時代のことです(筆者の学年は、他人事のようにとっても平和でした)。
一瞬一瞬の楽しさはあっても、それは息継ぎのようなもので、根本的には生きていくことはつらいこと、だからといって死ぬほどの絶望もない、と冷めていたあのころ。振り返ると、世間を知らなかったというひと言に尽きるのかもしれないけれど、これがこの映画のいう“窮屈”に共感し、惹かれた部分のように思います。
かつて平日昼の人気番組だった『笑っていいとも!』が16時から放送されるような片田舎に育ち、こんな場所を早く出ていきたいとばかり思っていた10代。電車は1時間に1本、ご近所には顔だけでどこそこの娘とわかるし、学校をサボって遊ぶなんてもってのほか。平日の昼間に制服姿で補導される、そんなドラマのワンシーンの意味すらわからなかった筆者。
なんでもある都会と比べて、不自由しかない土地で過ごすことが“窮屈”なのだと感じていました。でも、漫画を読んだ当時はわからなかったけれど、今回映画を観て感じたことは、田舎には田舎の、都会には都会の“窮屈”があるということです。
(C)2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社
田舎に暮らす者にとって“ここではないどこか”は都会でこと足りたし、それがある種の希望だったと思うけれど、都会に暮らす同世代の人たちはどうだったのだろうか、と考えます。“ここではないどこか”の想像がつかないことのほうが、もっと不自由で窮屈なのかもしれない、と。すると“ここではないどこか”に魂がいる死体や、“ここではないどこか”からやってくるUFOに思いを馳せることも不思議ではないと、少し、彼らの気持ちに共感できるような気がするのです。
この解釈が正しいかどうかはわからないですが、受け取り手によって、いろいろなことを感じ、それぞれ考えさせられる作品であることは確かです。
(C)2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社
今作は90年代の香りを漂わせながらも、時代設定を明確にはしていません。それも作用して、少し世代の違う筆者にも響いたのだと思いますし、それ以外の世代の人の心にも共感のかけらを残すはず。そして、携帯すら登場しないこの映画に、特にSNS世代が何を感じるのか、個人的にはとても興味深く思います。
(文:大谷和美)
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