映画コラム

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2018年02月27日

『リバーズ・エッジ』は傑作!『仮面ライダー・フォーゼ』から究極の進化を遂げた吉沢亮を見よ!

『リバーズ・エッジ』は傑作!『仮面ライダー・フォーゼ』から究極の進化を遂げた吉沢亮を見よ!



(C)2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社



あの岡崎京子の傑作コミック『リバーズ・エッジ』が、行定勲監督の手によって映画化される!
このニュースだけで、もはや期待するしかない本作を、今回は公開二日目の最終回で鑑賞してきた。
その衝撃的な内容を、果たして現代の日本でどう表現するのか?期待と不安半々で鑑賞に臨んだ本作だが、果たしてその出来と内容はどうだったのか?

ストーリー


若草ハルナ(二階堂ふみ)は、彼氏の観音崎(上杉柊平)が苛める山田(吉沢亮)を助けたことをきっかけに、夜の河原へ誘われ放置された<死体>を目にする。
「これを見ると勇気が出るんだ」と言う山田に絶句するハルナ。

さらに、宝物として死体の存在を共有しているという後輩でモデルの吉川こずえ(SUMIRE)が現れ、3人は決して恋愛には発展しない特異な友情で結ばれていく。

そんなある日、ハルナは新しい死体を見つけたという報せを、山田から受ける…。


予告編


賛否両論を呼んだ本作のある仕掛け。この脚色が伝えたかった物とは?


本作には多くの絶賛評が寄せられているが、その反面強い否定的意見が見られるのも事実だ。中でも目立ったのが、「時折挿入されるインタビュー映像の意味が不明」との意見。

そう、実は本作の最大の特色は、主要登場人物が一人ずつ第三者からのインタビューに答える映像が、随所に挿入されるという独自のアレンジにあるのだ。実際最初は自分も、この映像は誰に対して答えていて、これがどう物語の展開に関わって来るのか?と思いながら見ていた。

実は本作の登場人物たちが生きているのは、自分が主人公になれない世界。人生の主役にもなれず、単なる観客=傍観者でいるしかない若者たちの姿は、誰もが手軽に情報発信出来て、一夜にして世界の注目を集める可能性さえある現在の状態からは、あまりに孤独で先が見えない様に思える。

この点を考慮すれば、何故彼らがインタビューされる映像が挿入されるのか?という疑問の答えになるだろう。

実はあの映像こそ、自分が主役となって他者から関心を得ている状態に他ならない。しかも自身の内面を飾ることなく吐露している彼らの姿は、心底リラックスしている様に見える。そう、あのインタビュー映像こそは、彼らの承認欲求が満たされた理想の瞬間なのだ。

だが、ある登場人物がインタビューに答えるシーンで、好きな人に告白して今付き合っていることを嬉々として答えるのだが、インタビュアーの「今までで一番幸せだったと思うことは?」の問いに答えられず絶句するという描写は、登場人物たちの抱える心の闇と絶望的な孤独を観客に感じさせる。

そう、本作を通して描かれるのは、徹底して稀薄な人間同士の関係性。友達やクラスメイトだったり、男女で付き合っていて体の関係があっても、お互いのことを外見や自分の印象で判断し、決して深く交わろうとしない若者たちの姿だ。

実は人間とは、他人との関係性の中で初めて自分という存在を確認する生き物。本作の様に目に見えない情報の波に飲み込まれ、他人との関係性も希薄な世界では、自分が生きているという実感が得られずにいるのも、無理のない話だろう。

そのあまりに孤独で、日々流されながら生きている様子は、実際映画の中でも釣りをする二人組が根拠の無い噂をすぐ信じたり、親から又聞きした話が広まってクラス中が大金探しに行くという描写にも良く現れている。

中でも本作で観客に強烈な印象を残すのは、何といっても映画の終盤で見せる山田のあの表情だ。新しい死体に対してあれほど無感情だった山田が、何故カンナを見てあの表情になったのか?

それは、彼女がそれほどまでに山田を愛していた(むしろ執着とも言える)と分かったことで、自分が生きているという実感を得たからに他ならない。人から好意を持たれるということは、相手にとって自分が大切な存在であると認められること。そこに自己肯定と自尊心が生まれ、初めて人は自分の存在理由を見いだすことが出来る。だが、残念ながら最愛の人を傍観者として遠くから見つめるしかない山田には、この幸せは永遠に手に入れることは出来ないのだ。だからその代償として、好意を持って告白してきたカンナと交際することにしたのではないだろうか?



(C)2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社



役と一体化した出演キャストの演技に圧倒される本作!


本作の魅力の一つ、それは出演キャストが更なるステージへと登ろうとする瞬間に立ち会える喜びにある。本作で主人公の山田を演じた、吉沢亮が正にそれだ。特に映画の終盤で見せる彼の奇跡の表情は、それまでの無表情だった山田からは想像出来ないものであり、この表情だけでも劇場に今すぐ駆けつける価値があると断言する!『仮面ライダー・フォーゼ』でメテオを演じていた彼を毎週見ていた者として、この成長ぶりには遂に菅田将暉と並んだ!と思わずにはいられなかった。

もちろん、その他のキャスト陣もすばらしいのだが、中でも摂食障害を持つモデルのこずえを演じるSUMIREの強烈な個性と存在感は必見!正直言って二階堂ふみが「ああ、演技してるな」と思えてしまう程、SUMIREと役の間には違和感が無いのだ。これは主演の吉沢亮にも言えることなのだが、演じる役を役者が完全に自分の物として同化すると、映画はこれ程に観客の心に届くのか!そう教えてくれたことは、我々観客にとって何よりの収穫だと言えるだろう。激しすぎる濡れ場シーンも含めて、出演キャストのすばらしい演技が見ものの本作、全力でオススメします!



(C)2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社




最後に


死体を見ることで、自身が生きているという実感を得る主人公たちの姿。そこには他者との関係性や比較で自身の存在を実感出来るという人間の本質と、その他者との関係性が得られない主人公たちの孤独が表現されている。他者との関係が築けない彼らは、いつしかその代償として肉体的な苦痛、食欲や性欲そして死によって、自身の生を確認する様になっていく。

「死体を見て勇気が出る」とは、単に自分は生きているという優越感によるものではなく、むしろ自分の運の良さにほっとする、そんな感覚に近いのではないか。
他人の死によって自身の生きている幸運を感じ、一歩間違えば自分も・・・、というスリルの中で生を実感する登場人物たちの日常。それこそは正にロシアンルーレットの様だと言える。

今続いているこの出口の見えない綱渡りの日々も、この死体の様に終わる時が来る。ゴールが見えるからこそ、苦しいマラソンレースにも耐えることが出来るのだ。
この様に、岡崎京子が描く学校生活や日常という「戦場」で生き抜く若者たちの姿を、スクリーンに見事に再現している本作。
果たして貴方はどの様な感想をお持ちになるだろうか?

(文:滝口アキラ)

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