性犯罪被害者のトラウマを赤裸々に描き出す『私は絶対許さない』
こんにちは、八雲ふみねです。 今回ご紹介するのは、現在公開中の『私は絶対許さない』。 性犯罪被害者の姿を描いた社会派ドラマです。
八雲ふみねの What a Fantastics! ~映画にまつわるアレコレ~ vol.151
東北地方の田舎でごく普通に暮らしていた中学3年生の葉子。しかし年末に若い男たちにレイプされたことがきっかけで、彼女の日常は一変する。
元旦に全身傷だらけで帰宅した葉子を待ち受けていたのは、冷たく突き放す家族と親戚の姿、そして学校でのイジメ。彼女は男たちに報復することを決意し、援助交際で金を稼いで、高校を卒業するとともに上京。
すぐに全身整形を施し昼間は真面目な学生、夜は学費や生活費を稼ぐために風俗で働き始める…。
雪村葉子による衝撃の手記を完全映画化!
15歳で集団レイプの被害に遭い、加害者たちへの復讐だけを胸に生きてきた雪村葉子の手記を映画化した『私は絶対許さない』。
主人公がレイプによって心身ともに傷つき、その後の人生に大きな変化を余儀なくされていく様子に焦点を当てた衝撃作です。
メガホンを取ったのは、精神科医でもある和田秀樹監督。性暴力や性被害を扱った映画は数多くあれど、日本でのトラウマの描き方は一辺倒だと以前から感じていたという和田監督。
トラウマとはPTSDの症状で苦しんだり多重人格になったり...ということだけではなく、もっとも重要なのは生きているうえでの時間の連続性が断ち切られ、価値観やパーソナリティの変容を起こすこと。そうした自我の変化を雪村さんの手記を通じて赤裸々に描いています。被害者である主人公の目線で撮影する“完全主観撮影”を多用することで、よりリアルに、レイプシーンの生々しさや被害者の心理を映し出しています。
スクリーンには性被害に遭っている被害者の視線の先にあるものが写り続け、その映像は同性から見ると恐怖を覚えるほど。ドキュメンタリーを超えた衝撃で、観る者に主人公の体験を追体験させます。
壮絶な人生を送る主人公を熱演する2人の女優たち
主人公の葉子役を熱演するのは、2人の女優。整形して風俗嬢として働きながら看護師を目指す上京後の葉子役を平塚千瑛が、東北で暮らす学生時代の葉子役を西川可奈子が、体当たりの演技を見せています。“完全主観撮影”という撮影方法の特質上、主演とはいえ、ハードなシーンほど彼女たちの顔はほとんど映りません。
それでも芝居にかける熱量がスクリーン全体から伝わってきます。
ほか美保純、友川カズキ、隆大介、佐野史郎らが脇をがっちりと固め、作品世界をよりリアルに築き上げています。
また本作は、インドで開催された第5回ノイダ国際映画祭で審査員特別賞を受賞。さらに5月に開催されるフランス・ニース国際映画祭では最優秀外国語映画賞、監督賞、脚本賞、音楽賞にノミネートされるほか、ドイツ・ハンブルグ映画祭での正式出品も決定。世界各国の映画祭から注目を集めています。
性犯罪をテーマとした映画でありながら、暴力そのものの是非と問う本作。最近では、パワハラやセクハラなども社会問題としてクローズアップされる機会が増えています。それと同時に、被害者の心理的ケアの重要性や直面する問題についても、まだまだ知るべきことがあるのも事実。
本作はそうした“現実”を知り、向き合うきっかけになり得る作品とも言えるのではないでしょうか。
満員御礼、さらには立ち見も…。熱気あふれる初日舞台挨拶
映画の公開を記念した初日舞台挨拶には、キャストの平塚千瑛、西川可奈子、友川カズキ、隆大介、佐野史郎、主題歌を担当した出口陽、和田秀樹監督が登壇。
八雲ふみねが司会を務めました。
立ち見で溢れかえるほど満員のお客様に向けて「この映画をきっかけに、性犯罪について考える機会を持っていただけたら」と語りかける登壇者の皆さん。
そんな中、話題が本作の特徴である“完全主観撮影”に及んだ時のこと。主人公に厳しく当たる父親役で白熱の演技を見せる友川さんが「“完全主観撮影”という撮影方法について、今日知りました!」と認識がなかったことを打ち明け、これには場内は大爆笑。
重いテーマの作品だけに、お客様も固唾を飲んで見守って下さっているような舞台挨拶の空気を、一気に和ませて下さいました。
ちなみに和田監督によると、主観撮影はカメラマンに向かって殴りかかるような構図になるので、主演のお二人だけでなくカメラマンさんも“体を張って”撮影することになるとか。
また舞台挨拶の終盤には出口さんによる主題歌「迷宮」の披露もあり、熱気あふれる舞台挨拶に華を添えて下さいました。
<作品情報>
私は絶対許さない
2018年4月7日からテアトル新宿にてレイトショー公開ほか全国順次公開
監督: 和田秀樹
原作: 雪村葉子(ブックマン社)
出演: 平塚千瑛、西川可奈子、隆大介、佐野史郎 ほか
主題歌: 出口陽 「迷宮」
©「私は絶対許さない」製作委員会
公式サイト http://watashihazettaiyurusanai.com/
八雲ふみね fumine yakumo
大阪市出身。映画コメンテーター・エッセイスト。
映画に特化した番組を中心に、レギュラーパーソナリティ経験多数。
機転の利いたテンポあるトークが好評で、映画関連イベントを中心に司会者としてもおなじみ。
八雲ふみね公式サイト yakumox.com
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