『孤狼の血』が果たした実録映画路線、見事なまでの現代的再生!



 (C)2018「孤狼の血」製作委員会



1970年代の日本映画界において気を吐き続けていた東映の実録映画路線。

義理と人情に生きる着流しやくざが悪しきやくざをやっつける任侠映画ではなく、善も悪もお構いなしに、アウトローと呼ぶにも時におぞましく思えるほどの、ひたすら暴力の連鎖と対峙しながら赤裸々に人間の業を体現していくものです。

深作欣二監督の『仁義なき戦い』(73)を筆頭に人気を博したこの路線、しかしながら70年代後半の日本映画大作路線の影に隠れるかのように次第に廃れていき、90年代以降は映画ではなくオリジナル・ビデオのほうへ移行していった感もあります。

そして2018年の今……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.305》

久々に身も心も熱くヒリヒリさせられる東映実録路線の再生たる快作『孤狼の血』を見てしまいました!

対立する暴力組織、そして警察の
三つ巴の攻防!


『孤狼の血』は柚月裕子の同名小説を映画化したものです。

舞台は1988年の広島県の(架空都市)呉原市。

長年対立し続けてきた広島の巨大組織・五十五会系の加古村組と地場の尾谷組の諍いが、1974年以来久々に表面化。

加古村組関連の闇金会社社員が失踪し、これを殺人事件と睨んだ広島県警刑事二課のベテラン大上章吾巡査部長(役所広司)は、新米の日岡純一巡査(松坂桃里)とともに捜査にあたります。

しかしこの大上刑事、双方の組織の懐に深く介入して久しい、なかなかにしたたかで型破りなダーティ刑事で、正義感に燃える日岡は何かと巻き込まれてはひどい目に遭いつつ反発していきます。

一方で、大上には何やら“黒い疑惑”があり、警察上層部からも睨まれているようです。

加古村組と尾谷組、そして警察の三つ巴の確執は次第にエスカレートしていきつつ、さまざまな謎が解き明かされていくのですが……。

警察と暴力団の赤裸々な闘いを描いた映画としては、『仁義なき戦い』シリーズの深作欣二監督による『県警対組織暴力』(75)が有名ですが、本作もそれに倣いつつ、平成の世も終わろうとしている今の日本で、組織暴力の構図を実録路線として復活させる意義みたいなものを見事に捉え得ています。

それは昔も今もさまざまな局面で展開され続けている凄惨な暴力の連鎖から、いつしか目を背けて明るく楽しい世界へ埋没していきがちな日本映画界の中、今一度人間が犯す暴力とは何なのかを徹底的に対峙していこうという作り手の勇気ある姿勢にほかありません。



 (C)2018「孤狼の血」製作委員会



ダーティ刑事を快演する
名優・役所広司の“負”の魅力


もっとも、本作の暴力描写はある意味70年代の実録映画をはるかに凌駕したおぞましさで見る者を圧倒します。

冒頭、いきなり豚小屋でのリンチ・シーンから映画は始まりますが、日頃明朗快活なものばかり親しんできている人にはショッキングすぎて正視できないかもしれません。

一方で映画ファンには、このシーンが佐藤純彌監督のカルト的傑作『実録私設銀座警察』(73)のオマージュであることも理解できるでしょう。

そう、『孤狼の血』は東映実録映画をリスペクトすることから発案されているかのような趣もあります。

監督は『凶悪』(13)『日本で一番悪い奴ら』(16)など、人間と犯罪と暴力について追及し続ける俊英・白石和彌。

ピンクからヴァイオレンスまで数々のアナーキーな映画群で今なお人気を博す故・若松孝二監督に師事したキャリアを持つ彼は、70年代に東映実録路線と人気を二分した日活ロマンポルノのリブート・プロジェクト作品『牝猫たち』(17)も撮っており、当時の熱気を再現しつつ、今の時代に即したものを構築することに長けた存在であるともいえるでしょう。

そして主演の役所広司!


 (C)2018「孤狼の血」製作委員会




彼は90年代に東映がヤクザ映画の復権をめざした『極道黒社会』(93)にも主演していますが、それ以上に細野辰興監督が大映で撮ったヤクザ映画の二大傑作『大阪極道戦争しのいだれ』(94)『シャブ極道』(96)でのすさまじい存在感は今も語り草となるほど。

特にタイトルからして既にアブナい(!)『シャブ極道』でのシャブとともに地獄を渡り歩き続けた破滅的ヤクザの鬼気迫る姿は、もう見終わってしばらくは何もできなくなるほど強烈なインパクトを与えたものでしたが(ちなみにこの『シャブ極道』、『Shall we ダンス?』と同じ年に公開されています……)、本作の役所広司もまた久々にそういった人間の“負”の魅力を醸し出す名演を示しています。

対して、新米刑事に扮した松阪桃李の初々しくもナイーヴな個性の発露も実によく、特に今年は『不能犯』『娼年』と大当たりの作品が続いているだけに、おそらく年末の賞レースなども“2018年の顔”として大いに期待できるのではないでしょうか。

東映の試写室で本作を圧倒されながら鑑賞していくうち、ふと、そういえばここでヒリヒリするような熱く危険な映画を見たのは何以来だろうか?……などと想いを馳せてしまいましたが、オールド・ファンにはそういった感慨を呼び起こしてくれるものがあり、また実録映画を見たことのない若い世代には、こんな世界があったのか⁉ と驚嘆しながら画面から目が離せなくなること必至。

ここはひとつ、大いに火傷しながら、暴力の連鎖がもたらす人間の赤裸々なサガをご覧になってみてください!

(文:増當竜也)

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