2018年04月19日

スピルバーグやりすぎだよ!『レディ・プレイヤー1』はエンタメの頂点を極めたトンデモ作品だ!

スピルバーグやりすぎだよ!『レディ・プレイヤー1』はエンタメの頂点を極めたトンデモ作品だ!



(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED 



スティーヴン・スピルバーグ監督の最新作『レディ・プレイヤー1』が、いよいよ公開となった。原作は、サブカルチャー要素を詰めに詰め込み、日本発祥のキャラクターも多く登場するアーネスト・クラインの小説『ゲームウォーズ』。スピルバーグの手による映画化が発表されると多くの期待が寄せられ、予告編がお披露目になると『AKIRA』の“金田バイク”やまさかの“ガンダム”登場に、胸が大きく高鳴った映画ファンも多いはず。
 
もちろん日本の有名キャラだけではなく、予告編だけでも『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『キング・コング』、『アイアン・ジャイアント』などなど数えきれないほどの有名タイトルが“参戦”していることが分かる。「これはもはやお祭り映画ではないか」と予感させる映像だったが、いざ本編を鑑賞すればお祭りどころの騒ぎではないことがはっきりする。
 

もはや“夢の競演”を超えたレベルの世界観


本作の大半の舞台となっているのが、VRの世界“オアシス”。ヘッドセットを装着すれば誰でもその世界を堪能することができるのだが、オアシスの創設者ジェームズ・ハリデーが亡くなり、莫大な遺産とオアシスの運営を継ぐ権利を賭けて3つの“鍵”がゲームステージに隠される。その鍵を巡るゲームステージの攻防がメインで描かれ、主人公のパーシヴァルやアルテミスといったアバターが活躍を見せてくれる。キャストはタイ・シェリダン、オリビア・クックといった若手俳優から、マーク・ライランスやサイモン・ペッグらベテラン俳優も出演。日本からは森崎ウィンが参戦している。



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とにもかくにも「やってくれたなスピルバーグ!」というのが偽らざる感想だ。しかもこれは本作を見終えての感想ではなく、序盤で展開される第1ステージのレースを“観ている最中”に抱いた感情であり、まさか序盤にして観客のエモーションを激しく揺さぶってくるとは誰が想像できただろう。

ただ単純に「デロリアンを出しました」「金田バイクを出しました」という“キメ”の画作りをしただけではない。その性能まで見事に輝かせる、破壊王マイケル・ベイ並みのド派手なカーチェイスが怒涛の如く展開し、さらには『ジュラシック・パーク』シリーズの真のヒーロー・T-REXの登場というセルフオマージュをもやってのけてしまう。もうこれだけで筆者としては、小学生時分に劇場で『ジュラシック・パーク』を鑑賞して感動を覚えた身としては、本作が“夢のような映画”になったのだ。
 
しかもそれだけではなく、エンパイアステートビルにあの黒々とした巨大なシルエットが掴まっているのを見た瞬間には、正直昇天するかと思った。それに至るまで、既に“スピルバーグ監督作品だからこそ”の映像体験を存分に味わっていたのに、ここへきてさらに“来る”のかと。その期待を、スピルバーグは決して裏切らない。観客が(無意識の内でも)求めているものを、スピルバーグは決して見逃さない。デロリアンに金田バイク、そして咆哮とともに摩天楼を疾駆するキングコング! 一体だれがこんなシークエンスを考え得るというのか? 本作はこれまでのスピルバーグ作品以上に序盤から観客が想像しうる世界のはるか外側を行き、豊饒なアイデアの深淵を見せつけていく。



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スピルバーグだからこそ成し得た偉業!


序盤でこれでもかと見せつけ、なおかつそれ以降も失速することのない物語を観客に常に見せてくれるのも、スピルバーグが「巨匠」と呼ばれる所以の1つだろう。エンターテインメントを知り尽くした上で、観客が飽きることのないストーリーを提示して的確に映像化する。こと本作にかけてはそのヴィジョンが明確なまでに示されており、三幕構成でいう二幕目以降もスピルバーグのスタイルはさらに高みを目指すことになる。とにかく膨大な数のサブカルチャー要素を配置し続け、さらには“世界そのもの”すら完全に取り込んでしまうその貪欲さには、誰もが驚きを隠せないに違いない。

実際に、筆者が試写で鑑賞した際にもあちらこちらから「マジかよ」「おいおいおい」といった声が自然と沸き起こったほどだ(筆者は驚きを超えて素で笑った)。スピルバーグの貪欲なまでの“クリエイターの本能”は映画にとどまらず音楽やゲーム文化にまで 波及しているので、本作をもってスピルバーグが真の意味でエンターテインメントを制したと言っても全く過言ではないだろう。



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裏を返せば、そんなチャレンジングな作品だったからこそスピルバーグは監督作として選んだのではないか。若手からベテラン勢までを的確に配置し、スピルバーグが本当に撮りたかったであろう映像の数々がついに形となり、観客はスピルバーグが頂点に立つ瞬間の “目撃者”となった。

さらに、華々しい映像を支えるストーリーそのものもしっかりと作品の屋台骨になっていて、オアシスというVRの世界を通して、またキャラクターが紡ぎ出す一言一言をもってして、なぜ私たちが「エンターテインメント」に惹かれるのかその答えを示してくれる。それは同時に、なぜスピルバーグがエンターテインメントを愛し続けるのかを知ることでもあり、計り知れないほどの愛情と造詣を目の当たりにすることにもなる。
 
