映画コラム
『グレイテスト・ショーマン』は差別と偏見を描くミュージカル版『X-MEN』!
『グレイテスト・ショーマン』は差別と偏見を描くミュージカル版『X-MEN』!
(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
昨年公開されて話題となったミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』。その製作チームによる話題の新作映画『グレイテスト・ショーマン』が、16日より全国でロードショー公開された。予告編の映像だけでもその迫力と楽曲の凄さに圧倒される本作を、今回はさっそく初日の最終回で鑑賞してきたのだが、果たしてその出来はどうだったのか?
ストーリー
19世紀半ばのアメリカ。妻(ミシェル・ウィリアムズ)の幸せを願い、挑戦と失敗を繰り返してきたPT・バーナム(ヒュー・ジャックマン)は、独創的なショーをヒットさせ、遂に成功をつかむ。しかし彼の型破りなショーには根強い反対はの人々がいた。成功をつかんでも社会に認めてもらえない状況に頭を悩ませるバーナムだったが、若き相棒のフィリップ(ザック・エフロン)の協力でイギリスのヴィクトリア女王に謁見するチャンスを手にするのだが・・・。
(公式サイトより)
予告編
オープニングから既に大興奮の本作。
楽曲とダンスのすばらしさは必見!
予告編での印象から、きっと凄い作品に違いないとは思っていたが、いやこれは予想以上の出来だった!
実はスクリーンに映画会社のタイトルが出てすぐ、我々観客のテンションは一気に上がることになる。そう、何故なら予告編で印象的だったあの曲、あのシーンが、いきなりスクリーンに登場するからだ。とにかく覚えやすく、鑑賞後には必ずサントラCDが欲しくなる楽曲たちと、キレキレのダンスは実に見事!
この出し惜しみ無しの大サービスだけでも既に大満足なのだが、その後の展開は観客を更なる興奮に巻き込んでいく。
登場人物たちの感情の高まりにより、自然と心の声が歌となって溢れ出し体も動き出す!このミュージカルの基本中の基本を押さえているので、ミュージカルシーンでのスクリーンと観客の一体感は正にライブ会場並みの本作。この興奮を味わうためにも、DVD化を待たずに今すぐ劇場へ!
(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
単なる感動作じゃない、実は現代にも通じる重要なテーマを扱う作品だった!
予告編や宣伝の印象から、ショービジネスでの成功と挫折や、家族愛を描くミュージカルだと思って観に行かれた方も多いはずの本作。だが、実は予告編ではあまり目立たなかったある要素が、この映画では重要なテーマとなっている。
そう、本作の中心となるのはその他人と違う外見のために、ずっと社会から阻害され陰に追いやられてきた人々の戦いの物語なのだ。その不屈の精神や、周囲からの偏見・差別に立ち向かう姿は、主演のヒュー・ジャックマンと合わせて正に「Xメン」を思い出させる程。
映画の中の言葉を借りれば、こうした「ユニークな人々」への差別や偏見と、彼らの内面の強さや自尊心の芽生えが、本作ではバーナムの人生と平行して描かれることになる。
本作の主人公バーナムは、実は実在の興行師。地上最大のショウの宣伝文句でも有名な「バーナム・アンド・ベイリー・サーカス」の設立者としても知られる人物だ。そのため予告編の印象から、ミュージカルの舞台監督や振り付け師の物語と思っていた方には、かなり予想と違う展開が待っていることになる。
何故なら、本作で描かれるのはサーカスの世界だからだ。それもメインの曲芸や猛獣使いの部分よりも、むしろ客寄せのための見せ物小屋の部分、俗に言うサイド・ショウの出演者たちとバーナムとの関係が大きな比重を占めているのだ。
実際自分も、予告編に断片的に含まれていた「ユニークな人々」の映像に、これは単なる踊りや歌がメインの映画ではなく、きっと差別や偏見を描く内容なのでは?そう思って鑑賞に臨んだのだが、正直ここまで彼らの存在がメインになっているとは、全く想像していなかった。
最近のテレビのバラエティ番組での自粛傾向を考えれば、確かに現在ハリウッドの大作でこの題材を扱うことは、非常にリスクが大きいと言える。もちろんその表現や呼称に関してはかなり考えられており、例えばアジア人のシャム双生児に関しては全く本編中では説明が無いなど、かなり観客に配慮して製作されていることが分かる。
だが、本作が本当にすばらしいのは、こうした「ユニークな人々」を安易に泣かせや感動のための道具として扱わないことにより、この映画を単なる感動作以上の内容にしている点だ。
(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
幼少時に父親を亡くし、貧困と空腹の中で路上生活をしていたバーナム。人々が皆自身の生活に手一杯で、他人のことなど気にかけていられなかったこの厳しい時代に、路上で震えているバーナムに1個のリンゴをくれたのが、名も知らぬある「ユニークな女性」だったことが、映画の冒頭で描かれる。
このシーンで観客は、この時バーナムが見かけでは判断出来ない人間の優しさに触れて、彼らの生活と地位の向上のためにショーへの起用を決意させたと思うのだが・・・。ところが、本作ではそんな綺麗ごとでは終わらせていないのだ。
その後、成長したバーナムは初恋の女性と結婚。妻と娘二人の最愛の家族を得たバーナムが生活のために買収したのが、世界の不思議や珍品を集めた博物館(日本人の感覚的には秘宝館?)。だが、ただでさえ余裕のない不況の時代に、博物館への入場者は思った様には増えてはくれない。
そんなある夜、娘たちが言ったあるアイディアが、バーナムに「ユニークな人々」を出演させるショーの上演を決意させる。この部分は例のリンゴが登場するなど、前述した少年時代の思い出も動機の一つとして描かれてはいるのだが、実は彼の本当の狙いが単なる人助けや善意からでは無く、動く展示品として彼らを利用する目的だった点もちゃんと描かれているのが凄い!