アーネスト・クラインの原作はまさに“夢”が詰まった作品だ。映画化にあたりスピルバーグが監督の座に就いたことで、極論を言ってしまえば「欲望を詰め込んだ二次創作が当代最高の才能によって映像化された」という“オタク”にとっては宝くじが当るよりももっと大きな幸せを得た形だと言える。本来なら易々とは許可が下りないであろう版権問題をクリアした諸々が作品に登場しているのも、“スティーヴン・スピルバーグ監督”というクリエイターだからこそ、という面が大きいに違いない。なぜなら少なからずそれらの作品の数々が、映像界に革命を刻み続ける天才の影響を受けてこそ生まれ得たものであるかもしれないからだ。

スピルバーグ作品は、70年代~90年代に青春を過ごしてきた幅広い世代にとって常に身近に存在するものであり、バイブルとして大切にしているファンも多いはず。『ジョーズ』『E.T.』『インディ・ジョーンズ』『ジュラシック・パーク』と挙げはじめたらキリがないほどの有名タイトルを生み出し、さらにプロデュース作品を含めれば『グーニーズ』『グレムリン』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』といったタイトルまで、現代映画の手本となったスピルバーグの商業センスは計り知れない。
 
映画界を常に牽引してきた存在であり、その功績はあまりにも輝かしい。彼の手によって生まれ出たエンターテインメントが、時を経てスピルバーグの作品へと還元されること自体1つの“事件”ではないだろうか。それこそまさに80・90年代の先端を走り続けたスピルバーグだからこそ結実した夢の世界であり、VR=仮想現実だった。つまり、『レディ・プレイヤー1』という作品そのものがスティーヴン・スピルバーグという人物像をそのまま表しているのだ。



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音楽だって負けちゃいない!


『レディ・プレイヤー1』の音楽を担当したのは、スピルバーグ作品の常連ジョン・ウィリアムスではなくロバート・ゼメキス作品や『アベンジャーズ / インフィニティ・ウォー』などを手がけている名コンポーザーのアラン・シルヴェストリ。ウィリアムズ御大も近年は高齢ゆえに健康面に配慮しており、スピルバーグ作品と言えど短いインターバルでの登板は厳しいようで(ウィリアムズは直近の『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』に集中した)、代わりに白羽の矢が立ったのがシルヴェストリだった。
 
近年のスピルバーグ作品で、ウィリアムズ以外の人物が作曲したものとしてはトーマス・ニューマンの『ブリッジ・オブ・ズパイ』があったが、本作での作曲家の人選に関してはシルヴェストリがベストだったと断言できるだろう。勘のいい映画ファンならお気づきだと思うが、主人公パーシヴァルの愛車デロリアンと言えば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場する名車であり、同シリーズの音楽を手がけているのがシルヴェストリだからだ。繰り返しになるが同シリーズはスピルバーグが製作総指揮を担当しているので、まさにBTTFファンにとって感涙のタッグがついに実現したと言える。ちなみにデロリアンが活躍を見せる第1ステージのレースでは音楽は鳴り響かないが、スピルバーグによる気前の良い配慮なのかBTTFのテーマ曲がとある場面でアレンジされて使われているので耳を澄ませていてほしい。
 
さらに、シルヴェストリは1度聴けば誰もが鳥肌を立たせるであろうある名曲中の名曲にも挑んでいるのだが、これは映画を観れば1発で分かるシーンであり必ずや度肝を抜かれる場面なので楽しみにしてほしい。おそらくテンションが天井を突き抜けるほどぶち上り、「ありがとうシルヴェストリ!」と快哉を叫びたくなるはず。スピルバーグがエンターテインメントの枠を超越したように、シルヴェストリもまた映画音楽という枠組みの中でジャンルの超越に挑んでいるのだ。
 
また、本作は80・90年代のエンターテインメントに特化しているだけあって、シルヴェストリのスコア以外の既存使用曲にも注目したい。予告編にも使われているヴァン・ヘイレンの「JUMP」以外にも、ティアーズ・フォー・フィアーズの「Everybody Wants To Rule The World」やビージーズの「Stayin’ Alive」といったオールディーズファンにとって嬉しい楽曲がずらりと並んでいるので、どの場面でどの曲が使われているのかを聴き当てるのも楽しみ方の1つかもしれない。



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まとめ


 前述のように、『レディ・プレイヤー1』はもはや“お祭り映画”ではなく映画史に残る“事件”レベルの映画だ。80・90年代のエンターテインメントにリアルタイムで触れてきた筆者だからこそ断言できるが、スピルバーグは本当に「とんでもないこと」を成し遂げている。

なんの誇張でもなく、鑑賞直後に「生きている間にこんな作品に出会えるなんて」と映画界の神様に感謝したくらいだ。とにかく、本作は劇場鑑賞が必須であることは間違いない。「登場する特別出演タイトルを全部見つけてやろう」と考えている映画ファンも多いと思うが、安心してほしい。

映画界の神様はそんな生易しくはない。1度でその全てを追いきることは到底不可能だろう。ならばいっそのこと、心ゆくまで“おかわり”してほしい。それだけの価値が、この作品には十分にある。

(文:葦見川和哉)

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