更に、ショーの出演者との面接で美辞麗句を並べ立てて勧誘しておきながら、いざ上流階級との繋がりが出来た途端に彼らを冷たくあしらうなど、バーナムを決して高潔な善人として描いていないからこそ、後半彼が挫折してからの成長ぶりに説得力が生まれることになるのだ。
彼らの才能や可能性を一種の商品価値として認めていたバーナムが、実は彼らを自分と同等には見ていなかったことが判明する描写と合わせて、実在の興行師だったバーナムの人間的側面を美化することなく、しかも下手にヒューマニズムに流されずに描く姿勢も、本作を単なる感動作に終わらせていない要因の一つだと言える。
(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
夢と成功を追い続けたバーナムを通して、本作が伝えたかったものとは?
この様に、一見善良で良き家庭人の様に見えながら、実は名声欲と自身の生まれに対するコンプレックスに囚われている、複雑な内面を持つバーナム。
貧しい仕立て屋の息子である彼は、その生まれのために数々の差別と偏見の目に晒されてきた。つらい日々の中で、彼の唯一の財産である自由な発想と行動力が、やがて彼に富と名声への切符をもたらすが、実はそこでも差別と偏見が彼を苦しめる。そう、心無い批評家からのニセモノ・下品との容赦ない酷評や、町の人々からのショーの内容に対する抗議デモがそれだ。
確かに本編のセリフにも出て来る様に、バーナムのショーを見て劇場を後にする観客たちの顔は、皆喜びに溢れている。ところが同じ町の人々の中にも、彼のショーの出演者を快く思わない者たちがいて、やがて衝突から悲劇的な結果を迎えることになってしまう。
それでは、同じ町の人々でありながらこの賛否の差はどこから来るのだろうか?実はその原因は、人々の生活と心の余裕にあるのだ。貧富や階級による格差が大きく、経済的にも厳しかったこの時代において、やはりショーを見に来られるのは定職に付き生活に多少なりとも余裕のある人々だ。一方ショーの出演者に批判的なのは、見るからに日々の生活にも困っている様な身なりの人々。彼らには、今まで自分たちよりも下だと思っていた「ユニークな人々」が脚光を浴びて、表舞台で注目を集めているのが許せないのだ。なぜなら、自分たちが見下していた存在が自分たちよりも活き活きと輝いている光景は、確かに一部の人々にとっては嫉妬や憎しみを呼び起こす物となりかねないからだ。
そう、他人と異なる外見を持つ人々の強さと同時に本作が伝えたかった物とは、、我々が持っている偏見や差別といった意識を変えなければ、様々な人種が集まって平和に暮らせる世の中は来ない、というメッセージに他ならないのだ。
自身の成功のために「ユニークな人々」を利用しながら、彼らを恥ずかしい存在として上流階級の人々の前から隠したバーナムの行為に傷付けられ、それでも自身の誇りや自尊心を忘れないと心に誓って彼らが歌う主題歌「This Is Me」は、文字通り観客の心を鷲掴みにする名シーンとなっているので、お見逃し無く!
(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
最後に
いきなり冒頭から豪華な衣装セットと華麗な踊り、そしてすばらしい楽曲が予告編の印象そのままに展開する本作。
ところが、その夢の世界が展開する中で描かれるのは、あまりに重く現実的な人生の物語だった。
人間は生まれつき与えられた環境や他人との外見の違いで、永遠に評価されなければならないのか?それを覆す程の成功と名声を得ても、呪いの様に過去はついてまわるのか?
他人と違う外見への差別や偏見により、自身の身を隠して生きてきた「ユニークな人々」は、バーナムの勧誘によりそれまでの消極的な行動を変える決意をすることになる。だが、彼らのショーを見た観客の嬉しそうな顔が証明する様に、実は彼らが変えたのは自身の生き方だけでは無く、周囲の人々の意識なのだ。彼らが偏見や差別に立ち向かう姿が、最終的にバーナムに失いかけていた家族の絆と大切な物を取り戻させることになる。
「最も崇高な芸術は人を幸せにすること」とは、本作のエンディングで紹介されるバーナムの言葉だが、幾多の失敗と挫折を経て辿り着いたこの言葉の持つ意味は非常に重い。自分が本当に喜ばせたかった人とはいったい誰だったのか?その大事なことに気が付いたバーナムのラストの行動こそ、正に彼の成長の証だと言えるだろう。
観客の心を動かす傑作ミュージカルでありながら、目に見える物や手に取れる物以上に大事な存在を教えてくれる本作。絶対に期待を裏切らない作品として、全力でオススメします!
(文:滝口アキラ)
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